【姫とエルフ②】
ヘルマイアに着いて、俺たちはとりあえず街の中を歩いていた。
「重いにゃー、めんどいにゃー」
「ごめん、テンネちゃん。でも今テンネちゃんたち奴隷ってことになってるから仕方ないんよ」
「にゃー……」
テンネ達魔人組は、荷車を引いていた。彼女らは一応奴隷役なので、雑用をやっていないと怪しいということだ。まぁテンネ達は不満たらたらだが。そういうわけでテンネ達は今装備もつけていない。
「とにかく街の人にいろいろ聞き込みしてみよ。王都に行く前にレイチェルって男の事がわかるかもしれないしねー」
「そうだね。あ、ちょうどいいところに人が。あの、すみません」
俺は通り行く人に話しかけた。ちなみに俺からヴィーナスさんへの敬語も姫様によって禁止された。
「んあ? なんだあんたら」
「実は俺らは行商人なんですが、この国の事をよく知らなくて教えて欲しいんですが、話ではエルフ族が多いと聞いてたんですけど、見たところいないですね」
「ああーそりゃそうだ。エルフ族の連中は王都にほとんど集まってるからな。ここには人間しかいねえよ」
そうだったのか。エルフが治めるっていうくらいだからそこら中にいるかと思ってたけど、よく考えたらエルフってそもそも個体数が少ないっていうしな。
「そうだったんですか。理由はあるんですか?」
「あー、まぁそうだな。王都には【涙の大樹】って呼ばれる樹があるんだよ。なんかエルフにとってはそれがあるのが重要とか聞いたことあるな」
「なるほど、ありがとうございました」
俺はお礼を言って、彼との話を終える。
「エルフは王都にいるんだね。それはわかったけどフリードちゃん、レイチェルって奴は特に耳も長くなかったし人間だから王都にいるかはわかんないね」
「そうなんだよな、レイチェルって奴の特徴他になかったっけ?」
「あら、2人とも忘れたの? レイチェルは空間魔法らしきものを使うのよ」
リルがそう言った。そういえば、共有した情報の中にロイヤーが放った炎がレイチェルの目の前で透明な壁にぶつかるようにして消えたっていうのがあったな。あれは確かに空間魔法である可能性が高い。
「それに、聞いた情報から職人にレイチェルの似顔絵だって描かせたじゃない」
「え? なにそれ俺聞いてないけど」
「あっ、ごめーん、フリードちゃん。出発前に貰ってたんだけど見せるの忘れてた。これこれ」
「いや、そんな大事なもの忘れてちゃ駄目でしょ。えーと――こ、これは!?」
俺がヴィーナスから受け取った紙に描かれている男は、見覚えがあった。金色の髪、糸のように細い目。本屋で会ったあの男だった。
レイチェルって名前が一緒だとは思ったけど、まさか同一人物かよ!
「どしたん、フリードちゃん」
「い、いやこの人、俺ら会ってます。本屋で……!」
「は? えっ? な、何どういうこと!?」
「まさかフリード! あなた敵のグルだったんじゃないでしょうね!?」
「いたたたた!! ちょリル、リル! 首もげる! もげるって!」
リルに首を思い切りしめられたが、なんとか俺はそこから脱出し、事情を説明した。するとヴィーナスが顎に手を当てて何やら考え始めた。
「確かに、『アイデン建国』はうちらの教材になってるけど……なんでそんな事知ってるんだろう。まぁ秘匿ってわけでもないから噂で広がった可能性はあるけど」
「こうなってくるとやはり、内部の裏切り者がいる可能性が高いわ!」
「えっ、そんなことリルが言っていいの?」
「別にいいでしょ。そんなの古今東西どこの国でもあることだわ」
「おぉー……格好いい」
「まぁ今はその事は置いておきましょう。そんなことより、レイチェルを探すのよ! 似顔絵を使って人に尋ねた方が早いんじゃない?」
リルがそういうと、ヴィーナスが少し困ったような顔で答える。
「それが一番手っ取り早いんですが――じゃなくて、手っ取り早いんだけど、問題は聞いた人がレイチェルと繋がっていた時なんだよねー。『レイチェルを嗅ぎ回っている奴がいる』ってのがバレるとうちらに被害が来る可能性があるし」
「あらヴィーナス。普段ならそんなリスクは覚悟でやるはずでしょ。今躊躇っているのは、私のため。違う?」
リルの指摘に、ヴィーナスは苦しそうに黙って頷いた。
「やっぱりね。まだ私は特別扱いか。まっ、仕方ないけどさ。けど、やるわよ。王家のものは私自身で取り返すの! もちろんあなた達も一緒にね。いい?」
「わ、わかった。やるしかないかー」
ヴィーナスは汗を垂らしながらそう答えた。その後俺たちは似顔絵を使って人々に聞き込みを開始した。やはり中々困難を極めたが、それでも地道にやっていると、空が暗くなり始める頃、ある手がかりを手に入れた。
人探しをするなら、夜の街で占いをやっているという老婆に尋ねるといいというのだ。占いという事はそういう予知的なスキルなのだろうか。だとしたらかなり待遇が良いところに召し抱えられてもおかしくないけどな。
街の少し外れにその老婆はいた。小さな机に小さな椅子。店と店の間に座っていた背の小さな彼女は、不釣り合いなおおきな黒の帽子とローブを羽織っていた。
「あの、人探しをしてるんですが」
「キーヒッヒッヒ。私に任せなぁ」
いや、そんな笑い方する奴に任せたくはないな……とはいえないな。




