【キンジクの花⑬】
「ふぁ、良く寝たにゃあ」
次の日になった。なんだかとんでもない体験をしてしまったような気がするが……まぁこれも人生か。
「んん? フリード、お前にゃんか変な匂いするにゃ……」
「えっ? な、何が!?」
思わず俺は食い気味できいてしまう。こいつそういえば嗅覚がいいとか言ってたな。
「なんか甘ったるいようにゃ……」
「ま、まぁいいんじゃない!? 俺がたまには甘い匂い出しててもいいんじゃない!?」
「それもそうだにゃ」
こいつが馬鹿でよかった……。俺はホッとして肩をなでおろした。
そして荷物を揃えて家の外に出る。
「……じゃあ俺たちは行きますね」
「ありがとうございました! フリードさん!」
「本当に、ありがとうございます。フリードさん」
サビルとアシッドさんに感謝された。もう何回感謝されてるやら。なんだかアシッドさんからくる目線が少し熱いような気もするが目を合わせると昨日を思い出して大変よろしくないことになりそうなので合わせないようにしよう。
よし行くか、そう思っていると男の声が後ろから聞こえてきた。
「よぉお前ら」
振り返るとそこにはガラの悪いあの男と俺たちに人が消えた場所の情報を提供してくれた中年冒険者の男が立っていた。
「なんで俺たちが一緒にいるんだ、って顔してるな。俺はダンゴーってんだが、実はこのピーラが俺と一緒にいたのに消えた男張本人だ」
中年冒険者改めダンゴーは横にいるガラの悪いピーラを指差してそう言った。
「どうやらダンゴーの手がかりから俺たちの拐われてる場所まで来てくれたらしいな。本当に感謝しかねえぜ。兄ちゃんありがとうな」
ピーラさんは真面目な顔をして俺に頭を下げた。この人顔が怖いので真面目な顔をされると怖いんだが。
「いえいえ。ダンゴーさんが銀の腕輪を見つけてくれたおかげですよ」
「へっ、たまたま見つけただけだよ」
ダンゴーさんは照れ臭そうにそっぽを向いてそう言った。だがピーラさんはニヤついてそれに反論する。
「おいおいダンゴー。嘘は良くねえなぁ。きいてくれよ兄ちゃん。実は俺が拐われたのは7日も前なんだ。んでこいつはその時点でキンジクを1本は既に見つけてた。だから本当は帰っても良かったんだ。けど今でもここにいるって事は……?」
「にゃーんだ。ダンゴのおっちゃんはこのピーラのおっちゃんが心配でずっと探し続けてたのかぁ」
テンネが全く男のプライドあたりを無視してそう言った。ダンゴーさんは顔を真っ赤にする。
「ばっ、ち、ちげーよ! たまたま残ってただけだわ!」
「たまたまで銀の腕輪を見つけるかねぇ? それにおめえ、周りの冒険者に聞き込みまくってたらしいじゃねえか」
「う、うるせえよ!」
赤くなるダンゴーさんにピーラさんはニヤニヤしながら追求する。俺はそれを真顔で見ていた。おっさんたちのイチャつきなど誰が見たいというのか。
「まぁそういうわけでだ。とりあえず俺らは兄ちゃんにお礼が言いたくてな。用はそれだけだ」
「そうですか。元気そうで良かったです」
「冒険者やってりゃまた会う機会もあんだろ。その時はよろしくな!」
「ええ!」
ピーラさんたちはそう言って村から去っていった。
「今度こそ俺たちも行こう」
そう言って俺たちはサビルとアシッドさんに見送られながら村を後にした。途中で見つけた馬車に乗りながら俺はノンに話しかける。
「王都に戻ったらノンの服を買わないとな」
ノンは今アシッドさんから貰った服を着ているが、モコモコした毛のせいか少し暑そうだ。
「ノンは別に服なんていらないけどねぇ」
「いやいるよ! お前は……ぱっと見裸には見えないからあれだけど、いるの!」
「ふぅん」
アシッドさんによると、王都なら魔人専用の服屋さんなんかもあるとのことだ。ノンみたいに普通の服だとごわついてしまったりする種族のための店らしい。帰ったら行ってみよう。
「そういえば結局金のキンジク、見つからなかった」
リンがそう言ってきた。
「まぁ取引はされてるみたいだからある事はあるんだろうけど。そういえばノンは見た事ないのか?」
「うぅん? 金色のキンジクゥ? すぐ食べちゃうからなぁ。見たことあるような、ないようなぁ」
「はっきりしろにゃーっ!」
「うあぁ。頭揺らさないでよぅ。ぐわんぐわんするー」
もどかしいノンをみかねたテンネが首を捕まえて揺さぶっている。俺はそれを笑って見ていた。
金のキンジクか……どっかにあるのかもな……。
そんなことを考えながら、俺たちの乗る馬車は王都へと戻っていった。
♦︎
その後の話。
フリードたちが村を去った次の日。サビルはアシッドと共に山に登っていた。2人で山菜を採りに来ていたるのだ。
「お、ヤラワダケだ」
サビルはキノコを見つけてカゴに入れていく。
「サビルー。あんま遠くに行かないでよ」
「わかってるよー」
少し遠くからアシッドがサビルを注意する。サビルは戻ろうと思い、立ち上がったがふと木の陰に何かを見つけた。
「ん? キンジク?」
サビルはキンジクを見つけたのだと思い、しゃがんでその花を覗き込む。その花は、まるで太陽のように眩しく黄金に輝いていた。
「ね、姉さーーん!??」
その日、サビルの驚きの声は、山中に響き渡ったらしい。
これでキンジクの花編は終わりです。少しは話が地に着いてきたような着いてないような。
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