【ロイヤーの失敗③】
ゴブリンロードにやられて2日が経ち、出血の割にそこまで大怪我ではなかったロイヤーとゾックは包帯だけを少し巻き、王都を歩いていた。
「まだ痛えなくそっ」
ロイヤーは道端にある石ころを蹴り飛ばしてそう言った。
「なんでこの僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」
「なぁロイヤー、スライム狩りでも薬草採取でもいいけどよ、クリアできるクエストを受けようぜ」
隣を歩くゾックがそう提案した。するとロイヤーは、怒りを露わにして反論する。
「馬鹿を言え! 薬草採取なんか僕にふさわしく無い」
「んなこと言ってもよー、もう金があんまり無いぜ?」
そう、彼らは高級な装備に大金を払ったために既に手持ちがあまり残っていなかった。
「だったら規模の大きなクエストを受ければいい。この前のゴブリン討伐のようにさ」
「いやでも俺ら結局一体も討伐してないぜ?」
「それは油断してただけだ。次はないさ」
自信満々でそう言い切るロイヤーを見て、ゾックは深いため息をつくのだった。彼らはそのままギルドへと向かおうとしていたが、途中で数人組の男たちに囲まれた。
「よぉ、やっと見つけたぜ。ロイヤーさんよ」
男の1人がロイヤーを見てそう言った。だが当のロイヤーは心当たりがない。ゾックにも心当たりはなかった。
「なんだお前ら」
そう返したロイヤー。すると男たちはさらに怒り、ひたいに血管を浮き上がらせた。
「ほぉ……! 俺たちを覚えてねえのか!? てめえが罠に嵌めた俺たちのことをよぉ!?」
男がそう叫ぶと、やっとロイヤーは記憶の中から男たちのことを思い出した。体のどこかにロイヤーたちと同じく怪我や包帯をしている男たち。
そう、彼らはあのゴブリン討伐の時に参加していた冒険者達だった。さらに言えば、彼らはロイヤーが助けを呼ぶフリをしてゴブリンロードの餌食にした冒険者たちだった。
その事実を思い出し、ロイヤーはひたいから汗を垂らした。
「どうやら思い出してくれたみてえだな。横にいるのはお前のツレだろ? てめえらちょっと顔貸せや」
男たちに取り囲まれ、逃げ場がないことを悟ったロイヤー達は、そのまま人気のない裏路地に連れ込まれた。
そして連れ込まれるや否や男の1人がロイヤーの頬を思い切り殴った。ロイヤーは建物の壁に叩きつけられる。
「ぐぁっ」
「ふぃー、やあっと殴れたぜ。少しはスカッとするな」
殴った男は尻餅をついているロイヤーを見て、そう言った。
「く、くそっ。お前らこんな事してタダで済むと思ってるのか!」
「あぁ!? お前が俺たちにした事を考えれば安いもんだろうが!」
「があっ!」
バキッとまた別の男がロイヤーを殴り飛ばした。ロイヤーは口を切り、地を垂らす。
そして1人の男がゾックの方を見てこう言った。
「てめえも仲間だろ。男なら仲間の責任とれや!」
「ぐぁっ」
ゾックも殴られる。だが彼は何も言わずにただその攻撃を受け入れた。
「てめえのせいでこっちは死ぬところだったんだ。てめえも死ぬ恐怖くらいは味わって貰うぜ。間違って死んでも許せよ」
「ぐ、くそっ! 離せ!」
男の1人がロイヤーの脇から腕を通して体を固定する。そして別の男がサンドバッグのようにロイヤーを殴っていった。ロイヤー達がFランクなのに比べ、男達はおおよそDかEの冒険者。力で敵うはずがない。
顔面、腹と殴り続け、時には人を交代してまた殴り始める。徐々にロイヤーは口を利く余裕もなくなり、顔は赤黒く変色して腫れていた。そしてそれはゾックの方も同様だった。
「ひゅーっ……ひゅーっ」
ロイヤーは風が通り抜けるような呼吸を腫れ上がった口でしていた。一方殴り続けていた男達の方も流石に疲れていた。
「はぁ……はぁ。ちっ、流石に手が痛えぜ。今日はここまでにしといてやるよ」
男はそういうと、ボロ雑巾のようにロイヤーとゾックを裏路地に投げ捨てた。
男達が去った後、ロイヤーはただただ仰向けになって静かに泣いていた。ゾックは逆になんの表情もなくただ空を見つめていた。
「ち、ちくしょう……ちくしょう」
ロイヤーは腫れた口で呟き続けた。




