【動揺】
訳が分からぬまま、俺はギルド内の他の人たちからも情報を聞いて整理した。
つまり、昨日の夜からミセタ国でアイデン国民による襲撃が起きているらしい。いや、もはやその勢いは襲撃ではなく侵略と言って過言ではないようだ。
「一体全体何がどうなってんだ?」
「にゃんで、エルフ国にゃんか襲ってるのだ?」
「俺にも全く分からん」
そんな予兆は一切なかった。それにギルド内にいる他の冒険者も全く把握していない。
「フリード、これは何やらきな臭いのう。戦の匂いがするのじゃ」
「あぁ……まさか何か裏で動いてるのか?」
「だからといって私たちに出来ることなんてないわよ?」
リズの言う通りだ。ただ何が起きているのかくらいは知りたい。
そうなってくると……騎士団に聞くしかないか。ヴィーナスなら、取り合ってくれるかもしれない。
「よし、一旦城に向かおう」
俺はギルドを出て、城の方へと向かった。すると城に近づけば近づくほど、あたりの住民達が騒ぎ出していることがわかる。情報が広まり出しているんだ。
少し駆け足で城に向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。城門の前に、甲冑を着た騎士団達が整列しているのだ。
「じゃあこれから向かうよ!!」
「「「はっ」」」
先頭にいる筋骨隆々な男がそう言うと、騎士団員達は彼に従い歩き始めた。馬に運ばせている荷台には大量の荷物が積み込まれている。
並んでいる中にヴィーナスを見つけた。ずっと見ていると目があった。すると彼女は隊烈の団員に何か言った後に、俺の方へと向かって来た。
「フリードちゃんじゃん。どしたん?」
「どしたん? ってこっちのセリフだよ! 何この異常事態は!」
「あーこれね。実際まだうちらも把握できてないんだけど、大変な事になってるらしいんよ。ミセタ国で起きてる無差別的同時襲撃事件で、今あっちの騎士団と軍が動いてて、どうやら戦争行為だと見なされてるらしいの」
「戦争行為!? なんでだよ、たかが一冒険者の突発的な襲撃事件じゃないのか?」
国家規模で争うような事態なのか?
「言ったっしょ? 『無差別的同時』って。これ、ミセタ国の様々な町や村で同時に起きてるんよ。だから計画的な侵略行為、テロ行為だと見られてるんよねー」
「えっ……じゃあまさか本当に戦争するつもりなのか?」
「まさか。そんなはずは無いよ。いま戦争したところでメリットはないし、そんな予兆もなかった」
「じゃあなんで?」
「わかんない。とりあえず今、うちらはロベルト団長が遠征から帰ってきて、指揮してくれてる。今からうちらはミセタに行って、現場調査を含めた事態収束を目指すの」
ロベルト団長、前言ってた変わった団長か。それにしても思ってたより大変な事になってるな。
「じゃあ王都は警備が手薄になるのか?」
「んー、まぁ確かに……そうだね。けどある程度は残してるし、軍隊もいるし、それよりも一刻も早く事態の収束をさせる事が先決みたいよ」
「かなり切羽詰まってるな……」
「うん。今回はうちも正直なところ焦ってる……嫌な予感がするよ。まぁとりあえず、そろそろうちも行かなきゃいけないから」
「あぁ、頑張れよ」
小走りで隊列へと戻っていくヴィーナスを見送って、俺は思案にふけった。
さて、どうなるんだこれは?
「まさか戦争になったりしないわよね?」
リズが不安げな瞳でそう尋ねてきた。
「にゃんだ? 戦いか?」
「ふむ……向こうのエルフどもの出方次第じゃの」
テンネとホムラもそう口にした。
「戦争になって欲しくはないが……」
俺はそう思いつつ、その場から離れて再びギルドの方へと戻った。とにかく新しい情報が欲しかったからだ。ギルドの中に入ると、相変わらず冒険者達が慌てふためいている。
とりあえず俺たちは1つのテーブルにつき、腰を落ち着かせた。すると後ろに座っている冒険者3人達が何やら大声で話している声が聞こえてきた。
「こりゃあもしかして戦争になんじゃねえのか!?」
「そんなことになったら大変だ。ミセタが動けば近隣国も黙ってないぞ。大義は向こうにある。バルジ国やラグン国も攻めてくるかもしれねえ」
「そうなったらアイデンなんてひとたまりもねえじゃねえか!」
「だからやばいんだ。今、王都は騎士団が出払ってるし、高ランクの冒険者もいねえ。襲われたらおしまいだ」
ん? 今のはどういうことだ?
「あの、すみません。今の話どういうことです?」
俺は気になったので、振り返って話しかけることにした。
「あ? なんだあんた」
「ただの冒険者ですよ。今ってここに高ランク冒険者いないんですか?」
「あんた知らねえのか? 昨日騎士団から出されたBランク以上専用の緊急クエスト。難易度の割に報酬がいいからって、ここにいた殆どの奴が受けて、今は南のバジル国に向かってる筈だ。だからいねーんだよ」
「じ、じゃあ今王都に来られたらまずいじゃないですか!」
「だからそう言ってんだろ!」
なんてことだ。かなりやばいんじゃないかこの状況。
これでミセタが本格的に攻めてきたら……。
そう思っていた時、ギルドの扉が叩かれるように強く開いた。皆の注意がそちらを向く。そこに立っていたのは、普通の冒険者の男だった。彼は息を荒げて肩を上下させている。
「ミ、ミセタの軍隊が攻めてきてるぞぉっ!!」
彼はそう叫んだ。あんなにうるさかったギルドが、静まり返ってしまった。
火種が熱く燃えてようとしている。




