【家を買おう①】
目の前には服を着たノンの姿があった。
「こんなとこでどうでしょーっ?」
スバメさんがテンション高めでそう紹介する。結果から言えば、ノンの服は露出度が低いが高かった。どういうことかというと、服を着るというより部分部分を装着しているという感じなのだ。
肩から肘にかけては黒いふわふわとした装飾を付けて、肘から先は毛が多いから無視。同じようにお腹周りと太ももにも黒いフリルのついた服を付けている。流石に股間の部分は毛で隠れているとはいえ特殊な素材でできているらしいデニム系のホットパンツを履いている。胸も同様だ。
モフモフとした毛にもリボンなりの装飾を付けているせいか白い毛も服の一部に見える。と、まぁいろいろ言ったがノンにその服装は似合っていた。普段からおっとりしているノンが黒によって引き締まりどこか妖艶さを漂わせている。
「似合ってる、可愛いよ」
「そお? じゃあよかったぁ」
嬉しそうにはにかむノン。とても可愛らしい。
「なんかノンだけずるいにゃ。私も買う!」
「珍しくテンネと意見があった。私も欲しい。マスター」
テンネとリンがノンの姿を見てそう言った。あんだけ服に興味なさそうだったのに……。
「まぁお金はあるし好きなの買えよ」
「やったのだ!」
「ありがとう、マスター」
そう言って彼女たちは各々服を楽しそうに見始めた。うーん、やはり元魔物とはいえ少し人に慣れてくると女の子っぽいところが出てくるのかな。
そう思って眺めていたが、あいつらはあれもいいだの、これもいいだのと次々と服を欲しがり、結局大量の服を購入することになった。
「10万デリーになりまーすっ」
そう言ったスバメさんの満面の笑みがやけに脳裏に残ったのだった。
店を出て、大量の服の入った紙袋を持ちつつ、俺たちはギルドへと向かっていた。家を買ってから服を買えばよかったと思ったのは言うまでもない。
「あ、フリードさん。お待ちしておりました。す、すごい荷物の量ですね」
ギルドに入るとエリナさんがそう言って出迎えてくれた。やはり俺たちの荷物は目立つらしい。
「あー、まぁはい……服を買いまして」
「あぁそうなんですか! いっぱい買われたんですねぇ。じゃあ早速行きましょうか!」
そう言ってエリナさんは俺たちを連れてギルドから出た。やはりギルドを出るときに周りの冒険者たちに睨まれた。
そんでこの目線の理由が今わかった。俺への嫉妬のようだ。どうも俺に睨みをきかせてくる冒険者たちは全員男のようで、よく見るとチラチラとエリナさんの方も見ていた。つまりエリナさんと出かける俺が気に食わないのだろう。
「エリナさん、人気ですね」
だからギルドから出た後、彼女にそう言ってみた。
「えぇ? 何がですか?」
「ギルドにいた冒険者の人たちが俺の事睨んでましたよ。エリナさんといることを羨ましがってました」
そういうと彼女は照れたような感じで笑った後、少し困ったような顔をした。
「そういうの有難いんですけど……少し困っちゃう時もあるんですよ」
「まぁ、そりゃそうですよね。極まってきてつきまとわれたりするのも嫌ですしね」
「そうなんですよ! 本当にそういうのは怖くって……!」
なんだかこの反応だと本当につきまとわれてるみたいなんだけど……エリナさん大丈夫かな?
「って話それちゃいましたね! 今からご紹介する物件は王都の中心から離れてはいますけど結構いい物件ですよー」
そう言われて案内された家は王都から離れているものの、しっかりとした木で出来た家だった。ただ庭がないのだけ少し残念かな。
「へぇ、いいじゃないですか。おいくらですか?」
「60万デリーです」
ほうほう、結構いい物件な気がするぞ。そう思っていると、テンネが急に向かい側の雑草生い茂る場所に建てられている家を指差した。
「にゃー、あっちの家は? あっちの方が家も大きいし庭もあるのだ!」
確かに。向こう側の家はこの家より一回り大きい。
「まぁでもああいう家は高いんだよ。ねぇ? エリナさん」
俺がそう訊くと、なんといつもニコニコしているエリナさんが急に表情を暗くした。
「い、いえ……まぁそんな事もないというかなんというか……」
「えっ? ここより安いんですか!? いくらなんです?」
「……じゅっ……10万デリー……」
まるで聞かれたくないかのようにエリナさんは小さく呟いた。その額を聞いて俺は思わず大声で訊き返した。
「じゅ、10万デリー!?? あのデカさと庭付きで!?」
「え、ええ……まぁ、なんというか、はい」
「何だ、エリナさんも水くさいですね! そんな物件あるなら早く見せてくださいよー!」
「そ、そんなわけにもいかないですよ……」
「なんでです?」
俺がそう訊き返すと、エリナさんは歯切れが悪くこう返した。
「だ、だってあの家、呪われてますから」




