【服を買おう】
「98、99、100、101、102……102本! やっぱり何回数えても102本ありますよフリードさん!」
ギルドにキンジクを換金しに行くと驚いた顔をしたエリナさんがそう言った。
「いやまぁ……頑張ったので」
「頑張ってこんなに採れるものじゃないですけどねぇ。豪運の持ち主ですね、フリードさん!」
ニコニコと笑ってそう言ってくるエリナさん。まぁ見つけたのは俺じゃなくてサビルだからな。あいつが豪運の持ち主だ。
「じゃあ少し待っていてください。換金してきますね」
そう言ってエリナさんはギルドの奥へと入っていった。俺たちはそこらへんの椅子に座り待つことにする。
そういえば、と俺は思ってテンネの方を見る。
「テンネ、お前尻尾が二本になってた時はにゃーにゃー言ってなかったよな」
「にゃに言ってんだフリード?」
「うーん、お前キャラ付けのためににゃーにゃー言ってんじゃないのか? だとしたら俺にバレて恥ずかしいのはわかるけど普通にした方がいいぞ」
「だからにゃんの話?」
「うーん、じゃあ『生麦生米生卵』って言ってみて」
「にゃまむぎにゃまごめにゃまたまご」
「なるほど……まぁいいか」
どうやら本当にあの時限定だったみたいだな。
「それより、キンジクのおかげでお金が沢山手に入るけど……何に使おうか」
「ご飯っ!」
「本が、欲しい」
「ふかふかのベッドぉ」
上からテンネ、リン、ノンの順だ。テンネとノンはまぁなんとなくわかるがリンは意外だな。
「なんで本?」
「私はあまり世の中の事を知らない。だから知りたい。文字は、街に溢れているものを見て少し理解した」
「街の文字だけで? 凄いな、お前天才では? まぁでもそうだな……本にしても多くなったら持ち運ぶには大変だし、ベッドなんか以ての外だ。つまり……家がいるな」
「家?」
「そうだ、家だ! 俺たちの家を買おう。毎回毎回宿に泊まるのも金が飛ぶしな。安い家なら50万デリーあれば買えるはずだ」
そう俺は提案する。悪くない案だ。これからは荷物も増えるだろうけど、家があれば色々とものも置けるし便利なはずだ。
「おぉー家か。楽しみだにゃ」
「換金し終わったら早速家を探してみよう。いや、その前にノンの服だな」
「うんー。この服ゴワゴワするぅ」
人間用だから仕方ないんだろうけど、早く変えてあげたいな。
そんな事を考えているとエリナさんが札束を持って帰ってきた。
「はい、お待たせしましたフリードさん」
「ありがとうございます」
「全部で102本あったので今のレート換算をして102万7千デリーになります。ご確認ください」
俺は渡されたお金を確認する。ちゃんとあるみたいだ。
「はい、確認しました」
「ではこれでクエストクリアになりますね。お疲れ様でした。それにしてもフリードさん、また新しいメンバーが増えたんですね」
エリナさんがそう言ってノンの方へ目線をやる。彼女から俺はどう映っているいるんだろうか。魔人とばかりいっしょにいる変人、とかそのあたりかな。
「ええ、羊人のノンです」
「仲間が増えるのはいい事です。安全性が高まりますしね。ただそれにしても亜人が多いような気もしますが……まぁいいでしょう」
「それよりエリナさん。家を買おうと思うんですが、何かいい物件ないですかね」
「家ですか。これだけお金があれば買えますからね。ご紹介しますよ! ただ今仕事があるので1時間後くらいなら大丈夫ですが、どうなさいます?」
「それでお願いします」
そう言って俺たちはギルドから出た。ギルド内にいる冒険者達が俺のことを睨みつけるような視線で見ているのを感じたが……なんでだろう。
俺はギルドを出てノンの服を買うために魔人専用の服屋を探すことにした。しかしいくら探してもないので通りすがりの狼人の魔人にきいてみた。
「あぁ、それなら表通りにはないぜ。この道から外れて裏路地に入ったあたりにある。それにしてもあんた、可愛いな……」
「ノンはあなたには興味ないよぅ」
なるほど、やはり魔人系のお店は表立って商売をすることはあまりないんだな……。
俺はあえなくナンパに撃沈した彼にお礼を言うと、言われた通りに道をたどっていった。するとそこには確かにお店がある。小さいが木でできたお店でどことなく不思議な雰囲気を出している。
中に入るとカランカランと入店を知らせる鈴の音が鳴った。
「い、いらっしゃい……」
奥から出てきたのは今にも倒れてしまいそうなヨボヨボのおばあさん。肩から先の腕が鳥の羽根になっている。鳥人か!
しかしこんなおばあさんで大丈夫だろうか。
「あ、あの……この羊人の服を買いにきたんですけど」
「あぁ? あんだってぇ?」
おばあさんは耳に羽根を当てて聞こえないというジェスチャーをする。
「この羊人の服を買いにきたんですけどーっ!」
「んん? あんだってぇ!?」
「だーかーらー! この――」
「うっさいんじゃボケぇ!」
「痛ぁ!」
羽根で思い切り顔面を殴られた。いや殴られたというよりはたかれた? そんな姿を見てテンネは爆笑している。
しかし話が通じないんじゃどうしようもない。どうすればいいのやら。そう思っていると店の奥からまた1人の鳥人が現れた。今度は若い女性だ。同い年くらいだろうか。
「あぁおばあちゃん! またお客さんはたき落として! すみませんおばあちゃんは耳が遠くて」
「いえ、大丈夫ですよ……ははは」
「んん? おぉスバメか。今、わたしゃ接客中だよ」
「いいよ、後は私がやるから! おばあちゃんはほら、奥で休んでて!」
スバメと呼ばれた女性は腕というか羽根でおばあさんを店の奥へと押しやった。
「はい、お待たせしました。ご用件はなんでしょう?」
「あ、えーとこの子の服を買いに」
そう言って俺はノンを前に差し出す。するとスバメさんはふむふむと頷きながらノンのことを上から下まで見ていった。
「羊人ですか。毛が多いと辛いですよねぇ。わかります! 私も羽根と鉤爪あるんで大変で!」
そう言って彼女は履いていた大きめの靴を脱いだ。すると確かにそこには鋭い鉤爪がある。なるほど、それで靴が大きいのか。服も上は肩から先はないし、下はダボっとしたズボンだ。
「俺は服の事はよくわからないからこの子と一緒に選んでもらっていいですか?」
「はーい、お任せあれ!」
「じゃあ俺はそこらへんで待ってます」
「あ、椅子お出ししますねー!」
スバメさんがそう言って俺たちの分の椅子を出してくれた。俺は椅子に座りながら彼女のことを見て、そういえばあれ着るときはどうやって着るんだろう、とそんな事を思ったのだった。




