【姫とエルフ④】
次の日になった。晴れた気持ちのいい朝だ。俺たちは準備をして、馬車を借りると早速街から出た。進む事1時間、王都は現れた。俺たちは再び検閲を受けて、中に入った。
王都は全体的に木で出来た家が多く、遠くに見える城らしきものですらほとんど木で出来ている。そして何よりも目立っているのは街の中心にそびえ立つ巨大な木だ。はるか上空へと枝が生い茂っている。
「凄いねぇ、ノンあんな大きい木、初めて見たよぉ」
「俺も初めてだ。これが王都か、全然雰囲気が違うな」
「それに何より、見てマスター。エルフ族がいっぱい」
リンが言うように、街中にはエルフ族が多くそこら中を歩いている。エルフ族は耳が長く、細い体型をしている事が多い。
流石に街中に人間もいるにはいるが、感覚では3割程度といったところだろうか。
「さーて、じゃあルーズベルトとやらを探そっか」
「でもヴィーナス。その人、闇の人なんでしょ? こんな真昼間からいるとは思えないわ」
「そうなんよねー、まっそこは仕方ないっしょ。とりあえずうちらは地道に探していくしかないね」
ヴィーナスがリルにそう言った。ヴィーナスも随分姫へのタメ口が上手くなったな。こんなのが国に知れたら俺たちは一瞬で牢屋行きだぜ。
俺たちは街中を行商人のていで歩いていると、エルフ族の人たちは物珍しそうに俺たちを見るのだった。どうやら人間に加えてテンネ達のような魔人がいるのが珍しいらしい。
「この水晶玉のついた首飾りくださいっ」
エルフの少女が、俺たちの運ぶ荷車を見てそう言った。俺は慣れた手つきでお金をもらい、それを渡す。ついでに質問してみた。
「なぁ君、俺たちって珍しいか?」
「え? んー、まぁいろんな魔人の人がいるから珍しいかもですね」
「やっぱりそうか。見たところ王都にはギルドがなさそうだけど、なんで?」
「王都キリスクは、自然と調和する街。私たちは森や山で狩りをして生活をするんです。そういう意味では街の人全員が冒険者ですね」
「じゃあ君も?」
「ええ、私も弓くらいなら使えますよ!」
そう言って彼女は弓を引くポーズをした。なるほど、文化も少し違うんだな。
「でもそれだと、街の中を襲う危機とかはどうするんだ?」
「ここには【ミセタ騎士団】がいますから」
「ミセタ騎士団。こっちにも騎士団がいるのか、彼らが街を守ってるのか?」
「ええ、あ……噂をすればあれを見てください」
彼女が指差した方向を見ると、1人の人間の男が酒場の入り口で尻餅をついていた。そして彼の周りには甲冑を着たエルフの兵士3人と一般人らしきエルフの女性がいた。見事にエルフは全員美男子と美女だな。
「貴様か。この娘にしつこく言いよった男は」
「ち、ちげえよ! 俺はただその子が寂しそうにしてたから寄り添ってあげようと思って!」
人間の男はそう言って女のエルフを見るが、彼女は怯えた様子で兵士の後ろに隠れてしまった。
「彼女はどうやらそうは思っていないようだな。全く、貴様のような勘違い男はいつになっても減らんな」
「う、うるせぇ! そいつは俺のことが好きなはずなんだ! なぁそうだろ!?」
男はそう言って、立ち上がり彼女へと近づこうとした。兵士はそれを止めて、男を投げ飛ばした。
「ぐあっ」
「貴様の話はたっぷり聞いてやる。牢屋でな」
エルフの兵士はそういうと、彼を連れてどこかへと去っていった。去る間際、酒場からはエルフ族の人々が出てきて兵士を拍手でたたえていた。
「へぇ、あれが騎士団か」
「はい、格好いいでしょう?」
俺の目の前にいる女の子は自慢げにそう言った。
「そうだな。悪い奴を取り締まってるしいい奴らそうだ。それに強そうだった」
「さっき対処していた彼は、フィリップ・ビョルン。ミセタ騎士団の団長です」
彼女がそういうと、隣で聞いていたヴィーナスが口を開いた。
「その名前はうちも聞いたことあるね。確か、【風のフィリップ】って謳われるほど風属性のスキルが凄いってさ」
「よく、ご存知ですね」
「まぁうちの団長がよく話してた――じゃなかった、有名な人だしそれくらいは知ってるっしょ、うん!」
ボロを出しそうだったヴィーナスは慌てて軌道修正をしていた。こんな感じだといつかバレそうだな。
「あ、私はそろそろ家に帰らないといけないので。この首飾り、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
エルフの少女はそう言って、どこかへと去っていった。そんな感じで商売をしつつ時々ご飯も食べたりしながら回っていたが、大した情報は得られず、夜を迎えた。
そして俺らは、なるべく怪しげな奴らがいる方へと向かっていき、変な奴らに絡まれたりもしながら、噂のルーズベルトとかいう男に出会った。彼は街のはずれにある闇市と呼ばれる場所にいた。
エルフ族なので、顔は整っているが、若くはない。30代後半の見た目をしている。
「あんたがルーズベルト?」
ヴィーナスがそう尋ねた。
「そうだ。そういうあんたらは何もんだ? 見たところ、この街のやつじゃねえな」
「ま、これを見てみてよ」
そう言って、ヴィーナスは老婆からもらった紹介状を彼に渡した。それを見ると、ルーズベルトは目の色を変える。
「カミラのババアの紹介か。ふん、いいだろう。要件は?」
「ニヒル隊に所属していたっていうレイチェル・レンズレイドについて聞きたいんだけど」
その質問に、彼は眉をしかめた。
「その名を聞いてくるってことは……かなりの訳ありだな。まぁあんたらを見てたらだいたいの察しはつくがな」
ルーズベルトは、俺たちを見ながらそう言った。この男、どこまで感づいているんだろうか。もしかすると全てバレているのかもしれない。
「だが俺は、詮索はしねぇ。国と繋がってもねえしな。金をくれればいいさ。あんたらが聞きたいのは、レイチェルがどこにいるかってことだろ?」
「そーだよっ、凄い話が早くて助かるねー」
「ふん。このレイチェルって男は度々俺たちの間でも噂になってる。昔は都市伝説程度だったのが最近になって表に出てきやがった。どうやら変な奴と組んでかなりヤバイ実験も行ってるって聞いた。得体の知れねえ奴だ。だがそんな奴でも目撃情報はある」
そう言って彼は、まだ少し灯りがついている遠くにそびえ立つ城を指差した。
「実は城には隠し通路がある。俺も前侵入した事があるからな。おっとこれは内緒だぜ。その隠し通路は、実は地下に繋がってんだ。そして地下には大きな空間があって、かつてそこでニヒル隊と呼ばれた奴らが鍛えていたらしい。戦争が終わってその通路も使われなくなったと聞いていたんだが、最近になってレイチェルが使っているのを数回俺の仲間が目撃してる。何をやってんだか知らないがな」
「そこまで聞ければ十分っしょ。早速その隠し通路の行き方を教えてよ」
ヴィーナスがそういうが、ルーズベルトは手で俺たちに制止をかける。
「待て、おそらくお前らだけで行ったところで隠し通路には辿り着けない。特殊な知識が必要だ。俺がいないとな、どうする?」
「雇いましよう、あなたを」
リルが即座にそう言ったのだった。ルーズベルトは不敵な笑みを浮かべた。
「よし、交渉成立だ。だが俺は高いぜ? お嬢さん」




