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【キンジクの花⑨】

 

 死霊魔術師ネクロマンサー。死霊魔術に関するスキルを持っているものがなれるが、そのスキルが稀有なため、まず見かけることはほとんどない。人間、魔人、魔物、あらゆる死体を操ることができる。だが、その特有のスキル故か心を病む人も多く、ネクロマンサーになったものは幸せになれないと噂されているとか。


 そんなネクロマンサーが、今俺の目の前にいる。細身の高身長、眼鏡をかけていていかにも頭の良さそうなこの男がネクロマンサーとは、世の中わからないな。


「それにしても……なんだかここは空気が重いというか魔素が、濃いな」

「実験のためには魔素は濃くないといけませんからねぇ?」


 そう言って眼鏡の男は笑みを浮かべる。


「……あんた、このおっさんとはどこで会ったんだ?」


 このおっさんはヴィーナスさんが捕まえに行った筈だ。それがなんでこんなところに。


「どこで、とは可笑しな質問ですねぇ。私はガズルとはあなたより先に会っていますよ」

「他の2人はどうした」


 おっさんには他に2人仲間がいた筈だ。


「あぁ、それなら『適応』しなかったので捨てました」

「適応……?」

「まぁお話はここまでにしましょうか。あなたがここに来るのは少し予定外でしたが、逆にガズルの実力を見る良い機会になった。フリード君、あなたには彼と戦ってもらいましょう」


 そう言って、眼鏡の男はおっさんに指示を出す。するとおっさんは数歩歩き眼鏡の男を庇うように彼の前に立った。

 おっさんは手から鉄の棒を出しそれを握りしめている。


「仕方ない、やるか。みんな、来るぞ!」

「はいにゃ」

「ノンも戦うー」

「私は、サビルを診てる」


 リンは痛みで気絶してしまったサビルを治療していた。


「行きなさい、ガズル」


 眼鏡の男に指示され、おっさんが襲いかかってきた。おっさんは、太さがそこそこある鉄の棒をぶん回し、俺にたたきつけようとする。速いが、単調だったため俺はそれをかわす。固い土でできた地面に鉄の棒が叩きつけられると、地面がえぐり取れるように穴が空いた。


「凄い力だにゃ」

「あんなのに当たったら体取れちゃうよー」


 俺の体に当たったらひとたまりもないなありゃ。俺が避けている間に、テンネは敵の後ろに回り込み、背中を斬りつけた。


「どうにゃ!」


 しかし、おっさんは斬られても血も何も出ず、そのまま体をひねってテンネに鉄の棒を叩きつけた。


「ぎゃっ!」

「テンネ!」


 テンネの腹にモロに鉄の棒が叩き込まれた。そのままテンネは吹き飛んで、壁に激突する。

 俺はテンネの元へと駆け寄った。


「大丈夫か!?」

「いて、いてて……痛いにゃ……けど直前で体を捻ってダメージを和らげたから骨は折ってないのだ」

「よし、立てるか?」

「うん」


 テンネを立たせて再び敵の方へと向き直る。何故かその間奴は攻撃してこなかった。なめてやがるのか?


「しかし、攻撃が効かないとなると……いよいよめんどくさいな」

「足を切り落として動けなくするしかないねー。頭を落としても動けるのかなぁ?」


 ノンが怖いことをさらりと言っているが手段としてはそれが正しいのだろう。ただそれを奴がさせてくれるかは別だが。とにかくやるしかないか。


 俺は走っておっさんに斬りかかる。すると彼は俺の攻撃を避けず体で受けきると、そのまま俺に鉄の棒を叩きつけようとしてきた。俺はあえてそのまま前進して奴の攻撃をかがんで避けつつ、タックルをかました。

 奴は俺の突撃で地面に倒れる。すると間髪入れずにノンが走ってきて、剣を振り下ろした。


「首、もーらいー」


 ザンっと何かが切り落とされる音がする。ふと上を見ると、おっさんの首が綺麗に無くなっていた。

 慌てて俺は首なきおっさんから飛び退く。


「やったぁ、首とったよー、ご主人褒めて褒めてぇ」


 そう言ってノンは俺の元へと走ってくると笑顔で擦り寄ってきた。こいつが一番怖いかもしれない……。

 俺は倒れているおっさんの方を見る。動く様子はないが、警戒はしたほうがいいかもな。そう思っているとノンがおっさんの死体を突っつき始めた。


「どーやって動かしてるんだろうー?」

「おい、ノン! あまり不用意に――」


 俺がノンを注意しようとした、その時だった。動かないと思っていた首無しの死体が、動いた。奴の横一線に振り抜いた鉄の棒がノンに当たろうとしている。

 ――無意識だった。

 俺はノンのことを突き飛ばした。


「ぐぁあっ!!」


 脇腹に訪れる激しい痛み。体の奥からバキバキと骨が砕ける音がした。俺はそれを感じながら壁に叩きつけられた。


「ご主人っ!!」

「フリードーッ!!」

「マスター!」


 テンネたちの叫ぶ声が聞こえる。だが痛みのせいでそっちに注意を向ける余裕なんてない。


「あーあ、駄目ですよぉ。私のアンデッドは首を飛ばした程度では止まりませんヨォ」


 眼鏡の男が笑っているようだ。くそ、むかつくぜ……。

 俺にとどめを刺そうと、死体が鉄の棒を持って俺に迫っている。まずい、動けない。このままだと、死ぬ……。

 そう思っていると、テンネが凄まじい速さで死体を蹴り飛ばした。


「フシャアアアア……!」


 テンネが俺の目の前で、四足歩行になって唸っている。俺からは後ろ姿しか見えないが、かなり殺気立っているようだ。何か声をかけたいけど、上手く口が開かねえ……。


「フリードを、よくも……許せない! 許さない!」


 いったいどういうことだ……!?

 唐突にテンネの全身が紫色に光り始めた。光はテンネを禍々しく包み込み、そして収束していった。光が収まった時、テンネは四足歩行ではなく、二足歩行で立っていた。心なしか身長が少し高くなっているような気がする。そして、1本だった尾は2本になっていた。


「お前を赦しはしない……!」


 いつもとは違うテンネの低く美しい声が重々しくあたりに響いた。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
おつかい頼まれたので冒険してたら、いつのまにか無双ハーレムしてました〜最強民族の【はじめてのおつかい】〜 >
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