【胡散臭い霊媒師】
家に誰かがやってきた。
誰かと思えば、エリナさんが霊媒師とかいう胡散臭いおっさんを連れてきていた。名前もウーサンということで、余計胡散臭い。もう全部胡散臭い。
「あ、あのー、エリナさん。俺、別にこの家で困ってないですよ?」
俺がそう言うが、エリナさんは首を横に振ってそれを否定する。
「いえ! 一度ちゃんとした人に見てもらいましょう。ウーサンさんは、凄いんですよ? ちゃんと悪霊を払ってもらいましょう。ね? ウーサンさん」
「私こそが、ウーサンでぇす」
小太りのおっさんが、そう言って決めポーズなのかなんなのか知らないが、持っていた数珠を天高く突き上げた。
いやめちゃくちゃ怪しいんだが。なんだこのおっさん。エリナさん大丈夫か? これ絶対騙されてるだろ。ていうかウーサンさんてなんだよおかしいだろ。
「悪霊って言っても俺がそれはもう解決させましたし……」
「ムムッ!? あちらから邪悪な『マジックパゥワァー』の気配がしますね」
話聞けよ。
なんだよマジックパゥワァーって。マジックパワーだろ。しかもそれただの魔力だろ。
「少しお邪魔しますよ」
「あっ、おいちょっと」
ウーサンは、勝手に家の中に入ると、そのまま客間の方へと向かっていった。仕方ないのでエリナさんも家へ上げた。
ウーサンは、客間をキョロキョロと見渡す。そして意味ありげに数珠をジャラジャラ鳴らした。
「ふぅむ。これは強烈なパゥワァーですね……いったいどんな悪霊が住んでいるというのか……」
「ウーサンさん! や、やっぱりこの家には悪霊がいますか」
エリナさんが恐ろしげにそう訊く。
「ええ、私の霊媒術では……若い、男性が見えます。これは……そうですね無念で亡くなった……」
「ああ、そうなんです! この家主は盗賊に襲われて亡くなられています」
「そう! 盗賊に襲われた無念で……まだ家主がここにいますね……」
なんか今途中でエリナさんが言ったからそっちに舵を切らなかったか。 というかここの家主ってサイドとレモンの親父か。見たところ全然そんな気配ないけどな。サイド達もそんな事言ってないし。
「おーい、フリード兄ちゃん」
そんな事を考えていると、サイドがやってきた。
「どうした」
「いや、中々帰ってこないから呼びにきたんだけど。お客さんが来てたのかー。うぉ、エロいお姉さんと……ちっ、おっさんか」
サイドはエリナさんとウーサンを見てそう言った。
「ほう、これは小さい亜人ですか」
「フ、フリードさん、また亜人が増えたんですか?」
「あ、ええ……えーと、スライムの亜種ですこの子は」
ゴーストっていうとまためんどくさそうだからな。サイドは体も透明だしバレないだろ。
ウーサンは、サイドをジロジロと見ると、納得がいったかのように手を叩いた。
「ふむふむ……ほぅ、なるほど。わかりました。あなたが今この家にいて無事なのは、この子の聖なる気があなたを守っているからです」
いや、そいつがあんたの言う悪霊的存在だったんだが。なんだ聖なる気って。こいつは風呂場を覗くことくらいしか考えてないぞ。聖なる気っていうか性なる気だぞ。
「じゃあ、この子がいるなら俺の家は安心ですね。わかりました、ありがとうございます」
「待たれよ。このままでは危ない。いずれ邪悪なマジックパゥワァーにやられてしまいます。私が悪霊を退散させましょう」
「いやほんといいですってそういうの」
さっさと終わらせようと思いそう言ったが、ウーサンは数珠を練り合わせて何やらぶつぶつ言い始めてしまった。これ金取られるのかな、最悪だな。
「あのー、フリード君。おトイレってどこですか? 僕わからなくて」
ウーサンが唸っていると、今度はサシャがやってきて、ひょっこり顔を出す。
「あー、トイレなら――」
「のぁぁあ!? ひ、1つ目お化けぇえ!」
「へ?」
ウーサンが急に叫んだ。どうやらサシャを見てびっくりしたようだ。
「悪霊じゃ、悪霊じゃぁああ!」
そのまま彼は、叫びながら走って家から出てってしまった。なんだったんだあいつは。
ウーサンが急に出て行ってしまったので、部屋は静まり返る。
「おぉ、厄介払いができた。ありがとうサシャ」
「……くすん。僕悪霊じゃないもん……」
サシャが半泣きになっていたので、頭を撫でておいた。
「あ、あのフリードさん」
エリナさんが困った様子で話しかけてくる。
「エリナさん。あれ、詐欺ですよ詐欺。なんであんな胡散臭いの雇ったんですか?」
「え、え? 詐欺ですか?」
「まだ気づいてなかったんですか。どう見てもおかしいでしょあの人。服安っぽいし数珠もなんか汚いし。そもそも全然スキルの憑依させる気配ないし」
「わ、私騙されてた……?」
「だいたいどこで見つけたんですかあんな人」
あそこまで胡散臭いの見つけるのって逆に難しくないか?
「実は……その、私がそれより前に個人的に依頼した人なんです」
「どういうことです?」
俺がそう訊くと、エレナさんは一瞬話す事を躊躇したが、やがて口を開いた。
「私……ストーカーされてるんです」
「ストーカー? いったい誰に」
「誰かに見られてる気はするんです。それがわからなくて、怖かったんですけど……ある日ウーサンさんがギルドに来て私がストーカーされてる事をズバリ言い当てたんです。なんでわかったんですかって聞いたら、『あなたの守護霊がそう言ってる』って」
「ほう」
「それで、私彼に依頼してみたんです。そしたら家に悪霊がいるって言われて……その悪霊があなたに尾いてるって」
どうやら家にあげた後、さっきやっていたみたいなパフォーマンスをやられたらしい。そのあと依頼料を貰って帰ったらしいが。
「それでストーカーというか、誰かに見られてるってのは消えたんですか?」
「一時期は消えたんですが、最近また感じて……しかも今度は私の下着が消えてたりするんです」
「えぇ!? お姉さんの下着が!?? ブラジャーですか! パンティですか!?」
急に興味なさそうにしていたサイドが割り込んできた。お前が入ってくるとややこしくなるからやめろ。まさかお前がストーカーじゃないよな?
俺はサイドを黙らせて、話を続けた。
「で、またウーサンに頼んだんですか」
「はい……で、その時にフリードさんが不幸の家を購入されたので、他人事に思えなくて」
「まぁ俺は全く被害なんてないですけどね」
「うぅ、どうしたらいいんですか私は。お気に入りのパンツだったのに……」
「パンティ、パンティだったんですね!? 何色だったんですか! 黒ですか、黒なんですか!?」
「お前はちょっと黙ってろ」
目を血走らせているサイドにげんこつをかまして黙らせる。
そして俺は今までの話を統合して、結論を出した。
「エリナさん、それ……犯人ウーサンじゃないですか?」
「え?」
「いやもうウーサンでしょ。どう考えてもあの小太りおっさんですよ」
「いやでも……ウーサンさんは私の最初のストーカー被害を言い当てたんですよ?」
「いや、その最初のストーカーからたぶんウーサンですよ。自分でエリナさんをストーカーして、さもそれをスキルで言い当てたかのように振る舞う。自作自演です」
つまり、ウーサンの罠にまんまと引っかかっているわけだ。普通あんな胡散臭いおっさんに引っかからないけどな。エリナさんちょっと抜けてるからな。
「う、嘘……ウーサンが」
「騙されてたんです。エリナさんは」
「そんな、だとしたら……許せないですっ」
「ならエリナさん、仕返し……します?」
俺はそう言って、不敵に笑った。
突然ですが、作者が一年ほど前に書いたままエタっていたファンタジー小説をこの度完結させました。
隠れ無双〜チートですか?いいえ実力です〜という作品です。
記憶をなくした主人公と少女が、記憶を取り戻しに旅をするうちに、時を飛び越え冒険することになり、やがて徐々に記憶に隠された真実に向き合うことになる、というお話です。
お暇な時に是非読んでみてください。失礼しました。
↓下にリンク張っておきます。




