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【天然猫娘】


 目の前にいた魔物がいつの間にやら美少女になっていた。馬鹿みたいな話だけど本当にそうなんだから仕方ない。

 長い綺麗な黒髪。瞳も黒い。頭には耳がぴょこんと2つ生えている。あと尻尾も黒いのがそのままだ。服を着てないので、目のやり場に困る。


「お、お前なんで人間になってんだ?」


 思わず俺は彼女に向かってそう訊いた。


「にゃにゃっ!? にゃんで人間に私の言葉がわかるのだ!?」

「な、なんでってお前が人間の言葉を喋ってるんじゃん」

「え? え? どういうことにゃのだ? 私が人間の言葉を喋っている? お前が私たちと同じ言葉を使っているのではなく? うーん、うーん?」


 頭をひねって考え始めた猫娘。魔物使いっていうのは魔物をそのまま使役するんじゃなくて魔物を擬人化させるものだったのか……。

 彼女はしばらく悩んでいたが、考え直したのか俺の方を見て四足歩行で歩き始めた。


「ま、いいのだ。とりあえずお腹すいたしお前を食うのだ」

「なんでそーなる!?」

「いただきまーす。あれ? 食えない。身体がいうこと効かにゃいのだ!?」


 猫は俺の前で馬鹿みたいに口だけ開いてそのままふるふると震えて止まっている。ふざけているわけではなさそうなので、どうやらこれがスキルの効果のようだ。使役した魔物は俺に攻撃できないんだな。

 

「無駄っぽいぞ。お前は俺に攻撃できない」

「にゃんでだ!」

「まぁそういうスキルだからな。それよりお前、お腹空いてるんだろ。俺が食べさせてやるから俺を襲うのやめろ」

「ご飯くれるのか!? じゃあやめるのだ!」


 すぐに俺から離れて尻尾を振り始めた。こいつかなり単純だな。


「ところでお前、名前ないのか?」

「名前? 名前ってあの魔人の人たちが付けてるあれかにゃ!? 私たちにはないのだ」

「親から呼ばれる時になんて呼ばれてた?」

「おい、とか娘、とかそんな感じ」

「魔物には名前がないのか。不便だな、俺が名前つけていいか?」

「えー! そんな魔物の私が名前なんて魔人に恐れ多いのだ!」

「いやけど、今のお前ってヒト型で耳と尻尾あるし、魔人じゃないのか」

「にゃ? にゃにゃ?」


 彼女は、自分の身体をまじまじと見ると、急に驚き始めた。


「にゃんじゃこれはー!? 身体が人間になってるのだーっ!」

「最初に言ったじゃん俺……」

「凄いのだ、凄いのだ! 魔人になるなんてお母さんとお父さんに自慢できるのだ! これはお前がやったのか!?」

「そうだ。そして俺はお前ではなくフリードだ」

「凄いぞフリード! 天才だお前は! フリードの事は食わないでやるのだ。それに名前もつけさせてやるのだ」

「魔人に恐れ多いんじゃなかったのか?」

「今の私は魔人だから別にいいのだ!」


 基本的にこいつはすぐに気持ちが変わるんだな。それにしても名前か。つけるって言ったものの、どうしようかな。

 ブラックキャット。ブラック、キャット。黒い猫。天然、アホ。馬鹿。


「そうだな、お前はテンネだ!」

「テンネ! いいにゃそれ! どういう意味なのだ!?」

「う……えーと天使のような猫。で、テンネだ!」

「にゃんだフリード! 私のこと褒めすぎだにゃあ」


 テンネは嬉しそうに頬を手の甲でさすって尻尾を振っていた。

 あ、あぶねえ。天然からそのままとったとは言えねえ。


「とにかく、一旦近くの町にいこう。テンネも服着ないとまずいしな」

「服? 服ってそういうのか?」


 テンネが俺の服を指差してそう言う。


「そうだ。とりあえずは俺の上着を貸すからこれを着とけ」


 俺はリュックから羽織るものを取り出して、彼女に着せた。まだ露出は多いがさっきよりマシだ。


「にゃんかゴワゴワするにゃ。脱いでいいか?」

「駄目だ。魔人になるなら全裸はまずいだろ。あと二足歩行だな」


 俺はテンネの手を持って、両足だけで立たせた。最初は慣れない様子だったが、流石に運動神経がいいらしく、すぐに慣れた。


「便利だにゃ。二足歩行!」

「それは良かった。それでテンネ。この辺りで人間の町を知らないか?」


 痩せ我慢をしているが俺の背中の傷も早く治療しないとまずい。


「わかるのだ。あっちの方だにゃ。よし、じゃあ私が案内するのだ」

「そうか、じゃあよろしく頼む」


 テンネに導かれるまま、俺は町に向かった。歩いて30分頃たつと、俺たちは町についた。


「ここだにゃ」

「ここは……【サンテール】か。なるほどだいぶ歩いて来てたんだな俺は」


 サンテールは俺の故郷【ハマラ】から西に20kmほど離れた場所にある。雨の中よく歩いてこれたな俺も。まだ夕方なのに。


「じゃあテンネ。ご飯は少し待っててくれ。俺はちょっと傷を治療する」

「怪我してたのかにゃ。わかったのだ」


 俺は道具屋に向かい、回復役である【ポーション】を2つほど買った。そして宿をとって部屋に入る。


「これが人間の住む家か。面白いのだ」

「ちょっとテンネ。手伝ってくれ」

「にゃんだ?」


 俺は上の服を脱ぎ、ポーションをテンネに渡す。


「それを俺の火傷してる部分に少しずつかけていってくれ」

「うわぁフリード。結構痛そうだにゃ。わかったのだ。やってみる」


 テンネはポーションをゆっくりと俺の背中にかけていった。じゅうじゅうと煙を立てて俺の皮膚が回復していく。

 2本目のポーションが空になる頃には、俺の火傷は治っていた。


「よし、治った治った。ありがとうテンネ」

「じゃあついにご飯だにゃ!」

「いや、その前にお前の服を買おう」

「えー、めんどくさいにゃ! 私は裸でもいいぞ!」

「お前が良くとも他が困る」

「ぶーぶー」


 俺たちはそのまま服屋に行き、嫌がるテンネを諭しつつ、下着なども含めて服を一式揃えた。

 そして再び宿屋に戻り、テンネにそれを着させる。


「にゃー、これって何?」

「それはパンツだな」

「にゃんでこれをズボンの下に履くの?」

「そりゃ直に履いたら色々と問題があるだろ、汚いし」

「ふーん。人間ってめんどくさい。これだと交尾する時大変だにゃ」

「こ、交尾ってお前……そん時は脱げばいいだろ」

「えぇ? でもたまに凄く興奮する日とかあるだろう? いちいち脱ぐ時大変じゃにゃいか? 私はまだ経験が無いけど、お母さんはそういう日はお父さんとずっと交尾してたにゃあ」


 まさか……発情期のことを言ってるのか? これ、どうなんだろう。流石に人間に近づいたからそういうのは無くなったよな?

 今は深いこと考えるのはやめよう。


「まぁとにかく服は着てくれ。下着もな」

「わかったわかった。私は魔人だからこんな事でつまづかないのだ」


 少しして、着替え終わったテンネを連れて、飯屋に向かった。

 魔人は魔物と比べるとそこまで嫌われてはいない。町でもちらほら見かける。とはいえそのほとんどが、冒険者だったり奴隷だったりと、一般人ではない。

 おそらくテンネも俺の奴隷だと思われてるのだろう。


「ここでご飯が出てくるのかっ?」

「そうだ。テンネ、何が食べたい?」

「にくっ!」


 というわけで俺は肉系の料理を2人分頼んだ。料理が出来上がっても、店員は最初テンネの分だとは思わなかったらしく、料理を俺の方にだけ持ってきたりもしたが、まぁこれくらいは仕方ない。


「た、食べていいか?」

「いや、待て。お前、ナイフとフォーク使えないだろ」

「ないふとふぉーく?」

「ちょっと待ってろ。俺が肉を刻んでやるから」


 俺は手で食い始めそうだったテンネを止めて、彼女の肉をナイフで細かく切ってあげた。そして、フォークの使い方を軽く説明すると、彼女はたどたどしく肉をさして、口の中に放り込む。


「どうだ、美味いか?」


 俺がそう聞くと、テンネは目を輝かして答えた。


「凄いぞフリード! 私が今まで食べた肉の中で一番美味しいのだ! ほっぺたが落ちそうだにゃ」

「それは良かった」


 もぐもぐと食べ続けるテンネを見て思わず俺も笑みがこぼれる。

 飯を食べ終え、満足感を得た俺らは宿へと戻った。


「ふー食べた食べた。美味しかったにゃ。ありがと、フリード」

「そりゃどうも。俺を食べずにすんでよかったよ」

「もうフリードを食べたりなんかしないのだ!」

「当たり前だ。さて、今日は疲れたな……寝るか」


 俺はベッドをテンネに譲り、床に毛布を敷いてそこで寝た。テンネは一緒に寝ようと言ってきたが寝られる気がしないので断った。


 村のみんなは……ロイヤー達は、どうしてるんだろう。それにリズも。

 明日はどうしようか。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
おつかい頼まれたので冒険してたら、いつのまにか無双ハーレムしてました〜最強民族の【はじめてのおつかい】〜 >
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