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【胎動】


「それにしてもフリード、あんたの仲間なんでどっちも魔人なのー? うけるー。フリード人間の仲間いないのー? あ、もしかして友達いない感じー?」

「いや、まぁいろいろあって……」

「にゃんだこいつムカつくにゃ」

「マスター、私この人嫌い」


 テンネとリンがイライラしている。まぁ気持ちはわからんでもないが。


「ありー? 嫌われちった。きゃはは。いやーそれにしても強かったねーゴブリンロード」

「まさかあんなところに上位種がいるなんて思わなかった」

「本当だよねー」

「それよりヴィーナスさん。あなた、かなり強いですね。もしかして上位ランクの方では?」

「うち、言うほど強くないよー。ほら、Bランク!」


 彼女が見せたプレートは銀だった。確かにBランク。Bランクといえば冒険者では上位10%には入る怪物たちだ。

 何か飄々として掴めないけど、この人かなりの手練れだ。


「強いじゃないですか」

「うーんそうかなー、そうかもねー」


 なんててきとうな人なんだ。

 俺たちはその後も他愛ない話を続けて村に戻った。


「おぉ、みんな……無事だったか!」


 村長や村人が解放された女子供たちを見て歓喜の声を上げる。皆それぞれの家族と抱き合い、喜んでいた。


「ありがとうございます。感謝しかないです」

「気にしなくていーよ。んじゃねー、ほらフリードちゃん、付いて来て」

「え? あ、はい」


 ちゃん、ってなんだ。

 俺はヴィーナスさんに言われてそのまま王都まで帰った。そしてギルドで救護部隊の要請をかける。


「すぐに救護部隊を向かわせます」

「よろしくぅー。さて、フリードちゃん。突然ですがぁ、問題でーす」


 なんだ急に。この人は本当に読めないな。


「今回のクエストで不自然だった点はなんでしょう?」

「そりゃあ、ゴブリンロードがいた事でしょう」

「それじゃあ満点はあげられないなぁ。じゃあ聞き方を変えよー。今回のクエストの冒険者の人数はどうだった?」


 人数? そりゃあ多かったよな。俺もみんなが集まった時、かなり多いと思ったし。


「多かったと思います」

「そだねー。じゃあなんで多かったの?」

「え、そりゃあ羽振りのいい報酬だったからじゃ? 大量にいるゴブリンを狩れるし」

「違うよ。あのクエストは普通そんなに集まらない。そもそもクエストの紙にはゴブリンが大量にいるなんて書かれてないし」


 え? そうだったの? それは全く知らなかった。


「うちはクエストが始まった時、実は村長に話を聞いてたんよねー。そしたらやっぱり大量発生してるだなんて思ってない様子だった」

「え? いやでもあれって緊急クエストって言ってましたよね。てことは村長がゴブリンが多いことがわかってないとそうはならないと思うんですが」

「あれはクエスト開始の数時間前、つまりギリギリに王都から申請されたんよ。つまり村長もよくわかってなかったって事ー。村長は多くとも2、30匹程度のゴブリンがいるとしか思ってなかったっぽいよ」


 クエスト開始の数時間前? それに村長は大量発生を考えてなかっただと?

 あの洞窟にいたゴブリンは俺たちが狩った奴らだけでも15匹。全体だと優に100は超えていたはずだ。いったいどういうことだ?


「何故ここまで認識の齟齬が?」

「じゃー思い出してみ? フリードちゃんがなんでゴブリンが大量発生したと思うようになったのか」

「それは、このギルドにいた……おっさん達にそう言われたから」


 そうだ。あのおっさんがゴブリンが異常繁殖しててそれを狩るだけだから美味しいクエストだって言ってた。


「なるほど。で、そのおっさんとやらはクエストに来てたー?」

「そういえば……見なかったな」

「つまりそういうことー。あんた達はまんまと騙されたってわけ」

「え、あのおっさんに?」

「そー。多分そいつがゴブリンロードと組んで冒険者を沢山おびき寄せたんしょ」


 まじかよ、あのおっさん魔物達と組んでたってのか。まぁ確かにニヤニヤしてていかにも怪しかったけど。

 つまりおっさんはあの洞窟にゴブリンを狩らせに冒険者達を集めたわけだ。そしてゴブリンロードに倒させてなんらかの報酬を受け取るってことか。


「じゃあ捕まえないと」

「それはうちに任せといてー。それはうちの専門だから」

「専門?」

「あ、言ってなかったっけー? うちはほら、【アイデン騎士団】の団員だから」


 そう言って彼女は俺に、鉄のプレートに刻まれたアイデン騎士団の文字を見せる。


 アイデン騎士団。このアイデン王国を守る騎士団だ。賞金首や重大犯罪者などを主に取り締まっている。騎士養成学校を卒業し、更に選び抜かれたエリートだけが入れると聞いてる。

 まさかヴィーナスさんがそんなエリートだとは。


「じゃ、そういう事で。またねーフリードちゃん」


 何かを聞く暇もなく、ヴィーナスさんはそう告げると、風のように何処かへと去っていった。

 こうして俺の初めての討伐クエストは幕を閉じた。



 ♦︎



 その日の夜、王都の路地裏では、3人の冒険者が地面に叩き伏せられていた。

 既に1人は事切れて、1人は気絶していた。


「ひぃっ、や、やめてくれぇ」


 残った男は、フリード達にクエストの情報を流していた者だった。

 そんな男が恐れているのは、ニコニコと笑いながら彼を踏みつけるフードを被った男だった。


「全く。何故逃げようとするのですかねぇ? 逃げるからほら、ひとり死んじゃったじゃないですか」


 男は、死んだ男を指差してそう言った。


「ゆ、許してくれ。まさかゴブリンロードが倒されるなんて思ってなかったんだ!」

「私は言いましたよねぇ? 出来るだけ低ランクの冒険者を誘い込めと」

「そ、そうしてたさ。けど何故かBランクの冒険者が紛れ込んでたらしいんだ!」

「言い訳は見苦しいですよぉ。その冒険者はヴィーナス・ブルマー。なんとあのアイデン騎士団だというじゃないですか」

「なっ、そ、そんな……」


 男の顔はどんどん青ざめていく。自らの犯した失態の大きさに気づき始めたのだろう。

 フードの男は、自らの顔にかかった眼鏡をぐいっと持ち上げると、低く重たい声で言った。


「あなたは【失敗】しました。失敗したもの達がどうなるかは……ご存知ですね?」


 フードの男はそう言いながら手からナイフを投げ、気絶していた男の首元に突き刺した。首元からはぴゅうぴゅうと鮮血が流れる。


「あ、ああ……あああ」

「では、御機嫌よう」

「うわぁああぁあ――」


 夜の街に、ひとりの断末魔が虚しく響き渡った。




一応ここまでで序章は終わりです。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
おつかい頼まれたので冒険してたら、いつのまにか無双ハーレムしてました〜最強民族の【はじめてのおつかい】〜 >
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