【作戦】
「ただいまー」
俺は玄関の扉を開けてそう言った。すると家の奥の方から2人の子どもが歩いてやってきた。
「あれ? 生きてたよ姉ちゃん」
「意外だわ。どこかでのたれ死んだのかと思ったのに」
サイドとレモンがそう言って出迎えてくれた。言うことがいちいち怖いな。
「閉じ込められて、死ぬかと思ったけどな」
「あらそう。死んでもよかったのに」
「よくないだろ」
「死んだら親近感湧くと思って」
レモンが大きく2つに縛った髪を揺らしてそう言った。
「私はお腹が空き過ぎて餓死するかと思ったにゃ」
「テンネはいつもお腹空いてるでしょぉ」
「にゃんだと、ノン! お前はあの狭いダンジョンでずっと寝てたから知らにゃいだろうけど長かったんだぞ!」
「えへへ、じゃあテンネも寝れば良かったのにぃ」
「……はっ! て、天才か」
テンネが驚愕の表情をしていた。聞いてると馬鹿になりそうな会話だな。
「で? 何があったのフリード兄ちゃん」
サイドにそう聞かれたので俺はあったことを簡潔にまとめて話した。まぁ本当は話しちゃいけないんだろうけどこいつら死んでるしいいだろう。
「へぇ、ルクスの玉。そんなのがあったんだ」
「ああ、昨日聞いた話だと何か大事な玉らしいんだが」
「まぁ大方伝統的なものとかでしょ」
「そうかな。で、なんかその捜査を手伝わなきゃいけないらしいからまた家空けるわ」
「わかった。家のことは僕たちに任せてよ」
どん、と胸を叩くサイド。見た目は小さいけど、中身は俺と同い年なんだよな、そういえば。なんか今更だけど兄ちゃんって呼ばれるの違和感あるな。
「ありがとう。お前らも復讐だのなんだので家を空けるなら言ってくれよな」
「あ、それなら夜に勝手に情報収集に出かけてるから大丈夫だよ」
「そうなの!? し、知らなかった」
まぁ日中は日の光が嫌で外に出たくないとか言ってたから動くなら夜なんだろうな、とかは思ったけどさ。
俺はそんな感じで色々と喋った後、荷物を整理して城へと戻った。実はそこから、6日間は特に何もせずに城で待機してるだけだったんだが、6日間経った後に、俺は呼び出された。
会議室のような場所で、俺とあの初老の男性レバノンさん、リールラ姫、それに騎士団員の人数名で話をすることになった。ちなみに「会議室に亜人は入れられん」との事で、テンネ達は外で待機している。
レバノンさんが話し始める。
「さて、拷問官があの男達にいろいろと聞いたようだが、中々情報は得られなかった。だがあのドミニクとかいう男の発言から、彼が依頼を受けたという男について調べていくとわかったことがある。その男、レイチェルという男らしいが、奴は隣国、【ミセタ国】の関係者であるらしい」
ミセタ国。珍しく魔人優位の国で、エルフが治めているらしい。しかし彼らエルフは多種族をあまり好まない傾向があるため、魔人も気安くミセタには近づかないとか。
というかレイチェルって、最近聞いたなその名前。本屋で出会ったあのお兄さんと同じ名前だ。まぁ関係ないけど。
「ミセタ国だと気安く近づけないわね」
「その通りですリールラ様。外交的にも我が国から直接干渉する事は難しい。そうなるとやはり少数精鋭で懐に潜り込み、情報を得るしかありますまい」
レバノンさんは続ける。
「なので部隊を3隊に分けます。アイデン騎士団4人で1組。これを2つと、そこにいる小僧と亜人、それに騎士団員1人を加えた5人のグループを1つ。この3隊を潜入させます」
「なるほど、まぁ無難ね」
「はい。騎士団員は選りすぐりを選ばせていただきますぞ。そして、小僧を監視する役目には、率先して志願したブルマーを付けようかと」
「ブルマー?」
リールラ姫は誰だかわかっていないようで、そう訊き返した。
「私が、ヴィーナス・ブルマーです。リールラ様」
座っていたヴィーナスさんが立ち上がると、リールラ姫に向かって片膝をつき、いつものへらへらした態度ではなく、凛々しくそう言った。
へぇ、ヴィーナスさんてブルマーっていう姓なんだ。いや、最初に会った時に聞いたな。忘れてたけど。
「ふーん、まぁならいいんじゃない?」
「はっ、ありがとうございます」
「それでレバノン。私はどこの部隊に配属されるのかしら?」
リールラ姫が、唐突にレバノンさんにそう言った。レバノンさんは素っ頓狂な顔をしている。
「な、何を仰られるのですか。リールラ様! 連れて行けるわけがないでしょう!」
「えー? だって私まだ“試練”終わってないでしょ? ルクスの玉を見つけてないもの。なら私も潜入して、玉を見つけるべきじゃない?」
「そんな屁理屈が通用しますか! 今回はいつものおてんばでは済まされませんぞ! あなたはこの国の王女! 立場をわきまえなされ!」
「ちぇ、いい考えだと思ったけどなー」
リールラ姫は、口をすぼめてそう言った。これが噂のおてんば姫か。なるほど、確かにお姫様にしては少し活発だな。
「さ、さて話を戻すが、出発は今日の午後とする。各自準備を進めておくのだ」
レバノンさんのその言葉で会議は終わり、皆部屋から出ていった。残ったのは俺とヴィーナスさんだけだ。午後か、別にもう準備する事ないから暇だな。
そう思っていると、ヴィーナスさんが話しかけてきた。
「フリードちゃん。ちょっと話そっか」
ヴィーナスさんに言われて、俺はコクリと頷いた。




