【スライム娘、スラリンリン】
「君は魔人になったんだ」
俺は目の前のスライムにそう告げる。
彼女はぽかんとしていたが、自分の体を見て驚き始めた。
「これは、嘘。魔人になっている。あなた、何をしたの?」
「スキルを使ったのさ。それで君を魔人にした」
「なんのために」
「あのままだと殺されそうだったからだよ。君には今から俺に従ってもらう」
「そう、わかった」
「わかったの!? 理解早くない!?」
もうちょっと抵抗とかそういうのするもんじゃないのか?
「別に。魔人になれるというのは光栄なこと。それをしてくれたあなたは私のマスターということ」
「にゃんだこいつ、変なやつだにゃ」
「テンネにだけは言われたくないと思うぞ」
スライムの代わりに俺が突っ込んでおいた。
「その子も、元魔物?」
「そうにゃ! 私はテンネ! フリードから貰った名前だ。天使のような猫でテンネなのだ! へへん、羨ましいか?」
俺が恥ずかしくなる説明だなそれ。
「名前、なるほど。羨ましい。自分にも欲しい。マスター、つけて」
「え、俺か。わかった。えーと」
スライム、青い、透明、スラリン、おっぱい、おっぱい、おっぱい大きい。
「よし、お前はリンだ!」
「リン。リン。それはどういう意味?」
「スラリンのリンだ!」
「ん……?」
「にゃはははは! 意味わかんないにゃー! バカみたいな名前なのだ!」
バカみたいな名前なのはお前だけどな。
まぁそれはともかく、なんとなくスライムと言ったらスラリンだっていう感覚が何故かあったんだよな。
「私は、リン。うん、ありがとうマスター」
「リン、お前の体って青いし透明だし、それスライムの時と同じ性質だよな。ゼリーというかゲルというか。崩れないのか?」
「崩れない。ただ、崩すことはできる。こんな風に」
リンはおもむろに手をさしのばす。するとあろうことか手がぼとぼとと崩れ始めた。
少しすると手首から先がなくなってしまった。
「ふぎゃああ! にゃんだそれはーっ!? 気持ち悪いのだーーっ!」
ふ、普通に人間の手なら気持ち悪いんだろうけどリンのは青いし透明だからそうでもないな。
「それ、痛くないのか?」
「全然。体積が少し減っただけ。手も新しく生やせる。なんなら水を吸収すれば体積も元に戻る」
「つーかお前今人型になったばかりなのによくわかるな」
「自分の体の事がわかるのは当たり前」
「私も水飲めばおっぱい大きくにゃるかな!?」
「自分の体の事なんもわかってないやついたな」
興味津々できいたテンネだが、あいつ胸の大きさとか気にしてたのか。まぁ確かにリンのどでかさに比べたらかなり小さいけど。
ていうかリン裸じゃん。スライム色してるからすっかり忘れてた。
俺は持ち物から大きめの布を取り出した。
「リン、とりあえずこれ羽織っとけ」
「これは?」
「いや裸だと恥ずかしいだろ」
「別に」
「仮にお前が恥ずかしくなくても俺が恥ずかしいの!」
魔物の裸への羞恥心のなさはなんなんだ。
「フリードは恥ずかしがり屋にゃのだ。まぁ私の裸を他のオスに見せたくにゃいのはわかるけど、リンのは別によくにゃいか? リンの身体じゃ交尾できなさそうだし」
「いや交尾できるできないとかいう問題じゃ――」
「何を。私だってできる、交尾。ほら私にだってここに交尾するための穴が――」
「ちょいちょいちょい! なんの話になってんだ!」
布をめくって何か良からぬことを説明しようとしていたリンを、慌てて俺は止めた。
「何故止める」
「なんでって、女の子がそんなとこ気軽に見せちゃダメでしょ!」
「別に、マスターにならいい」
「いやいやいや。よくないよくない。とにかくダメだ」
「わかった」
どうやらわかってくれたようだ。
さて、それじゃあリンの能力を見ておくか。
「鑑定」
俺がそう唱えると、俺の目の前には青い炎で包まれたプレートが現れる。
♦︎
名:リン
種族:スライム→スライムヒューマンプラス
体力:S
魔力:A
攻撃力:D
守備力:C
知力:B
精神力:S
器用さ:C
俊敏性:D
運:B
信頼度:A
スキル
『分離』『回復薬』『擬態』
♦︎
へぇ、テンネとはだいぶ違ったパラメータになるんだな。これはスライム同士でも違うのかな?
そういえばリンは他のスライムよりも大きかったな。たぶん違うんだろうな。
さて、スキルを見るか。
『分離』
体が欠損しても痛みを感じない。分離するだけ。水を飲むと元に戻る。
『回復薬』
体から回復薬を生成する。魔力によって回復の度合いも変わる
『擬態』
物に成りすます。なりすませるものは魔力によって変わる。
これはこれは……なかなか強力だな。