【キンジクの花⑫】
みんなからの感謝も一段落し、俺たちはサビルの家にお邪魔していた。お姉さんのアシッドさんがどうしてもご飯はご馳走させて欲しいと言ってきたのだ。お言葉に甘えて俺たちはご飯を食べた。
「な、なんて美味しさにゃんだ!! これはいったいどういうことなのだ!?」
「テンネ、うるさい。黙って食べれないの?」
「リンは黙って食い過ぎなのだ!」
「みんなぁ、のんびり食べようよぅ」
ノンがもぐもぐとご飯を食べながらそう言った。良く食うなこいつら。
「にゃ!? それ私の肉だぞ! 返せえええ」
「ぐええぇ。か、かえせないよぉ。何故なら既にノンのお腹にあるからぁ、へへへ」
テンネがノンの首を絞めている。にもかかわらずノンはへらへら笑っていた。
「ふふ、皆さんお元気ですね」
アシッドさんがそう言って笑う。
「すみません……ご馳走になった上にうるさくて」
「いえいえとんでもない。いつもは私と弟だけですから賑やかで楽しいですよ」
そういえば両親の姿が見えないな。俺の考えを察したのか、アシッドさんは続ける。
「……父は先の大戦で戦死しました。母は流行り病で」
「……そうだったんですか。ではそれからはアシッドさんがこの家を?」
「ええ。大変ですけれど、この子がいますから頑張れます」
「は、恥ずかしいよ姉さん」
アシッドさんはサビルの頭を撫でながらそう言うが、当のサビルは恥ずかしそうだ。アシッドさんは俺の方を見て再び頭を下げる。
「本当にありがとうございました、フリードさん」
「い、いや。さっきも言ったけど俺なんて別に何も……」
「そんなことないですよっ!!!」
サビルが急に立ち上がって大きな声を出した。
「あ……す、すみません。でも、フリードさんが僕を初めに助けようとしてくれたんじゃないですか」
「そうだよマスター。あの時テンネなんて普通にご飯食べに帰る気満々だったし」
「それはその通りなのだ!」
えへんと胸を張るテンネ。そこは別に威張るとこじゃないと思うが。
そうだな、ここまで言われて遠慮してるのも失礼だな。
「まぁ、じゃあ有り難く感謝を受け取ろう! 今日は食べるぞっ!」
「にゃー!」
そのあと俺たちはめちゃくちゃ食べた。もうそれはお腹が破裂するんじゃないかってくらい。食べて満足したのか既にテンネたちは寝ていた。テンネなんかお腹を出しながらノンに抱きついて寝ている。まぁノンの毛は信じられないくらい心地いいからな……ノンはノンで「うーん」とかうなされてるが。
サビルも彼女たちと一緒に転がって寝ている。どうやら安心したらしくぐっすりだ。
「みんな……疲れちゃったみたいですね」
アシッドさんがお皿を洗いながらそう言った。
「まぁ良く動いてましたからね。疲れたんでしょう」
そう言って俺は彼女たちのずれた毛布をかけ直す。アシッドさんは洗い物を終え、手を吹いていた。
「フリードさん……改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
「いえ、自分がしたい事をしたまでですよ」
俺がそういうと、彼女は黙って何かを考え始めた。そして意を決したように俺の方へと近づいてくるとにこやかに笑う。
「フリードさんもお疲れでしょう。ここはもう寝るところがありません。お部屋にご案内しますね」
そう言われて、俺はベッドがある部屋へと案内された。部屋の様子からどうやらここは元々はご両親の部屋だったみたいだ。
「ここで寝ちゃっていいんですか?」
「はい、もちろん」
「じゃあ遠慮なく……」
そう言って俺はベッドへと潜り込む。はぁ、疲れたぁ。今日は良く眠れそうだ。
そう思い、瞼を閉じようとするとガチャリとドアが閉じる音がした。アシッドさんが出て行ったのかと思ってドアの方を見ると何故か彼女はまだそこに立っていた。暗がりだから彼女のことは良く見えないが、何してるんだ?
すると彼女は部屋の鍵をかけた。つまり何故か部屋に俺と彼女の密室空間が生まれてしまった。
「アシッドさん?」
「フリードさん……これはせめてものお礼です……」
不意に、パサッと布が落ちる音がした。これはおそらく……いや間違いなくアシッドさんが服を脱いでいる。
「な、ななななな何してるんです!?」
俺の言葉を無視して彼女は俺の方へとギシギシと床の音を立てて裸で歩いてくる。俺は思わず目を背けた。
「お礼です。こんなものしか私には返せないから……」
「い、いや何言ってるんですか! 大丈夫ですよ! そんな無理しなくても俺はもう満足です、満足度満点ですよ!」
俺がそう言っても彼女は歩みを止めず、やがて俺のいるベッドへと腰掛けて俺にまたがった。
「私じゃ……いやですか……?」
俺の耳元で囁くアシッドさん。思わず全身が震える。
「い、いやそんな事は言ってない、ですけど……」
彼女の体が密着する。女の人独特の甘い匂いが俺を包んだ。ま、まずい、色々とまずい状況になってる!
「ふふ……準備は大丈夫みたいですね」
アシッドさんは含みを持たせて手のひらを俺の下半身の方へと動かしていった。
俺はもう、何も言えなくなっていた。
「大丈夫です、私に全て任せてください……」
とろけるような甘いささやき。
俺は彼女の甘美な誘惑に抗うことができず、次の日、妙にスッキリとした表情で起きることになる。




