【家を買おう②】
「呪われてる?」
確認するように俺はそう繰り返した。するとエリナさんは青ざめた顔で頷く。
「はい。あの家に住もうとした人はことごとく不幸な目に遭っているんです。だからギルド関係者の中でもあそこは『不幸の家』と呼ばれていて」
「不幸の家、ですか。具体的にはどんな不幸が?」
「ま、まず幻聴が聴こえるそうです。幼い子供の幻聴。去れ、消えろ、などというらしいです」
幻聴か。確かにそれは怖いな……。
「それに、いつも誰かに見られている感じがするようなんです。お風呂場とか……」
「それは、気味が悪いですね」
「そうなんです! あと、壁の角に頭をよくぶつけたりだとか」
ん?
「物をなくして探していると、そんなところに落ちているわけがないのに家具の裏に落ちてたり」
んん?
「とにかく怖いところなんですよ!」
「何だか最後の2つは微妙でしたけど……誰か亡くなったりはしてるんですか?」
「いえ、死人や重傷者は出てません。ただ、前にあの家を取り壊そうとした際に、作業員が次々と熱を出して、作業を邪魔するような現象が起こって取り壊しは中止になったんです」
なるほど……確かに偶然にしては中々行きすぎてる感もあるな。
「まぁ、じゃあやめとくか。なぁテンネ――ってあれ?」
テンネがいたはずの方に振りかえると、そこには既に彼女はいなかった。というかリンもノンもいなかった。もしやと思い不幸の家の方を見ると、楽しそうに走って家の中に入っていく彼女たちの姿があった。
「あいつら家入ってっちゃったよ!」
「ど、どどどうするんですかフリードさん! の、呪われちゃいますよっ!」
「連れ戻してきます!」
「ええええ! あ、危ないですって!」
エリナさんのそんな声が聞こえたが俺は無視して家の方へ走った。それにしてもでかい家だ。こんな家が呪われてるなんてな。
俺は意を決して家の中へ入った。中は暗く、外の明かりがさして少し見えるような状況だ。中も木で作られてて、中央には二階に続く階段が構えている。俺は家に入ってすぐ左側にある部屋に入った。
ギギギと木のしなる音がして、扉が開く。さて入るか。そう思って一歩進もうとすると、誰かに肩を掴まれた。
「うぉっ!?」
俺は思わず叫んだ。そして恐る恐る後ろを見ると、そこには体を震わせるエリナさんの姿があった。
「エ、エリナさん? びっくりしたぁ」
「フ、フリードさんを放って置くわけにもいきませんから。あ、あの早く戻りましょう」
「そんなこと言ってもテンネ達が中に入っちゃってますし……どうせなら呪いの噂の真実も確かめてみません?」
「や、やめときましょうよ。危ないですよ」
「大丈夫ですよ。まぁ何かあったらすぐ出ますから」
「うぅ……」
まぁ俺も少し呪いとやらに興味があったしな。
そう思って俺は部屋の中に入ろうとした。すると誰かに押されるようなそんな感覚がしたかと思うと、俺の頭が扉の枠にぶつかった。
「いったぁ!? ちょっとエリナさん! 押さないでくださいよ!」
「わ、私押してなんかないですよ」
「え?」
エリナさんは恐れながらもいたって真面目にそう言った。確かに嘘はついていないようだ。
じゃあ誰が? そう思って少しゾッとしたが俺は考えないようにして先に進むことにした。
「や、やめましょうよフリードさん。今のが呪いですよ!」
「ま、まぁまぁ。もうちょっと見てみましょう」
部屋の中を見渡すと、どうやらここは客室だったようだ。テーブルとソファが置いてある。ふと部屋にある棚の方に目をやると、埃を被った本や大きめの絵画が置いてある。
絵画の埃を払って見てみると、そこには仲睦まじく椅子に座った家族4人の絵が描かれていた。恐らくこの家の元家主だろう。
「エリナさん。この家の元々の持ち主はどうしたんです?」
「……実は、この家の人たちは10年前に何者かに殺されています。犯人は不明で未だに見つかっていません。未解決事件の1つです」
「家族全員ですか?」
「ええ……私もその頃は幼かったので詳しくは知らないのですが。仲のいい両親とその幼い子供が2人いたそうです。なのでこの呪いもその家族達によるものなのではないかと……!」
呪いか……あまりそういうのは信じないタイプなんだけど……。
そう思った直後、天井か、はたまた部屋全体か、不気味な声が響き渡る。
「タチサレ……タチサレ……」
ちょっと流石に怖くなってきたな……。




