【薬草狩り】
冒険者になった俺たちは初めてのクエストを受注することに決めた。
「まずは薬草採取かな」
「つまんなそうなのだ」
「そういうなよ」
張り出されたFランク用のクエストを見ると、やはり一番最初にやるべきは薬草採取のようだ。
報酬は300デリーなので、かなりいいな。さすが王都。ここら辺は一食80デリーくらいだからな。
「よし、さっそくこれを受けよう」
「やるにゃー」
俺たちはそれを受付嬢に受理してもらい、町で薬草を採取するためのナイフを買った。ちなみに1つ200デリー。
本当は装備一式揃えたいところだけどもうお金があまりないからな。しばらくはコツコツ貯めよう。
「で? どこに向かうのだ?」
「テンネはダンジョンって知ってるか?」
「もしかしてあの地下深くまで続く洞窟の事かにゃ?」
「そうだ。遺跡とかが急にダンジョン化してたり、まだまだ謎が多いけどこの王都にあるダンジョンは、冒険者達がよく潜ってるんだよ」
「へぇ、ダンジョンって近づいちゃいけないってお母さん達に言われてたから行ったことなかったのだ」
「なんでダメだなんだ?」
「さぁ? お母さんのそのまたお母さんのそのまたずーっと前から言われてるらしいにゃ」
「ふぅん、何かの伝統なんだな」
そんな雑談を交わしつつ、俺たちは王都の中心に存在するダンジョンへと潜っていった。
今のところ地下85階まで探索されているらしいが、俺たちは1階で薬草を取るだけだから全然関係のない話だ。
「よし、薬草100個。刈り取るか」
そう言って俺たちは薬草を黙々と採取し始めた。生えている薬草を掴んでナイフで切り取るだけ。単純でつまらないが安全だ。
だが20個ほどとったあたりで、早くもテンネが飽き始めてしまった。
「飽きたにゃあ」
「早いよテンネ。もうちょっと頑張れ」
「ちょっと休憩にゃ。にゃあにゃあフリード? フリードって今目的はあるのか?」
「目的? とりあえずは生活を安定させる事かな。安定した収入を得るために冒険者になったんだしね。テンネはあるのか?」
「私はお腹いっぱいご飯が食べれればそれでいーにゃ!」
「じゃあ薬草取ってよ……」
テンネはゴロゴロとそこらへんを転がっている。見れば見るほどテンネは綺麗な顔をしている。可愛いのではなく綺麗なのだ。
可愛い見た目でにゃあにゃあ言うのならそれは愛くるしいが、こんな絶世の美女みたいな顔と抜群のスタイルをした子がにゃあにゃあ言っているのだから冗談にしか思えない。
「フリードって私と会う前にゃにしてたの? にゃんであんな所に倒れてたのだ?」
「あーそれはだな――」
というわけで俺のこれまでの経緯を簡単にテンネに話した。
すると最初は興味深そうに聞いていたテンネだったが途中から怒り始めた。
「にゃんだそれ! ムカつくにゃあ! そのロイヤーってやつ、私ならボコボコにしてるのだ!」
シュッシュッとその場で拳を繰り出すテンネ。おお、これが本当の猫パンチだな。
「ま、いいよ別に。俺もムカつくけどさ、今はもう会わないんだし。それより薬草集めよう」
ひとつだけ気になっていることはある。リズの事だ。ロイヤーは彼女が俺にもう会いたくないと言ったらしいが、俺はどうしても彼女がそう言ったのだとは信じられない。
だから、もう一度だけリズには会いたい。
その後も俺たちは黙々と作業を続け、クエストをクリアした。
そして同じ作業を7日間ほど続けたある日。
「ロ、ロイヤー……」
「まだ生きてたのか、フリード」
一番会いたくない人物に会ってしまった。
薬草採取をしていると、突然俺の目の前にロイヤー達が現れたのだ。
「ロイヤー、お前も冒険者になってたのか」
「お前も? まさかとは思うがフリード、お前冒険者になったのか? 魔物のお前が? とんだお笑い種だな。なぁ? ゾック」
「その通りだよロイヤー。ハハハハハ」
ゾックは腹を抱えて笑い始めた。何が面白いのかさっぱりわからん。
「にゃあフリード。もしかしてこいつがロイヤー?」
一緒に薬草採取をしていたテンネがそう聞いてきた。なので俺はそれに頷いて返事をする。
「ふぅん。やっぱりこいつ、ムカつく顔をしてるにゃ!」
「なんだお前、猫人? フリードの仲間か? はーっはっは! 見ろゾック! やはり魔物の仲間は魔物だぞ!」
「もう魔物の仲間を増やすなんて面白いやつだなぁフリードは」
「クク、ここで会ったのも何かの縁だ。お前らまとめて浄化してやるよ! 『ファイ――がっ!??」
ロイヤーがスキルを唱えようとした途端だった。彼がスキルを発動させるよりも早く、テンネは彼のみぞおちに強烈な蹴りをかましたらしい。
早すぎて、ロイヤーがぶっ倒れてるまで俺は何が起きたのかわからなかった。
それは相手も同じだったようで、連れのゾックは倒れたロイヤーに慌てて駆けつける。
「だ、大丈夫かロイヤー!?」
「ぐっ……がはっ、ごほっ……な、なんだあいつ。ありえねえ力だ……」
ロイヤーは腹を抑えながらテンネに驚愕の目をむけている。しかし当の本人はけろっとして俺の方に戻ってきた。
「テ、テンネお前……」
「あいつが攻撃しそうだったから先手を打ったのだ。駄目だったか?」
「いや……いや、ありがとう助かった。スカッとしたよ」
そう言って俺はテンネの頭を撫でる。
「ごろにゃあん」
彼女は嬉しそうに猫なで声を発した。
ロイヤーはゾックに肩を貸されながらも、立ち上がっていた。
「フ、フリードてめぇら……ゆ、許さねえぞ。魔物の分際でこの僕に傷を負わせやがって……。次に会ったらぶち殺してやる」
「今じゃなくていいのかにゃ?」
挑発するようにテンネがそう言った。するとロイヤーは怒りをあらわにしながらもかかってくることはなかった。
「う、うるせぇ……覚えてろよ」
「そうだバーカ覚えてろっ!」
そう言って彼らは捨て台詞とともにふらふらとダンジョンの出口に向かって歩いていった。
「結局にゃにしに来たのだ? あいつら」
「……さぁ?」