【冒険者】
朝、思わず俺は飛び起きた。
「うわぁ! テンネっ?」
「んにゃ?」
暖かいなぁと思って目を覚ますと、いつの間にかテンネが俺の布団に転がり込んで丸くなって寝ていたのだ。
「なんでお前こっちで寝てんだよ」
「あったかそうだったから」
シンプルすぎて何も言い返せなかった。
俺たちは身支度を整え、宿で朝食を食べた。
「これも美味しいにゃ。それにしてもフリード。これからどうするのだ?」
「おぉ、テンネ。お前これからの事を考えてくれてたのか。てことは俺についてきてくれるのか?」
「もちろんにゃ。フリードはいい奴だし、何よりご飯食べれるし」
ご飯優先かよ。まあいいか。そもそも『リライフ』をかけた魔物が俺から離れられるのかがそもそもわからないけどな。
俺に攻撃はできないんだから、離れる事も出来なそうな気がする、
「まぁついてきてくれるならいいや。実は冒険者になろうと思ってな」
「冒険者ってにゃに?」
「まぁ各地を回って財宝集めたり魔物倒したり依頼こなしたりして生計立ててる奴らの事だ」
「ふーん」
テンネは料理を食べ終え、手持ち無沙汰になったフォークで遊びながらそう返す。
「あんまり興味なさそうだな。テンネは同じ魔物を殺される事には何か思うところはないのか?」
「全然? 同じブラックキャットでも必要であれば殺すにゃ。魔物にそういう情はないにゃ」
「てことは俺の事も必要なら殺すのか?」
「それはにゃい。フリードは特別、ご飯くれるし」
「それを聞いて安心したよ。じゃあ冒険者としての登録をしに、王都に向かうか」
冒険者としての登録は、王都でできる。逆にいえば王都に行かないといけないがまぁそれは仕方ない。設備やら何やら揃ってないといけないからな。
「王都ってここから遠い?」
「まぁ馬車で1時間ほどかな。王都にいけばいろいろとあるから、そこを拠点にしたいな」
というわけで俺たちは馬車に乗り、王都へと向かった。
途中テンネは馬車に興奮しすぎて転がり落ちたりもしたが、無事着いた。
「ふわぁ……おっきいにゃあ〜」
「流石王都だな。俺も初めて来た」
田舎者の俺には見たことないようなものがいっぱいある。
流石に王都となると、魔人がかなり沢山いる。テンネもあまり目立たないだろう。
俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
「僕たち2人の冒険者の登録をお願いしたいのですが」
受付の若いお姉さんにそう頼んでみた。
「でしたらこちらへの記入をお願いします」
そう言って渡されたのは個人情報を書く紙と死んでも文句言うなよ、という誓約書だった。
まぁどちらも当たり前のものではある。俺は個人情報を書く最後の欄にある、使用できるスキル(任意)と書かれたものをスルーした。
任意なのはスキルを人に教えることに抵抗がある人間が山ほどいるせいだろう。スキルを知られることは致命的な弱点に陥りやすいからだ。
「んにゃあ?」
俺が提出しようかと思っていると隣で唸っているテンネの姿があった。
「どうしたテンネ」
「文字ってどう書くにゃ?」
そうか、こいつ書けないじゃん。というわけで個人情報の欄は俺が代わりに書いてあげた。
「そういえばテンネってスキルとか持ってるのか?」
「スキル? にゃにそれ」
「だよな……こういう時に『鑑定』スキルでもあれば便利なん――うぉっ?」
♦︎
名:テンネ
種族:ブラックキャット→亜猫人
体力:A
魔力:C
攻撃力:B
守備力:C
知力:F
精神力:B
器用さ:D
俊敏性:S
運:A
信頼度:A
スキル
『黒き影』『化け猫』『天然』
♦︎
目の前に薄い膜のような青い炎が現れ、テンネのステータスがそれに黒く書かれている。これは鑑定能力だ!
なぜ俺がこんなスキルを使える!?
思わず俺は驚いて自分にも鑑定を使おうとした。
「鑑定」
だが何も現れない。他の知らぬ人にも試してみたが何も起こらなかった。
これは……つまり、俺のスキルで擬人化した魔物にしか使えないのか……!
俺は再びテンネのステータスをみて、そのスキルの部分を触ってみる。炎だが熱くはない。するとスキルの説明が現れた。
『黒き影』
夜や暗い場所において相手からの視認度、感知度を下げる。
『化け猫』
あたりに魔素が多く興奮状態にある時、尾が二つに増え、身体能力が飛躍的に高まる。
『天然』
精神汚染系の魔法にかかりにくい
上二つとも知らないスキルだ。化け猫ってのはよくわからないが黒き影ってのはいろんな場面で使えそうだな……。天然もなかなか便利だぞこれ。ていうかスキル3つもあるなんて凄いな……この黒き影ってのから派生していってるのか。
そもそも一般的な冒険者のパラメータ平均がCとされてるからテンネは割と高い方だ。ブラックキャットは魔物のランク自体ではEランクで低級だ。それなのにこのステータスってのは……。
「おーい、おーいフリード? 何が書いてあるにゃ? それ」
「あ、ああ。悪い悪い。これはテンネのステータスだよ。中々強力だね」
「ふぅん、強いのか私は」
「そうだ、強い。それでテンネ。この誓約書のサインは自分でしてくれ。ここに書いてある文字がテンネって書くんだ。これを真似して」
「わかったにゃ」
テンネが書いた文字は蛇が踊っているかのようなものだったが、なんとか受理された。
しばらく待っていると、受付嬢が少しだけしっかりした紙をそれぞれ一枚ずつくれた。
「それが現在のあなたたちの冒険者である身分を示すものです。失くさないでくださいね。ランクFなのでただの紙ですが、Cまでいけば銅のプレートなどが与えられますので頑張ってください!」
お姉さんにそう言われ、俺たちは晴れて冒険者になった。




