【懸賞金クエスト】
このまま気まずい雰囲気でじっとしていたくないし、とりあえず出かけるか。
「ち、ちょっと俺、クエスト見てくるわ」
そう言って、俺は家から抜け出すことにした。
「マスター、私もいく」
リンのその言葉を断るわけにも行かず、俺は2人でギルドに向かうことにした。
いく途中で案の定色々と訊かれたが、適当に答えておいた。
ギルドに着いて、中に入った瞬間俺は異変に気付いた。
なんだ……? 周りの冒険者達が俺を見てる?
入るまで割と賑やかだったように感じたが、俺が入るなり、みんなが俺の方を恐れるようにしてみている気がする。
「おい……あれって」
「ああ、噂のアイツだ」
「あの噂マジなのか?」
なんだか冒険者達がヒソヒソと噂話をしている。なんだっていうんだ。
居心地の悪さを感じながらも、俺はそのまま歩いて依頼掲示板の元へ行く。
「マスター、なんだかみんなの様子が変」
「お前も気づいてたか。やけに俺らのこと見てるな。訳がわからん」
「あの顔色は、マスターに少し恐怖してるように見える。何かした?」
「してないよ。話したこともない」
「なら、何故だろう」
「さぁな。ま、クエスト見ようぜ」
えーと、どんなクエストがあるかな。
そう思って見てみる。そしてその時気付いた。そういえば俺、Aランクになったんだっけ。条件がAランクのものも受けられるのか。
Aランク、Aランク。あ、これとかどうだろう。
見つけたのは、レイテスカラと呼ばれる魔物の討伐クエストだ。これは前にベッドの素材になった魔物だなぁと、見ていたら知らぬ男に声をかけられた。
「なぁ、あんたがフリードか?」
声をかけてきたのは20代後半くらいの若い男だ。彼が声をかけてきた瞬間、静まっていた周りの冒険者達がざわめき出した。
「ええ、俺がフリードですけど」
「そうか。俺はレナートだ」
「そうですか。それでレナートさん、何用で?」
「それなんだが、俺と一緒にクエストを受けないか?」
「クエスト? なぜ俺と?」
「なに言ってるんだ。今やあんたは冒険者じゃ有名だよ。短期間でAランクまで上り詰めた『天才』だってね」
天才とは、これまた照れるな。
「マスターが天才なのは当然。天才どころか神、そう、神」
と、リンが付け足すようにそう言った。
最近リンが若干おかしくなってるような。
「俺はこれでもAランクだ。一応そこそこ有名だと思ってたんだが……その様子じゃ知らなそうだな」
そうレナートさんが言った。
「ええと、すみません。それでレナートさん、俺にどんなクエストを?」
「これだ」
そう言って彼が近くにあったテーブルに広げた依頼書にはこう書いてあった。
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『特A級賞金首』
氏名:ルークナイト・サンタナ
種族:獣人
概要:これまでに確認されたもので300を優に超える無差別的殺人を犯している。最初に発見された事件は9年前。以来断続的に犯行の痕跡だけ残して、殺人を続けている。
特徴的な事として、殺した相手には身体のどこかに必ず十字の爪痕を残すという事が挙げられる。
捕らえる、もしくは遺体を世界騎士団に持ってきたものには賞金として1000万デリーを支払う。
♦︎
氏名が書いてある横には、似顔絵が描いてある。目を惹くのは長くまっすぐな緑の髪。そして顔立ちの整った男の顔だ。頭の上には獣人特有の耳が生えている。
こんなやつ全くもって見たことはないが、男でこんな長髪がいたら記憶には残りそうだな。
それにしてもこの特徴……まさか……。
「これ、懸賞金クエスト、ですよね?」
俺はそう言った。
そう、これは懸賞金クエスト。国、もしくは連合から出されたクエストだ。凶悪な犯罪者を捕まえるためのもの。
普通のクエストよりも危険度が高く、ギルド側も責任を負わないという特殊体系のため、Aランクの冒険者達しか受けることはできない。初めて見たよ。
「そうだ。限られたものしか受けることができない懸賞金クエスト。それをフリード、あんたとやりたい」
「い、いやでもこいつずっと捕まってないんでしょ? やるって言ったところで……」
そうだ、懸賞金クエストは、ギルド管轄ではないため受注などはない。
受注はなく、便宜上Aランクの冒険者しか出来ないように、依頼書はギルドに頼まないと貰えないが、後は自由だ。犯罪者を捕まえることが出来れば期限などない。逆に言えば「捕まえるぞー」と言って始めるようなクエストでもないはずだ。
そんなことをしてるのは懸賞金クエストを生業とする特殊な冒険家だけのはず。
「わかってる。俺は情報を手に入れたんだ。このルークナイトの目撃情報をな」
「その言い振りだと、そいつはこの辺りに?」
俺はレナートさんの目を見た。すると彼は口元を歪める。
「察しがいいな。つい先日そいつが東のメイルア街に現れたらしい」
「それは本当なんですか?」
「ああ。確かな筋から手に入れた情報だ、間違いねえ」
「そんな貴重な情報話して良いんですか?」
「信頼料金みたいなものだな。それに……」
ここでレナートさんは、辺りを見渡したあと何か思わせぶりな間を持たせたが、何も言わずに続けた。
「……どうだ? 行ってみる価値はあると思うが。1千万だ」
まぁ確かに金銭面では魅力的な話ではあるが。それと、気になることもある。
「マスター、以前もこれで騙された」
リンが俺の顔を見てそう言った。
た、たしかに。
「そういえばそうだ。ゴブリンの時もこんな感じだったな」
「おいおい、俺をゴブリンと一緒にするつもりか? 騙すつもりなんてないぜ。ほら、これ見ろよ。金のプレート」
そう言って彼は首に下げているAランクである証、金のプレートを見せつけてくる。ちなみに俺はまだ持ってない。
まぁ、ギルドの保証もあるしそこまで疑う必要もないか。
「うーん、そうですね。じゃあ考えるんで一旦持ち帰らせてください」
「わかった。じゃあ明日、今と同じくらいの時間にここに来てくれ。あと敬語はいらないぜ、よろしくなフリード」
レナートは手を差し出してきた。
「わかった。よろしくレナート」
俺も手を出して握手をした。
「レナートが噂のあいつと!」
「何者なんだあのフリードって奴は!」
「とんでもねぇ奴って事は間違いねえよ」
周りの冒険者達が騒いでいる。
俺はざわつくギルド内から出た。
「マスター、あのクエスト受けるの?」
リンが歩きながら尋ねてきた。
「危険そうだから、別に受けるつもりはなかったんだが……気になることがあってさ」
「何?」
「犯人の特徴に、死体に十字を刻むっていうのがあったろ? 俺さ、サイドと一緒に風呂入る事もあるからわかるんだけど……」
そうだ、俺は見たことがある。サイドも自分で言っていた。
「あいつの胸には十字の傷があった――!」




