【キンジクの花③】
道無き道を歩き、サビルはついに案内を終えた。そこには確かに、赤銅色の花が辺りに咲いていた。
男達はそれを見て歓喜する。
「こ、こりゃすげえ! 100本はあるんじゃねえか!?」
「こんだけありゃあ暫くは楽に暮らせるぜ!」
「よくやった。サビル!」
大の大人達がきゃっきゃと騒いでる姿を見て、サビルはため息をついた。彼には一刻の時も惜しいのだ。
「約束は果たしたよ。早く、それを採って姉さんを探してよ」
「うーん? 姉さんだぁ? そんな約束したっけか? なぁお前ら」
「いやぁ? 覚えてねえなぁ。へっへっへ」
「俺も俺も。記憶にございませぇん」
男達はへらへらと笑ってそう言った。サビルはそれを聞いて怒りを露わにする。
「なっ!? ふっ、ふざけんなよ! なんのために僕がここまで案内したと思ってるんだ!」
「へっへっへ、そんな怒るなよサビルゥ。ちょっとした冗談じゃねえか、へへ」
ニヤニヤと笑いながら、1人の男がサビルに近づく。サビルは何か嫌なものを感じて後ずさるが、男はサビルの腕を掴んだ。
「な、なんだよ」
「俺よぉ、ちーっと疲れちまったんだわ」
「だ、だからなんだよ」
「わかんねえか? ちょっとよ、お前で癒させてくれやぁ!」
「なっ!? や、やめ――」
男は、サビルをその場で組み伏せると、息を荒げながらサビルの服を脱がせようとしていた。
「あーあー、始まったよ。ケインの悪い癖だ」
「俺も口は使わせて貰おうかなぁ」
「うげっ、まじかよ。お前よくできるなぁ、男だぞ?」
「へへ、よく見てみろよ、顔は可愛いじゃねえか」
残った男2人も下衆な会話をしていた。サビルはなんとか抗おうと必死だったが、腐っても冒険者であるケインの腕力には敵わなかった。
もう駄目だ、そうサビルが諦めかけた時、目の前からケインの姿が消えた。
一瞬脳の理解が追いつかなかったサビルだったが、さっきまで自分を襲っていた男ケインは横に倒れていた。
そしてサビルの目の前には、猫の耳を生やした黒髪の女、魔人が立っていた。
♦︎
間に合ったか? テンネの表情を見る限り、どうやら間に合ったようだ。
そう、俺は怪しげな3人組と少年を追いかけてこんなところまで来たわけだが、来てみて驚いた。なんせキンジクの花がこんなにいっぱいあるんだからな。
それにしても、何やら口論が始まったかと思えばあの男が少年を襲い始めた時は何が起きたのかわからなかったぜ。まぁすぐにテンネに助けに向かわせたけど。
俺とリンはテンネに遅れて少年の方へと近づいた。すると、テンネが蹴飛ばした男が唸りながら立ち上がる。
「い、痛え。な、なんだてめぇ? 亜人? ちっ、なんでこんなところに……」
「なんだなんだてめえらはよぉ!」
「俺たちに楯突く気かぁ!?」
男の仲間2人が俺たちにそう言ってくる。
わかりやすい悪党だな。
見たところテンネの攻撃に反応もできてないし、プレートも持っている様子はない。つまり冒険者だとしてもCランク未満の冒険者なのは確実だ。
これくらいなら、俺でもなんとかなるだろう。
「マスター、やっていい?」
「いいぞ」
リンが珍しく意欲を示したので、許可を出す。リンはそのまま敵に突っ込んでいく。
「てめぇ、ふざけてんのか! ぶっ殺してやる!」
男の1人が、リンの首にナイフを突き刺す。リンはそれを避けようともしなかった。
「へへっ、やった――!?」
男のナイフは確かにリンの喉付近を突き刺している。だがリンはスライム。いくら突き刺されようがダメージはない。
「残念、ハズレ」
「ぬ、抜けねぇ! ぐぁっ」
男がナイフを抜こうとするが、リンがそれを左手で静止する。そして、腰から短剣を抜き取ると、あっさりと男の胸に剣を突き立てた。
男は白目を剥き、その場で事切れる。
「て、てめぇふざけやがって!」
「よそ見しちゃ、駄目にゃのだ」
「え?」
仲間がやられ、怒ったもう1人の男がリンに襲いかかろうとするが、それより早くテンネが男の後ろに回り込んでいた。そして首元に剣を一閃。
血しぶきをあげ、男は倒れる。
残ったのは、少年を襲っていた男1人になった。その男は俺たちを完全に恐れ、腰を抜かしてしまったようだ。
「さて、残るはお前だけだな」
「ひっ、や、やめてくれ」
「まぁ別に俺たちは関係ないからどうでもいいっちゃどうでもいいんだけど……」
俺はそこで少年を見る。すると彼も俺の視線に気づいたようで、こちらをみた。少年の目はひどく怯えていた。
それはまるで、ロイヤーたちにいじめられた俺を見ているかのようだった。
「やっぱ許せないな」
「え、ちょ――」
俺は男の心臓を剣で貫いた。あまりにもあっけなく、男は事切れる。
なんだ……ゴブリンとあまり変わらないな。




