【家を買おう③】
「フ、フリードさん!!」
エリナさんが腕にしがみついてきた。役得で普段なら飛び上がるほど嬉しいはずだけど今の状況はそんなことを楽しんでる場合じゃない。
声のした上の方を見てみるが天井があるだけで誰もいない。そしてあの謎の声も聞こえなくなった。
「い、いったい何が……」
「だ、だから呪いですってぇ! もう帰りましょうよ! ね!?」
「う、うーん。そうですね。とりあえずテンネ達を捕まえてここから出ましょう」
そう思って部屋から出ると、ドドドドと二階の階段を勢いよく降りてくる音がした。何事かと思って見てみるとテンネ達が嬉しそうな顔をして階段を駆け下りていた。
「あ、フリード! 凄いぞ、これ見ろ!」
テンネが満面の笑みで俺の方へと走ってくると、彼女は右手で引きずっていた灰色のモヤのような物体を俺に差し出した。
「な、なんだこれ」
「ひゃあああああっ! もう無理いいいいい!」
エリナさんは遂に驚きが頂点に達してしまったようで走って家の外に出て行ってしまった。
というかこれ手で掴めるのか。
「にゃんか部屋を探検してたらブツブツうるさかったから探し回ったら出てきた!」
「出てきたってそれなんだよ? ……いや、待て。まさか……」
俺は再び部屋に戻り、天井をよく見てみる。するとかすかに、空間の一部が歪んでいる場所があった。俺は椅子の上に立ち、そこに手を伸ばす。すると何かを掴むような感触があった。
「ウアァア」
掴んだ際には何もいないはずなのに、そんな声が聞こえてきた。やっぱりか。
俺はそいつを床に引き摺り下ろした。すると観念したのか透明だった体が灰色の霧に変わっていく。
「こいつにゃんだ?」
テンネが戸惑っている。
こいつは――
「ゴーストだ」
「ゴースト? ゴーストってあの死霊系魔物の?」
「そうだ。おそらくテンネが捕まえてるのとこいつの2体が呪いの正体だな」
そう言って俺はゴーストを指差す。ゴーストは、俺も初めて見たが強い“魔”の影響で生み出される場合とこの世への怨念から生み出される場合に分かれると聞いたことがある。おそらくこの子達は後者だろう。
よくみると目と口の部分に黒い模様がある。手はあるが足はなく、煙のようにもやもやとしている。
「ウアァア。捕マッタァア。姉チャアン」
「うおっ、喋った!?」
テンネが捕まえてきた方のゴーストが突然喋り始めた。小さい男の子の声だ。すると俺が捕まえた方のゴーストも小さい女の子の声で喋り始めた。
「静カニシナサイ! アレヲイウノヨ!」
「ァア、ワカッタヨ姉チャン。タチサレ……タチサレ……」
「タチサレ……タチサレ」
「いやもうそれ言っても怖くないよ」
何やら決まり文句のようだが、正体のわかった今タチサレと言われて立ち去る俺じゃない。
「グウゥ、効カナイヨ姉チャアン!」
「諦メルノハハヤイワ! 寝言ガウルサクテ、怨念ガキカナカッタ戦士ニクラベレバ!」
何かよくわからんが、諦める気がないらしい。めんどくさいので色々ときいてみることにした。
「なぁお前らってこの家に住んでいた子供達か?」
「……ソウダケド」
「ゴーストとしてここにいるってことは恨みが残ってるのか?」
「アタリマエダ! 僕タチハアノ犯人ヲ殺スマデハ成仏シナイゾ!」
やっぱり殺人犯への恨みか。まぁそりゃそうだよな。
「この家に住もうとする人に、不幸を招いているのもお前らか?」
「ソウダ! コノ家ハ僕タチの家ダ! 誰ニモ渡シタクナイ!」
「なるほど……なぁ、この家に俺たちも住んでいいか?」
俺がそういうと、ゴーストは声を荒げて反論する。
「オマエ、馬鹿カ! 話キイテナカッタノカ! オマエラモ呪ウゾ!」
「まぁ落ち着けよ。お前らは復讐がしたいんだろ? でもその身体じゃ満足に復讐も出来ないだろう。けど俺がお前らにその力を与えることができると言ったら?」
「ソンナ嘘ニワタシ達ガヒッカカルトト思ッタノ!?」
「ここにいる魔人は皆俺がスキルで魔物から魔人に変化させたんだ。信じるかどうかはお前ら次第だが、悪い話じゃないだろ? お前らはもう10年以上復讐の機会を伺ってたんだ。その代わりこの家に俺たちも住まわせてくれ。もちろんお前らも住んでていい」
10万デリーでこんないい家を逃す手はない。それにこいつらゴーストの事情も少しきになるし。
「ド、ドウシヨウ……姉チャン」
少しの間の後、おそらく姉っぽい方のゴーストが答えを出した。
「イイワ、ドウセコノママデモ仕方ナイモノ。タダ先ニ私ニヤッテ」
「ネ、姉チャン」
「わかった。弟思いだな。いくぞ……」
俺は手のひらをゴーストへと向ける。
「リライフ!」
ゴーストを眩い光が包んだ。よし、成功した。ここまで言っといて発動しなかったらどうしようかと思ったが。
光が消え去った時、そこには背が小さく、オレンジの髪を2つ横に縛った少し強気な顔をした少女が現れた。もちろん全裸だ。ぱっと見ただの人間だが、肌が透明な紫なので明らかに人間ではない。少しスライムと似ているかも。
「か、身体がある! 足も!」
彼女は驚いたようにそう言った。そして身体をペタペタと触っているが、時々手が身体をすり抜けたりしている。どうやら完全な実体ではないらしい。
「ボ、僕ニモ!」
弟の方がそう頼んできた。俺は彼の方へ手を向けて、再び唱える。
「リライフ!」
弟の方も光に包まれ、そして魔人となった。姉よりも身長が小さく、弱そうな顔をしているが、嬉しそうだ。
「うわぁあ、やったぁ! ありがとう兄ちゃん!」
「まぁ約束だしな。お前ら名前はなんて言うんだ?」
「僕がサイド!」
「私がレモンよ。ありがとうと一応礼は言っておくわ」
サイドとレモンか。なかなか弱気と強気な姉弟で面白いな。と思っていると、レモンの方が頬を赤らめてこう言った。
「そ、それより服を着てきていいかしら」
俺はそう聞いて、服を着たがる奴なんて珍しいなぁと一瞬考えてしまったのは内緒だ。




