【キンジクの花⑥】
もふもふしててあったかい。まるでここは雲の上か?
俺はそんな風に思いながら目を開けた。
「ん、あ……」
すると俺の目には、首を垂らしてこっくりこっくり寝ている女性の顔が映る。
だ、誰だ?
俺は今の状況を確認するために起き上がる。すると俺はどうやらこの女性の膝枕で寝てたらしい。
女性は腕や足に白いモコモコとした毛が生えている。というかお腹と肩から肘、太もも以外はモコモコしている。ただ手足は人間と同じ形だ。頭にはウェーブがかった白い髪が肩より下まではえている。人間と同じ位置に少し長めのモコモコした耳が生えていて、頭にはねじれたツノが2本ついていた。
なるほど、この子がスリープシープの魔人化か。
「おぉ? 起きたのかフリード!」
「マスター、大丈夫ですか?」
「フリードさん」
俺が起きたことに気づくと、テンネたちが駆け寄ってきた。どうやら俺が最後に起きたらしい。
「俺たち寝てる間に襲われなかったのか?」
「寝てたのはフリードだけにゃ。私たちはすぐ起きたぞ」
「え? そうなの?」
「うむ。起きたらフリードが見知らぬ魔人の膝枕で寝てるから何事にゃ、と思ったけど本人に聞いたら安全そうだったからそのままにしたのだ」
「本人ってこの子か?」
俺は寝ているスリープシープを指差す。すると「うん」とテンネは頷く。
他の2人の話も聞き、話を整理するとどうやら俺がリライフをかけた後、すぐに他の3人は起きたらしい。つまりその時点で眠りのスキルは無くなってたってことだ。
けど何故かその後も俺は寝てたらしく、その間にリンが勝手に怪我した俺にポーションをぶっかけたりしててくれたらしい。
そうこうしているうちに、スリープシープは目を覚ました。
「あ、起きたー。おはよー。気持ちよく寝れたぁ?」
彼女は俺を見るなりそうきいてきた。
「あ、はい。ぐっすり寝れました」
だから俺は思わず、そんな風に返した。ほんわかとした笑顔で思わず癒される。
「それはよかったぁ」
「えーと、驚かないのか?」
「何がー?」
「いや、体。魔人になってるでしょ?」
「んー?」
彼女は体をぺたぺたと触り、感触を確かめるとやや遅れて驚いた。
「あれぇー? ま、魔人になってるー。すごーい。なんでー?」
き、気づいてなかったのか。
その反応に逆に俺が驚いたが、俺は状況を説明した。
「――というわけだ。つまり俺が君を魔人にした」
「えーと……という事は、あなたがご主人様だねー」
そう言って笑うスリープシープ。この辺の物分かりの良さは割と魔物共通なのだろうか。
「じゃあ、君に名前をつけてもいい?」
「いいよー。欲しーい」
うーむ。スリープシープ。シープ。おっとり。のほほん。よし決めた。
「お前はノンだ」
「ノン? ノンは、ノン。わかったぁ。ありがとう、ご主人」
嬉しそうに微笑む、ノン。のほほんから取っただけだがな。
俺たちのやりとりを見て、サビルが驚愕の表情をしていた。
「ま、まさかとは思ってましたけど……フリードさんのスキルって……ま、まも、魔物使い!?」
どうやら気づいたらしい。まぁバレたなら仕方ない。
「そうだ」
「あ、あの伝説的悪魔スキルの……魔物、使い……ま、まさか魔物が亜人になるなんて……」
そう言って後ずさりするサビル。
テンネは不思議そうにそれを見つめた。
「にゃあフリード。にゃんでサビルはこんな怖がってるのだ?」
「俺の持つ魔物使いってスキルは……この国いる人なら誰でも知ってるおとぎ話に出てくるスキルだ」
俺はテンネにおとぎ話の内容を話した。内容はこうだ。
昔、あるところに魔物の言葉がわかる子供が産まれた。周りの人々は気味悪がったが、親は子供を愛情を持って育て上げた。子供はすくすくと育った。子供は青年となり、17の歳で神からスキルの名を授かる。それは魔物使いと呼ばれるものだった。
それは誰も知るもののいないスキルだった。そして周りの人々は更に気味悪がった。青年はスキルの事を知るために旅に出た。旅の途中、青年は亜人や魔物に話を聞いていった。すると、彼は魔の者たちと長く接し続けた影響で、自らも魔物と成り果ててしまった。そして青年は魔物の大群を率いて、人間たちに襲いかかってきたのだ。
滅ぼされそうになる人間たち。だがその時、ある人間が立ち上がる。彼は一国の王子だった。その人間は、恐るべき強さを持ち瞬く間に魔物たちを追い返す。そして王子は魔物使いとの激闘の末、見事魔物使いを倒したのであった。王子はその後、お姫様と結婚して幸せに暮らしたとさ。めでたしめでたし。
そう、そんなどこにでもある勧善懲悪もののおとぎ話。




