【ダスニアシリーズ】
城に泊まった次の日、俺たちは外出を許可されたのでとりあえずはギルドに向かうことにした。
ギルドに到着すると、俺の顔を見るなりエリナさんが受付から走ってきた。
「フ、フリードさん! 無事だったんですか!」
「え、ええ。まぁ無事というかなんというか……」
「心配しましたよ! 閉鎖前にクエストに行って帰ってこないんですから!」
「す、すみません。でもクエストはクリアしたんで」
そう言って俺は回収しておいたスピードマウスの素材諸々が入った袋をエリナさんに差し出した。
「そういう問題じゃ……もう、いま手続きしますね」
エリナさんは渋々と言った様子で、受付に戻っていった。ふと我に帰ると、周りからの視線を感じる。周りの冒険者から殺気のようなものを飛ばされているな。
「あのガキ、エリナちゃんのなんだってんだ?」
「俺あんなに心配されたことねーよ。いつも怪我しても『ポーション使えば治りますよ』しか言われねーのに!」
「俺なんか名前間違えられてるぜ? 可愛いから良いけど」
「亜人なんか連れて良いご身分だぜ」
「どーせどっかのボンボンだろ」
「クエスト中にあったらぶっ飛ばしてやる」
何やら不穏なことを聞いた気がしたが、聞かなかったことにしよう。
少しすると、エリナさんが処理を終えて俺に依頼完了の紙を渡してくれた。
「これを依頼主のガンクさんのところに持っていけば、武器の報酬をもらえると思います」
「わかりました。ありがとうございます」
「そ、そういえばフリードさん。新居の方はどうです?」
「新居? 凄い快適ですよ!」
まだ全然使ってないけど。たぶん快適のはずだ。
「そ、そうですかぁ。あ、あの!」
急にエリナさんが大きな声を出したので、周りの人たちが注目してしまった。彼女はぺこりと頭を下げて周りをなだめる。
そして俺に近づいてくると耳打ちをしてきた。
「よ、よろしければ今度私も家に伺っても良いですか? 家を紹介した身としては確認しておきたいですし」
「いやあの家は紹介を受けたっていうよりは、むしろ反対をされたって感じだったような」
「ま、まぁそうなんですけどね。実を言うと、不幸の家に住んでいるっていうのはやはりちょっと心配なんです」
「いやもう大丈夫ですよ。原因は俺が解決したんで」
「い、いえでもやっぱり心配です。今回のクエストだって不幸の家のせいかも……。今度霊媒師を連れて伺ってもいいですか?」
霊媒師て。確か、自らに霊体などを憑依させることができるスキルの持ち主だっけ?
基本的に悪霊と呼ばれる魔物の奴らを退治したりするのが専門の仕事って聞いたことあるな。
いや、しかしやけにエリナさんが責任感じちゃってるな。不幸の家を買わせて上司か何かから怒られたのかもしれない。
「はぁ……まぁ別に構いませんが。俺少し家を空けるので、また今度でいいですか?」
「は、はい、わかりました」
「じゃあまた来ます」
俺はそう言ってギルドから出た。責任感がありすぎるってのも考えもんだよなー。
俺はそのままガンクさんの武器屋へと向かう。
「いらっしゃい……っておお、お前さんか」
ドワーフのガンクさんは、とことこと俺の方へと歩いて来た。実は、暇な時にちょいちょいこの店には訪れているので、彼はリンの事もノンの事も知っている。
「今回は新しい魔人を連れてねぇんだな」
「そんな毎回連れてくるみたいに言わないでくださいよ」
「俺は魔族のサーカスでもやるのかと期待してんだがな」
そう言ってガンクさんはガハハと笑う。
「で、今日は何買いに来たんだ?」
「いや、実はガンクさんのクエストを受けてですね」
俺はクエスト完了の紙を彼に渡した。
「あぁ、これお前さんらが受けてくれたのか。わかった、なら何か1つ持っていくといい。あんま高えのは持ってくなよ?」
「善処しますよ」
そう言って店の中を回る。すると1つ、目を惹くものがあった。
「ガンクさん、こんなの置いてたっけ?」
「あん?」
俺が指差したのは壁に飾ってあった緑色の剣だった。やけに目立っている。
「ああ、それか。それは2日前に手に入れたもんなんだが……売りもんじゃねえよ。つーか売れねえんだ」
「どういう事です?」
「【ラクノアシリーズ】って知ってるか?」
「えーと、ラクノアって人が打った剣でしたっけ?」
確かロイヤーがそんな感じの剣を持ってた気がする。
「そうだ。高ランクの冒険者も愛用しているのがラクノアシリーズ。洗練された剣で、誰もが手に馴染む作り。仮にそいつを表とするなら、裏にはダスニアシリーズってのがある」
「ダスニア?」
「ああ。ダスニアってやつが変人でな。性能はいいんだが、1本1本の個体差が酷くてな。癖が強い剣なんだ。まぁだから変な愛好家は地味にいるが。そんでその緑の剣はダスニアシリーズのひとつだ。コンセプトはなんだと思う?」
コンセプト? パッと見たところ、剣の色以外特になんの変哲も無いが。
「派手な色の剣とか?」
「食べれる剣だにゃ!」
「空間を切れる剣」
「相手の頭を綺麗に切り落とせる剣とかぁ?」
上から俺テンネ、リン、ノンの順番だ。
「違う。『絶対に盗まれない剣』だ」
「どういう事?」
「まぁ見てろ」
ガンクさんは手首に鉄の籠手をつけると、その剣を額から外し、握ろうとする。その瞬間、剣の柄からハリネズミのように刺々しい針がいくつも飛び出した。そして少しすると針が戻る。
「な? これじゃ握れんだろ?」
「いやでもそれ持ち主も握れないんじゃ……」
「だから言ったろ。ダスニアシリーズは癖が強いんだ。こんなん売ったら俺が恨まれちまうよ」
「確かに……」
俺が納得していると、リンが興味深そうにその剣を見ていた。そして何を思ったのか剣を握ろうとした。
「ちょ、おい、リン!?」
「お嬢ちゃん! あぶねえ!」
リンの手のひらにも先ほど同様、鉄の針山が襲った。だがしかし、リンの体はスライム。手に針が突き刺さってはいるが、彼女はなんとも思っていなさそうだった。
そしてそのまま彼女は、剣で素振りをし始める。
「やっぱり。マスター、これ私なら使える」
「な、なるほど。リンなら確かに痛みを感じないし刺さったまま使えるのか」
「こいつぁ一本取られたぜ」
俺とガンクさんは2人で感心していた。
「リン、それ痛くないのー?」
「痛くない」
「へぇ、便利な体なんだねぇ」
ノンはノンで驚いているようだ。
「これ、貰っていい?」
「おぉ、持ってけ持ってけ!」
そういうわけで、俺たちは絶対に盗まれない剣とやらを手に入れた。




