【お留守番】
「うーん? リズ……リズ」
テンネは目の前のリズと名乗る女性を見たことがないか記憶の中から探っていた。
「知らないのだ」
「えっ、ちょ」
結局知らないということで、テンネは玄関の扉を閉めた。
「悪いけど、知らない人とは話すなってフリードに言われてるのだ」
「フリード? 今フリードって言ったよね!? 私はそのフリードの幼馴染よ! フリードはここにいるの?」
「フリードの幼馴染……? けどそれはあのムカつく奴だけなような……」
テンネが悩んでいると、扉を叩く音を不審に思ったヴィーナス達もやってきた。テンネは彼女達に事情を説明する。
「なんか可哀想だし開けてあげれば?」
レモンのその一言で、テンネはリズを家にあげることにした。
「それで? お前はいったい誰にゃんだ?」
リズをリビングに連れて行くと、テンネがそう尋ねた。
「私はリズ。フリードと同じハマラ村出身の幼馴染よ」
「ふーん。それで何しに来たのだ?」
「フリードに、会いに来たの。心配だから。幼馴染として当然でしょう? 私からも質問していい? フリードはここに住んでるの?」
「そうだぞ」
「そう……あなた達はフリードとはどういう関係? 魔人、よね……?」
リズがそれまでとは違って、鋭い目線でテンネ達の方を見ながらそう尋ねた。
テンネは少し悩んだ表情をした後に答えた。
「私達はそうだにゃー……フリードと愉快な仲間たちだにゃ!」
「何それ。それにしても魔人が多くない? 羊人に、そこの子どもはゴーストでしょ? そこの騎士団の女の人だけじゃない、人間」
リズはレモン達を指差してそう言った。するとレモンが興味深そうにリズに話しかける。
「珍しいわね。私たちを一発でゴーストって見破るなんて」
「……少し魔人には詳しくてね。それにしてもまさかフリードがこんなに魔人に手をつけるとは……」
リズはぎりりと歯ぎしりを起こすとそう言った。その目は少し狂気を孕んでいるように見える。
「結局リズはフリードに会いに来ただけにゃのか? だったらこの家で待ってればそのうち帰ってくると思うぞ」
「あら、ここでまってていいの?」
「いいのだ。私はそろそろ散歩に行きたいので」
「そ、そう……」
テンネはそう言って、散歩に出かけてしまった。
「んじゃ、うちも調査に戻るかー。お邪魔しましたー」
ヴィーナスもそう言って家から去り、リビングにはリズとレモン、サイド、ノンだけが残った。
急に静寂が訪れる。我慢できなくなったのか、息を荒げたサイドがリズに近づいていった。
「あ、あの……お姉さん。はぁはぁ」
「な、何よ」
「パンツ何色ですか?」
「死ね、クソガキ」
♦︎
さて、ポイズンニュートと戦って結構経ったが、まだ倒せてはいない。
けどだいたいパターンは見えてきた。
「よし、そろそろ決めるか。リン、こっちに来てくれ」
「はい、マスター」
「一気に行くぞ。『憑依』!」
リンの肩に手を触れて、スキルを発動させた。リンの信頼度がSになってるのは確認済みだ。すると俺の体がスライムの青い透明なものに変化する。なんだか変な気分だ。だけど、強くなってるのは実感できる。
「おぉ。マスター、凄い。素敵」
「なんか新しい感覚だよ。さぁ行くぞ!」
俺は一気に踏み込んで、ポイズンニュートに斬りかかった。先ほどより格段に速くなった俺の斬り込みは、魔物の皮膚を切り裂く。
「ギシャアアアア!」
「うあっ! ――い、痛くない」
激昂した魔物が俺の体を爪で切り裂いてきた。ぼとぼとと切り裂かれた部分が地面に垂れるが、痛みは感じない。凄いなスライムの体。ほとんど無敵だ。
奴は続けて口から紫色の毒の液体を吐き出す。俺はそれを避けて、今度は脳天に深い一撃を叩き込んでやった。
「ギ……クシュルルルルル……」
奴は頭から紫色の血を垂れ流すと、その場に倒れて動かなくなった。
「勝った。マスター、流石。強い」
「お前の体のお陰だけどな」
「このレベルの魔物を倒せるとは、流石に魔物使いは末恐ろしいのう」
端っこにいたホムラがそう言って近くに寄ってきた。確かに、以前の俺じゃ絶対にありえない力だ。
ただこれ、人前では使えないよな。特異なスキルだし、魔物使いってバレるかもしれない。似たようなスキルに確か変身スキルがあったけど、あれで誤魔化すしかないか。
「さて、毒肝だけ剥ぎ取って帰ろう」
俺はスキルの毒耐性を駆使して、ポイズンニュートの毒肝を取り出すと、それを持ってきた保存瓶に入れた。
テンネ達はちゃんと留守番できてるかな。




