【キンジクの花②】
おじさんとの話も終え、俺たちは山に登ることにした。ひとり300デリーの入山料を払い、いざ入山。
「私、山は初めて」
リンはあたりをキョロキョロと眺めながらそう言った。
「情けにゃいにゃ、リン。私にゃんか沢山の山を駆け抜けたのだ」
「というかリンの場合ダンジョンにいたんだから大体のものは初めてだろ?」
「確かに、そう。けど、何故か少しだけ……懐かしい」
リンはどこか哀愁漂う表情でそう言った。
魔物には前世の記憶とかあったりするのだろうか?
「そういえばリンって何歳なんだ? テンネもだけど」
「歳? さぁ? 私はスライムでいた時の記憶が酷く曖昧。霧がかかったかのようにぼんやりしてる」
「私はわかるぞ! えーと、生まれてから夏が来て、冬が来て、夏が来て……あれ、今何回目の夏だっけ?」
「俺が知るかよ」
結局2人の年齢はわかりそうになかった。こう見えて俺よりかなり年上だったりするのだろうか。
「けどマスターと会って、私は新しく生まれた。だからまだ0歳」
「にゃらリンより早くフリードに会った私はお姉さんなのだ! お姉ちゃんって呼んでもいいぞ!」
「嫌だ」
「にゃんでだ! 呼べ!」
「嫌だ」
また勝手にテンネとリンが口論し始めてしまった。最近仲良いなこいつら。
俺たちは山に入り歩をすすめ、中腹部まできた。すると、途中から冒険者らしき人々が徐々に現れてきた。なるほど、みんなキンジクが目当てらしい。
「あ、フリード見てみてキノコにゃ」
「テンネ、お前キノコ好きなのか?」
「たまに食べてたにゃ。うーん、これは舌が痺れる、毒だにゃ」
そんな方法で判別してたのか。猛毒で死んだりしないか心配だな。
テンネを心配すら傍ら、あたりを見渡していると、怪しげな男3人組が小さな少年を連れて林の奥の方へと歩いていくのが見えた。
家族……には見えないな。だとすると奴隷か? にしてもこんなところに連れて行く意味がわからないが……。
「テンネ、リン。少し音を潜めてついて来てくれ」
結局気になってしまったので、俺はその男たちの後をついて行くことにした。
男たちは、少年を連れてはいるがどうやら案内されているのは男たちのようだ。少年の支持する方へと男たちは歩いていく。
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3人の男と、少年が山を歩いていた。男たちはどこかニヤニヤしながら少年の後をついていき、少年は不安げな顔をしている。
「よぉよぉ、サビル。まだつかねえのかぁ?」
「ま、まだだよ。もうちょっと先なんだ」
サビルと呼ばれた少年は、言いようもない不安に駆られながらもそう返す。
「へっへっへ。キンジクは売れるからなぁ。サビルゥ、嘘だったらわかってるよなぁ」
男達はへらへらと笑う。そう、サビルはこの男達にキンジクのある場所を教えようとしていた。サビルがその場所を知ったのはほんの偶然だったが、それに目をつけたのが村に住むゴロツキの男達だった。
キンジクは売れる、がキンジクはスリープシープに関わらず魔物達を惹きつけることが多い。山で冒険者でもないものがキンジクを採取し、下山するまでに魔物に襲われたという話は後を絶たないのだ。
だからサビルは迂闊にキンジクを取って帰ることはできなかった。そのかわり、情報を教えて対価を得る作戦に出たのだ。
「それよりあんたら、約束はわかってるよな?」
「わーってるよぉ、消えたお前のお姉ちゃんを探せばいいんだろ? やってやるから安心しろって」
そう、サビルがこの男達と交わした契約は、消えた姉を探してもらうというものだった。
現在この山では失踪事件が相次いでいる。
そのほとんどが家族がいない冒険者のため、あまり誰も気にしないが、村人の場合もある。サビルの姉もその1人だった。山に山菜を取りに行ったっきり突然の失踪。既に2週間が経っている。サビルは焦っていた。
「……絶対に見つけて見せる。姉さん……!」
「ボソボソ言ってねえで早く進めよサビルゥ」
サビルは男達に軽く尻を蹴られながらも、決意を固めた。




