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【迷宮と姫⑤】



 次の日、朝になり、隠し部屋で待機し続けていたロイヤー達は遂に行動を起こし始めた。


「さて、決行の時は来た。お前ら準備はいいか?」


 ドミニクの掛け声に合わせ、男達は声を発する。そして彼らは部屋を出て、ダンジョンを潜り始めた。

 彼らは目立つのを避けるため、3人1組に分けてダンジョンを潜った。ロイヤーはゾックとドミニクと共に行動することになった。


「当たり前だが魔物は出来るだけ避けていくぞ」


 ドミニクはそう言って、気配を最小限に消しつつ先に進んでいく。


「なぁドミニク。あんたはこの作戦、成功率はどれほどだと思ってるんだ」


 ゾックが突然ドミニクにそう尋ねた。するとドミニクは一瞬答えるのを躊躇したが、間を開けて答える。


「実際は3割ってとこだな」

「なにっ? そんなこと聞いてないぞ僕は!」


 ロイヤーはそう狼狽えた。一方でゾックはやれやれといった様子で納得していた。


「チームを3人1組で分けたのも成功率を少しでも上げるためだろう。他の奴らは囮か?」

「ふん、坊主頭だから馬鹿かと思っていたが、存外そうでもないらしいな」

「おいおい、今のは世界中の坊主頭を敵に回したぜ」


 ゾックはそう返す。


「だがお前の言う通りだ。相手にアイデン騎士団がいる以上、この作戦はかなり難しい。先に他の奴らが騎士団を引きつけてくれないとな」

「ちっ……そんな事を考えてたとは。だがまぁいい、他が蹴落とされようが僕が最後に勝てばな」


 ロイヤーはニタリと笑みを浮かべてそういった。

 そのまま彼らは魔物との戦闘を極力避けて、順調に進んでいった。そして地下10階を超え、やがて調査団員が増えてきた。


「そろそろ警戒レベルも上がってきてる。ここからは気を引き締めていくぞ」

「ああ、だがそれは無駄かもな」


 ドミニクの注意にロイヤーがそう答える。


「どういうことだ」

「ふん、聞こえないのか。やつら既に暴れてるぞ」


 ロイヤーの言葉通り、ダンジョンのどこかから男たちの雄叫びが聞こえていた。それは戦闘をしている音に違いなかった。


「なるほど……奴らもう調査団とかち合ったのか。馬鹿な奴らだ」

「あんたにとっては都合がいいんだろ。ふん、これも計画か? 気に食わんな」


 ロイヤーはそう言ってドミニクを睨む。だがドミニクはそれを一笑に付した。


「おい、あっちに侵入者が出たらしいぞ!」

「なに!? どこから侵入など!」


 近くから調査団らしき男達の声が聞こえたかと思えば、彼らは走ってどこかへと去っていった。


「くく。さっさと進むぞ」


 ドミニクはそう言って、手薄になったダンジョンをさらに深く潜っていく。そして時々魔物を倒しつつ、遂に彼らは地下20階に達した。


 20階をコソコソと歩いていくと、少しひらけた場所に台座のようなものがあり、そこには薄い黄色の水晶のような玉が置いてあった。そしてその台座の横には2人の装備兵が付いている。


「間違いねぇ。あれがルクスの玉だ」


 ドミニクは小声でそう呟く。


「それにしても見張りが2人しかいないとはな。呆れた警備意識だ」


 ロイヤーがそう指摘すると、ドミニクは自慢げに語る。


「そもそもこの極秘情報を得ている上に、ダンジョン内に隠し部屋があるのを知っている人物なんて普通いねえからな。相手さんも警戒なんてあるわけねえ」

「なるほど。だが今は少し警戒されているようだぞ」


 ロイヤーは見張りの兵士たちの会話を聞いていた。


「なんかさっき上の奴らが侵入者が出たとか騒いでたけど、大丈夫なんかな」

「てかどうやって侵入すんだよ、無理じゃね? それこそ地下60階より深く潜ってた人とかじゃない限り無理だろ」

「確かになぁ。まぁとりあえず俺たちはここを守るだけだな。噂のリールラ姫も早く見てみたいな」

「あぁおてんば姫か。確かに気になるな」


 兵士たちはそう話していた。ドミニクはそんな彼らを注意深く観察していた。


「さて……どうやってあの玉を奪うか。相手は騎士団員、かなりの手練れだ」

「正面突破は難しいのか?」


 ロイヤーの問いにドミニクは呆れた表情で返す。


「当たり前だ。あいつら一人一人がCランク冒険者以上の実力持ってるんだ。そんな上手くはいかねーよ。“普通”はな」


 そう言ってドミニクは懐をごそごそと弄ると、紫色の小さい玉を取り出した。


「それはなんだ?」

「こいつぁ、眠り玉さ。投げれば睡眠性の煙が辺りを覆う」

「なるほど、便利な代物だ」

「高かったんだぜ。あとは……あいつらが眠り耐性のスキルを持ってなけりゃいいが」

「そこは賭けというわけか」

「そういうことだ。いく、ぜっ!」


 ドミニクは眠り玉をぶん投げた。兵士たちのいるあたりの地面にぶつかった玉はプシューと煙を排出し始める。


「ごほっ! な、なんだ煙!?」

「火事か!?」

「馬鹿ここはダンジョンだぞってなんか……眠く」

「まさか睡眠性の……くそ、眠り耐性持ってねえ」


 しばらくして煙が晴れると、兵士2人はそこに倒れ伏していた。その様子を見てドミニクは笑みを浮かべた。


「くく、成功だ。まさかこんなにあっさりと行くとはな」


 そのまま彼はルクスの玉の元へと向かい、それを手に取る。


「これがルクスの玉か。大したものには見えんがな……まぁいい、そろそろお姫様もダンジョンに入った頃だろう。気づかれないように引き上げるぞ」

「拍子抜けするほど楽だったな。ていうかこれならあんたひとりでなんとかなったんじゃないか?」

「リスクは低ければ低いほどいいからな」


 そうドミニクが返したところで、ダンジョン内には第三者の拍手が響き渡った。ドミニク達は咄嗟に音の出る方へ構える。


「リスクは低い方がいい。それは僕も賛成しますよ」


 姿を現したのは、金髪で糸のように目を細めて笑っている男だった。


「あんたは……レイチェルさん」


 ドミニクはその男レイチェルをみて少し驚いていた。


「何故あんたがここに? 依頼をしたのはあんただろう」

「ふふ、それは“保険”という奴ですよ。ご苦労でしたドミニクさん。まさかこんなに上手くやってくれるとは思いませんでしたが」

「よ、よくわからんがあんたがここにいるなら話が早え。玉は手に入れたんだ。約束通り金は貰えるんだろうな」

「ええ、玉を見せてもらってもいいですか」


 レイチェルはドミニクから玉を受け取り、じっくりと見定める。


「本物ですね。素晴らしい。では――」


 レイチェルはパチンと指を鳴らした。するとダンジョンの奥からは巨大な蜘蛛の魔物が現れる。

 ドミニク達はそれをみて汗をたらした。明らかに自分たちより格上の魔物だからだ。


「お、おいレイチェルさんこれは!」

「あなた方はルクスの玉を盗みにダンジョンに潜りこんだが不幸にも魔物に襲われて死んでしまった。そしてルクスの玉は行方知れずとなった……っていうお話はどうでしょう」

「わ、笑えねぇ冗談だ」

「ちっ、誰がてめぇなんかに渡すか! 『ファイア』!」


 ロイヤーが放った炎は、レイチェルの目の前で見えない壁にぶつかって消えてしまった。


「な? ぼ、僕のファイアが」

「無駄な魔力は使わない方がいいですよ。今からその魔物と戦うんですから。では、僕はこれで失礼しますね。御機嫌よう」

「ま、待ちやがれ!」


 ドミニクの制止も虚しく、レイチェルは魔物を通り抜けてダンジョンの奥へと姿を消していった。


「キシャアアアア!」


 巨大な蜘蛛は、奇声を発してドミニク達に襲いかかった。ドミニク達はそれをなんとか凌ごうとするが、力の差は歴然としており、彼らが傷を負っていくのもそう先の話でもなかった。


 戦闘が始まって20分ほどで、彼らはもはや満身創痍といった形になっていた。彼らの身体には傷ができているが、相手の魔物には全く傷がない。もはや未来は見えていた。


「ぐっ、くそぉ……こんな事になるならあんたなんかについてくるんじゃなかった! だいたい最初から怪しいとは思ってたんだ!」


 ロイヤーは泣きそうな顔でそう言った。


「今さら何言ってやがる。俺だって騙されてんだぞ……くそ、こんなところで死にたくねぇよ」


 ドミニクも持つ剣の手が震えていた。


「この魔物、逃げようとしても速すぎて追いつかれる……どうすりゃいいんだ」


 ゾックが考えている間もなく、魔物は再び彼らに襲いかかる。二度目の攻防は流石にドミニク達も凌ぎきることはできず、ロイヤーは蜘蛛の手足で天井に叩きつけられてしまった。


「ぐあぁあっ!」

「ロイヤー! くそっ、間に合わない!」


 蜘蛛はそのまま落下してくるロイヤーを手足で串刺しにしようとしていたが、ロイヤーは最後の力を振り絞り、炎を出現させて相手に当てる事で攻撃をそらした。


「ぐあぅ!」

「大丈夫か、ロイヤー!」


 ロイヤーはそのまま落下して地面に叩きつけられたがなんとか命をつなぐ。

 行き場をなくした蜘蛛の攻撃は、ダンジョンの天井へと深く突き刺さり、天井を破壊した。


 その時異変が起きた。

 パラパラと天井から落下して来る石に混じって、人間達が落下してきていたのだ。


「うああああああああ!? ちょっ、え? 蜘蛛!? 剣剣剣!」

「おーでっかい蜘蛛にゃ。食えるかにゃ」

「蜘蛛は美味しくない」

「剣を突き刺したらいっぱいお汁が飛び出そうだねぇ」


 落下してきた人間達は、叫び声を上げながらも剣を腰から抜き、蜘蛛の頭へと突きたてた。落下の速度も相まって、その剣は深々と蜘蛛の頭へと突き刺さる。


「キシャアアアア!」


 蜘蛛は奇声を発すると、そのまま暴れたが少しして徐々に動きが鈍くなり、そして遂には動かなくなった。


「フ、フリード……!」


 傷だらけの身体で、ロイヤーは忌々しげに落ちてきたフリードのことを睨むのだった。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
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