【不潔】
「不潔……マスター」
次の日、といっても昼時になってから俺は起きて風呂に入ったあとリビングに向かうと、リンが俺に向かってそう言った。
「いや……その」
何も言い返せないな。
「にゃはは。ずっとリズの声が聴こえてきてたのだ」
テンネが笑いながらそう言った。
筒抜けかよ。
「盛るのは勝手だけど長すぎよ。自重してくれないかしら? サイドが昨日ずっとうるさかったのよ」
レモンが、隣にいるサイドの頭を小突きながらそう言うと、サイドは目を光らせていた。
「ぐへへ。えっちだ、えっちだ」
「ほら、サイドの語彙力が死んじゃったでしょ? これしか話せなくなっちゃったじゃない」
「す、すまん」
とりあえず謝っておこう。
「ご主人はえっちだからねぇ。仕方ないよぉ……けどあんなにえっちな声出されたらノンも興奮しちゃうなぁ」
ノンは、俺の身体を舐め回すようにヨダレを垂らしながら見てきた。
こ、こいつも危険だ。
「全くどいつもこいつも狼狽えおって、情け無いのぉ。サシャなぞ耳が真っ赤じゃ」
ホムラが腰に手を当てて立ち上がると、座っているサシャに向かってそう言った。
「ぼ、ぼぼぼぼ僕は別にそんな、興味なんてないです……え、えっちなことなんて、うん」
「えっ? サシャは昨日私と一緒にフリードの交尾覗き見したじゃにゃいか」
「ちょおおおっ!? テンネちゃん!! それ内緒って……! してない! してないですからね!? フリード君!!」
テンネの発言に、サシャは腕をブンブン回して否定した。顔が真っ赤だ。
「お、おう。けどホムラは流石長生きしてるだけあって落ち着いてるな」
「当たり前じゃ。妾を誰じゃと思っとる。九尾の妖狐じゃぞ、えへん」
「じゃ、ホムラはどれくらい経験あるの」
リンが、ホムラに向かってそう尋ねると、自信満々だったホムラが一時停止した。
「……そ、そんなの数え切れないのじゃ!」
「す、凄い。私、ホムラ舐めてた」
「ふ、ふん。リンよ、これを機に妾への尊敬を深めるんじゃな」
「わかった、改める。それよりマスター。リズの言ってたこと、本当?」
「なんだよ、リズが言ってたことって」
リンが昨日様子見に来てた時に何か言われたのか?
「マスターは、リズの身体に夢中だから、私達に興味ないって」
「そ、そんな事言ったのかあいつ。そんなわけないだろ、お前らの事がどうでも良くなることなんてないよ」
「良かった」
リンは、そう言うと俺に抱きついてきた。リンがこんなことするなんて珍しい。安心しきっている顔を見ると、結構不安だったことがわかる。
「あら、けどフリードが私の身体に夢中だったのは間違いないわよ?」
いい感じに纏まりそうだったのに、背後からリズの声が聞こえた。どうやら起きて彼女も風呂に入ってきたようだ。
「リズ……! マスターを誑かさないで!」
「誑かす? 違うわ。フリードと私は通じ合っているの。それは決まってる事なのよ。遥か昔からね。運命なの」
「違う。ちょっと淫魔で、技術があったから、マスターを誑かしたんでしょ!」
「ふふーん。お子様ね。羨ましいんでしょ? フリードと繋がりがある私が。大人な私が」
お前も昨日まで処女だったろうが。と、突っ込むと絶対ややこしいことになるので黙っておこう。
「う、羨ましくなんか……ない」
「嘘ね。知ってるわよリン。あなた、隠れてエロ本買ってるでしょ。それを興味津々で読んでるわね!」
衝撃の事実だ。リンが知識欲旺盛だとは知っていたけど。
「そ、そんなの知らない! 私はそんなの買ってない」
「えっ? リン、この前私と交尾の本一緒に読んだじゃにゃいか。私も興奮したのだ」
「ちょ、テンネ!! それは黙っててって……!」
さっきからテンネがどんどん暴露してるんだが。まぁあいつにデリカシー求める方が難しいよ。
「ふふ、だいたいね。フリードのこんな『匂い』を嗅いでおきながら、少しもエロい気分にならないなんて、あり得ないのよ!」
おい、俺の体臭そんなに匂うのか? 魔人にはいい匂いだとか言ってたが、周りの魔人にはみんな気づかれてたのかな。恥ずかしい。
「そ、それは……そうかもしれない」
「けど、フリードは私の物だからあなた達は手を出しちゃ駄目よ。まぁ出したところで私の快感を知ってしまったフリードの心を奪うなんて無理でしょうけどね! ふふ、はーっはっは!」
「ぐ、ぐぬぬ……」
リズは、高笑いしながら踵を返して部屋へと戻っていった。
「私は寝るわ。何せ昨日のフリードが、激しかったから疲れちゃって……」
頬を染めて俺を見ながらそう言ったリズ。
激しかったのはお前だろが。
昼間から異様な雰囲気になってしまった。どうしてくれるんだよ、リズ。




