【看破】
遅れてすみません……頑張ります……
「ミセタが攻めてきてるって本当か!?」
ギルド内の冒険者の一人が、先ほど現れた彼に尋ねる。
「あ、ああ。どうやらこの騒ぎの主犯がアイデンの王族らしくて、それを理由にここに攻め込んでくるらしい」
「主犯が王族!? マジかよ! それじゃ本当に戦争になるじゃねえか!」
今の話は本当なのか?
王族が犯人だとするなら大変なことになる。リールラに確かめれば簡単な話ではあるんだけど……会えるわけもないしな。
「向かってきてるのはエルフィリオ第一王子率いる軍隊らしい。数時間もすればここは戦場になる。早いところずらかった方がいいぜ! 俺もそのつもりだ。じゃあな!」
情報提供者の彼はそう言って、ギルドから出て行った。
彼が出て行き、あたりはざわつき始めた。
「お、俺たちも早く逃げよう!」
「で、でもここで国のために戦ったら褒賞がもらえるんじゃ!?」
「馬鹿野郎。死んだらそんなもん意味ねーだろが。命の方が大事だ!」
「そ、そうか。そうだな」
そんな会話をして、次々と男たちはギルドから出て行った。
「すっごい騒ぎになり始めたのだ。私たちはどうする? フリード」
そうテンネが俺に尋ねる。
「決まっておろう。妾たちも逃げるぞ。くっく、妾を封印しおったこの国の崩壊する様が見れぬのは残念じゃがな」
ホムラがそう言った。まぁ確かに逃げるのが一番正解か。
「そうね、とりあえず行くなら東のメイルア街とかいいんじゃない?」
リズがいつもと変わらぬ様子でそう言った。
メイルアはアイデンの中でも大きな街の一つだ。確かに王都がこんな状況ならそれもいいかもしれないが。
「それにしてもお前ら随分と落ち着いてんな……結構一大事だと思うんだけど」
「騒いだって仕方ないでしょ。こういう時こそ落ち着かないと」
「そうか……そうだな」
状況はだいたいわかった。
なら俺たちも家に戻って王都から脱出する準備をしないとな。
「よし、家に戻って準備しよう」
俺はそう言って、ギルドから出た。
家に戻ると、他のみんなも異常事態には気づいていた。
「あ、あの、フリード君。この騒動は何?」
サシャが不安げな様子できいてきた。
「どうやら王都で戦いが起こるらしい。俺たちもさっさと逃げることにした。準備をしよう」
「ええ!?」
俺は他の奴らにも事情を説明して、家を出る準備をさせたが、
「私は家から出ないわよ」
レモンはそう言ってきかない。
「いや、んなこと言ったってここも攻撃されるかもしれないんだぞ」
「でもここは私の家だもの。まだやり残したこともあるのに逃げられないわ」
「僕も同じ気持ちだよ」
「サイドまで、お前ら――」
「――失礼する」
玄関から聞こえた声は、知らぬ男の声だった。とっさに身構えて振り返ったが、そこにいたのはアイデンの兵士だった。二人いる。
彼らは俺の方を見ると、頭を下げる。
「フリード殿ですね。お迎えにあがりました」
「お、お迎え? なんの話です」
なんだか雲行きが怪しくなってきてるぞ。
「リールラ王女が貴方をお呼びです。火急のこと故に理由は聞かずに来て欲しいと」
「い、いやそんなん言われても……」
「では、こちらに」
「え? ちょ、おい」
二人は俺の腕をがっしりと掴むと、引きずるようにして俺を家から連れて行き始めた。
くそ、これは無理やりでも連れて行けと命令されてるな。仕方ない、いくか。
「面白そうじゃ。妾も行くぞ」
「えー? ノンたちは何してればいいの?」
「お主らは、ここで待機じゃな。妾達が帰ってくるまで待っておれ」
「そんなのつまんないよぉ。ノンも行く」
そんなわけで、ホムラとノンも付いてきた。他の奴らも付いてきそうだったが俺が止めて、家で待機させた。
俺たちは城の中へと入り、そしてそのまま玉座がある部屋へと連れていかれたのだった。
そこには、玉座に座る威風堂々とした王の姿があった。短い金の髪を携え、王ではあるがガタイのいい体は戦いを知っている事を匂わせている。
部屋の中にはリールラ王女も立っていた。俺を一瞥するとニコリと笑う。
「さて……その方ら、大儀であった。下がって良いぞ」
「「はっ」」
王がそう言うと、俺たちを連れてきた兵士達は、部屋から出て行くと、扉を閉めた。これで部屋の中にいるのは王と王女と俺たちだけだ。明らかに護衛が不足している。異常な光景だぞこれ。
王は俺をじろりと見ると、口を開く。
「貴公が、フリード殿かな?」
「……は、はい」
「この度は急に呼び出してすまない。しかし事態は急を要していてね。一刻も早く来てもらう必要があった」
「いったい……私に何の御用でしょうか」
「今、ミセタ国が我が国に攻め込んできているのは知っているかな?」
「ええ、まぁ」
やっぱりその話だよな。まぁその話じゃなきゃ逆に怖いけど。
「噂では我が国、というか我ら王族が仕掛けた事になってるがあれは勿論デタラメだ。だが世間はそう思っていない。してやられたよ。戦いは避けられないだろう。国を守らないといけない。だが、厄介な事になっていてね」
「厄介な事、ですか……?」
「ああ。大事な戦力である騎士団が先ほど無断で出発してしまったし、高ランクの冒険者も訳あって今国に殆どいない。戦う兵士はいるにはいるが、心許ないのだよ。わかるかね?」
「なるほど……」
なんだかやっぱり嫌な予感がするな。
「そこでだ。異例な速さでランクを上げる冒険者。先の妖狐討伐でも手柄を残したフリード殿に、ご助力を願おうと思ってね」
「そ、それは……光栄な事ですね」
こう言うしかないだろ。マジかよ、くそ面倒な事になったな。
「何故か貴公は褒賞をまだ貰ってないだろう?」
そう、俺はあの時の褒賞を受け取ってない。褒賞を受け取ると、授賞式もあるらしく、嫌でも目立つ。目立ってしまうと、俺が魔物使いだとバラす輩もいるかもしれない。だから目立つ事を避けるためにしらばっくれていた。
「それは……申し訳ないです」
「まぁそれはいいのだ。問題は今この私の願いを聞いてくれるかどうかだよ。さぁ、どうなのかな? フリード殿」
王は俺を見て、ゆっくりとそういった。
これって断るという選択肢は存在してるのか?
「フリード。私からもお願いするわ。今は一人でも多くの力が必要なの」
「リールラ……姫」
おっと危ない、呼び捨てにするところだった。
「ふむ……なるほどのう。つまりじゃ、ここで妾達が見捨てれば、この国は滅びるやもしれぬという事じゃな。願っても無い。断るのだフリード」
「お、おい……ホムラ!?」
そんな危なっかしいことここで言うなよ。
ちらりと王を見ると、彼は俺ではなくホムラを見ていた。
「9本の尾……やはりか……」
王はため息をつく。
「それに羊人族……。信じたくはないが、やはりそうとしか考えられんな」
「お父様?」
「あまりこういう手は使いたくないんだがな……」
王は、俺の方へと視線を戻すと、冷徹な目で淡々と話す。
「悪いが貴公に断る選択肢はない。というより今無くなった、というべきか」
「なんの……話です?」
「私が何故兵士も入れず、この部屋で貴公と話す事にしたかわかるか? それほどに重大な事を話す可能性があったからだ。そして今確信した。フリード・ニルバーナ……貴公は――」
王は少しの間を開けて、こう言った。
「――魔物使いだな?」




