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【迷宮と姫②】


 少し長い金髪。細い目。ニコニコとした男が俺に話しかけてきた。


「えーと、あなたは、店員さん?」


 俺がそう訊くと、彼は首を横に振った。


「いえ、僕はただの本好きの一般人ですよ」

「え? じゃあなんで話しかけてきたんです?」

「ふふ、本を探している様子だったので思わず話しかけてしまいました。よければお力になりますよ」


 終始笑みをやめないのが少し気味が悪いが、悪い人じゃなさそうだ。聞くだけ聞いてみるか。


「えーと、じゃあ歴史の本と生物の生態をまとめてる本とかを探しとるんですけど」

「歴史の本ですか。例えば、この『アイデン建国』という本はアイデン騎士団でも採用されている教科書ですよ」

「へぇ、詳しいですね。じゃあこの本がいいのかな」

「いえ、僕がお勧めするのはこちらの本です」


 そう言って彼が本棚から取り出した本は『メロディ探検記』と書いてある本だった。


「探検記?」

「ええ。こちらは冒険者のメロディさんという方の日記を纏めたものでしてね。世界中を回っていた方でその回った国について冒険者視点で書かれている本です。主観的に書かれていてとても面白いですよ」

「へぇ、冒険者の本ですか。面白そうですね。リン、どうだ?」


 リンにそう尋ねると、彼女はまじまじとその本を見つめて、手に取るとペラペラとめくり始めた。心なしか目がキラキラしてるように思える。


「マスター、これ、欲しい」

「そうか、じゃあ買おう。すみません、ありがとうございました」


 男性にお礼を言うと、彼は更にニコニコと笑みを浮かべた。


「いえ。ふふ、気に入ってくれたようですね。よかった」

「いやーしかし、よくこんな本を見つけますね。何か本を選ぶ時のコツとかあるんですか?」

「単純にいろんな本を読むことですね。そうすると少し書き手の思いが見えてくるんです。例えそれが歴史の本であってもね。でも一方で本に書かれた事が全て信じてはいけない。勿論それはそのメロディ探検記でもそうだし、このアイデン建国でもそうです」


 そう言って彼はアイデン建国の本を見つめる。


「アイデン騎士団の教科書なのに嘘が書いてあるんですか?」

「ふふ、むしろ教科書だからこそ真実から目を背けることもあるでしょう。その方が都合が良いという事です」

「なるほど……見極めが難しいですね」

「さて、生態系にも興味がおありなんですよね? そのメロディ探検記は旅の途中で出会った魔物なんかにも言及しているので、最初はそれを読むだけでも十分だと思います。慣れてきたら……」


 男性は少し店の奥の方へ行くと一冊の本を持ってきた。その本には『危険生物応急処置』と書かれている。


「これなんてお勧めですよ。これは魔物や普通の生物に襲われた時の応急処置の本なんですけど、生物側の事も詳しく書いてありますから」


 そう言われて本を渡されたので、見てみると

 たしかに細かく魔物の弱点なんかも書いてある。俺はその本をリンに渡す。彼女は再びキラキラした目で本を読み始めた。


「これは……たしかに良さそうですね」

「でしょう。どうやら彼女も、気に入ってくれたようですね」

「うん。マスター、これ買いたい」

「よし、じゃあ今日はその2つを買っていこう」


 俺は店員のおじいさんのところへと行き、本を買った。そして男性にお礼を言う。


「いやぁ今日はありがとうございました。ところで、あなたはなんの本を買いに?」


 俺がそう尋ねると、男性は既に買っていたらしい本を俺に見せた。その本は、先ほどあまりおすすめしていなかったあの『アイデン建国』の本だった。


「あれ、その本あまりお勧めしたなかったのに買うんですか?」

「……実はこの本はこの王都でしか販売してなくてですね。絶版で無くなってしまう前に買っておこうと思いまして」

「え? でも教科書にもなってるなら絶版なんてならないんじゃ?」

「いえ、この王都が無くなってしまう可能性もありますからね。ふふ、念のためです」


 そう言って、彼は笑うがその笑みは今までの笑みとはどこか違って見えた。


「こうして会ったのも何かの縁です。あなたの名前を教えていただいてもいいですか?」

「え? ……あ、ああ、俺はフリードです」

「そうですか。フリードくん。僕はレイチェルと言います。またいつか会えるといいですね。では」


 レイチェルさんは、そう言って店から出て行った。俺たちも店を出て帰路につくことにした。


「不思議な人だったな……そういえば、全然テンネが喋らなかったな、どうした」


 そう言ってテンネの方をみると、げっそりとした顔をしていた。


「お、お腹すいたにゃ……」

「それで静かだったのかよ」

「あと、にゃんかあの男気味が悪かったにゃ。ずっと笑ってて」

「まぁ……そうかもな。けどリンが嬉しそうだし俺は満足だよ」


 そう言ってリンの方をみるとうきうきした様子で足を弾ませていた。


「うきうき」

「うきうきって言葉に出すくらい嬉しいのかリン。よかったな」

「よかった。早く家に帰って読みたい」


 リンもそう言うので、その日は帰ってからみんなで外食に行った。テンネが鬼のように食べていたが、腹壊さないかだけ心配だな。

 さて、明日からはクエストを少し探そう。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
おつかい頼まれたので冒険してたら、いつのまにか無双ハーレムしてました〜最強民族の【はじめてのおつかい】〜 >
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