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【魔物嫌い】


「これで、よし……と」


 俺はハサミを置いて、額の汗を拭った。めちゃめちゃ際どいところもなんとか達成したぜ。


 途中から一体俺は何をやっているんだろう、と自問自答していたけどなんとかやり終えた。


「はぁはぁ……気持ちいぃ……」


 ノンはといえば、かなり気持ちよかったらしく、だらけきった顔をしている。

 そんなこんなでとりあえずミッションコンプリートした俺は、汗を流すためにお風呂へ入った。

 風呂から上がり、水を飲むためにリビングへと向かうと、部屋から出てきたリズとばったり出くわした。


「あらフリード」


 なんとなく暇だったので、リズとそのままリビングで昔話をして盛り上がった。


「はっはっは、あの時のロイヤーは傑作だったなぁ…………なぁ、ロイヤーってなんであそこまで魔族を毛嫌いしてるんだ?」

「あぁ、その事ならロイヤーが村を出る前に、彼に直接聞いたの。フリードは、ロイヤーにお兄さんがいたのは知ってる?」

「なんか小さい頃に聞いたな。優秀な人だったって聞いてたけど」

「ええ。けど、彼は殺されてるの、魔物にね……」

「えっ?」



 ♦︎


 今から10年前。フリード達は、7歳だった。


「おらおらー! 勇者様は強いだろー!」

「お、おのれー勇者め!」


 木の枝を持ったロイヤーが、同じく木の枝を持ったフリードと戦っていた。


「これで終わりだー! 最強光スキル! シャイニングだ!」

「ぐああああーやられたー」


 ロイヤーが手をかざして、フリードはその場に倒れ込んだふりをした。

 

「おー終わったか? じゃあ俺次勇者な」


 近くで寝そべっていたゾックがそう言って立ち上がる。


「あっ、ちょっと待て魔王幹部A。まだ僕の勇者勝利宣言が終わってないぞ」

「いいよもうそれ聞き飽きたし。だいたい幹部Aっておかしいだろ。俺ら3人だけでBがいないのにさ」


 ロイヤーの不満に対して、ゾックが冷静にそうつっこんだ。


「まぁいいじゃんゾック。どうせお前も勇者やったら勝利宣言するんだろ?」


 倒れていたフリードが起き上がってゾックにそう言った。


「……まぁ、そりゃそうだけどさ」

「けど良いよなー、俺も勇者とかなってみたいよ」

「魔王もいない時代にどうやって勇者なんかなるのさ」

「確かになー。けどロイヤーの兄ちゃんは騎士団員なんだろ? 凄えよなぁ」


 ゾックがロイヤーにそう言うと、ロイヤーは誇らしげに胸を張った。


「まぁね。僕の兄さんは凄いから。今度西のミセタ国に王様の護衛としていくんだぜ?」

「凄え! ちぇ、俺もそういう兄弟が欲しかったぜ。なぁフリード?」

「んん? そうだなー」


 そんな会話をしつつ、彼らは遊び、頃合いを見て家へと帰った。

 ロイヤーが家に帰ると、珍しく兄のロールがいた。


「兄さん!」

「おお、ロイヤーか。元気にしてたか?」


 ロールは20歳で、ロイヤーとは歳が13も離れていた。

 彼ら家族は久々の再会に歓喜し、食事をとりながら大いに話が盛り上がった。


「ところでロール。今度お前はエルフ国へ護衛としていくそうだな?」


 ロイヤーの父が、そう尋ねた。


「はい。重要な役目です。果たしてみせます」

「あそこはエルフ族の領域、つまり魔族の領域だ。あいつらは今ラグンとも戦争しているし、同盟を結んでいるとは言え、腹はわからん。くれぐれも気をつけてな」

「はい、もちろんです」


 そう言って護衛へと向かったロールは、二度と家へ戻ることはなかった。

 ロイヤーの家族が、彼の死を告げられたのは出発してから1週間も経ってからだった。彼の死因については、道中で王を襲おうとした魔族と戦い、その時の傷によるものだと説明された。

 家族は悲しみに明け暮れた。ロイヤーは優しかった兄、尊敬する兄を死に追いやった魔族を憎むようになった。


 ♦︎


「――簡単に言うとこんなところね」


 リズの話を聞いて、俺は初めてロイヤーがそんな状況に陥っていたことを知った。

 あいつは、それから10年間俺たちにそんな素振りを見せていなかったのだ。ひたすらに、魔族への憎しみを蓄えていたのか?


「だからあそこまで魔物を……」

「彼は王都にいる亜人排斥派の集会なんかにもよく行っていたみたいよ。思想はそこで固まっていったのかもね」

「なるほどな。ロイヤーがどこかおかしいと思っていたのはそういうわけか」


 だから俺も少し気にかかっていたんだ。なるほど、腑に落ちたよ。

 俺とリズは、そんな話をして、その日を終えた。


 そして次の日俺たちは、思わぬ知らせを受けることになる。俺はいつものように、テンネとホムラ、それにリズを連れて、ギルドへと向かっていた。するとそこには、慌ただしいギルド職員と冒険者達の姿があった。


「にゃんでこんなうるさいのだ?」

「わからん……」

「これはただ事ではないのぅ」

「聞いてみたらいいんじゃない?」


 リズに言われるがまま、俺は忙しそうなエリナさんを見つけて、話しかけてみることにした。


「あの、エリナさん」

「えっ? あ、フリードさん」

「これ、どうしたんですか? やけにみんな騒いでますけど」

「聞いてないんですか!? 大変ですよ! アイデンの冒険者達が、ミセタ国のエルフ達を襲っているって! 被害が甚大です、こ、このままじゃ国際問題ですよ!!」


「――はっ?」


 どうやら大変な事態になっているらしい。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
おつかい頼まれたので冒険してたら、いつのまにか無双ハーレムしてました〜最強民族の【はじめてのおつかい】〜 >
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