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【生と死の境目】


 時間が来たようだ。

 村の中心に村長らしき初老の男性が現れて話し始めた。


 びっくりするくらいの冒険者たちが集まってるな。こんなに集まるものなのか? けど……クエストを紹介したあのおっさんはいないな。


「今回はこんなにたくさんお集まりいただきありがとうございます。クエスト内容はゴブリン討伐です。この村から西に進んだ先の洞窟にどうやらゴブリンが巣を作ってしまったようなのです。村の作物を盗られ、女子供が拐われ、私たちは今危機に瀕しています。今回はゴブリンを倒した分だけ報酬が増えますので、皆様にはゴブリンを殲滅していただきたく思っています」

「村長さん、ひとつ質問なんだが、本当に報酬は払えるのか? この村の様子じゃそんな財源は無いように見えるんだが」


 1人の男が手を上げてそう発言する。

 確かに、貧しそうな村だ。とてもそんなお金を持っているようには見えない。


「その点についてはご安心を。今回は体裁上はこの村からのクエストになっていますが、実質は王都からの【緊急クエスト】です」


 瞬間あたりがざわついた。

 なるほど緊急クエストだったのか。


「マスター、緊急クエストって何」

「王都に危険が迫る可能性があるとされたものは緊急クエストとして王都からギルドに依頼がいくんだ。つまり財源は王都。そりゃこんだけ弾むわけだ」

「なるほど」

「けどフリード。ゴブリンってそんにゃに強くにゃいだろ? にゃんで王都に危険なのだ?」

「そこは予想でしかないけど……まず、ここが王都から近いってのと異常な繁殖ってのが理由かな。後はそうだな……ゴブリンの上位種がいる可能性があるとか?」

「上位種ってホブゴブリンとかゴブリンロードとか?」

「まぁ、そうだな」


 自分で言っといてなんだが上位種がいる可能性なんてほとんどない。もしいたとしたらそれは冒険者のランクを指定してパーティを組ませて討伐させなければいけないレベルだ。

 ボーダーフリーのこのクエストでそんな事が起きれば大惨事になる。


 そもそもゴブリンは厄介な魔物だ。強いわけではないが弱いわけでもない。少しの知恵はあるから油断しているとやられる。その割に討伐したところであまり報酬がないから割に合わないのだ。だからあまり皆クエストを受注したがらない。

 そうなると今回のように、繁殖してしまったゴブリンを狩ることになるのだろう。


「ではみなさん、よろしくお願いします」


 村長のその挨拶とともに、冒険者達はみな急いで西に向かって進み始めた。

 ゴブリンが何匹いるかわからないから手柄を取られる前に取ろうって魂胆だな。


「マスター、急がないの?」

「急いだところで仕方ないよ。俺たちFランクだし、急いで死んだら元も子もないしね。ほら、ゆっくり向かってる人たちもいるじゃない」


 そう、あまり急いでない人たちもいる。

 目の前にいる兜をつけていて表情もよくわからない人なんて余裕な雰囲気を出している。

 ベテランの人かな? プレートは見えないけど。何か村長と話し込んでいるようだ。


「とにかく俺たちも向かおう」


 そうして俺たちも洞窟に向かって歩き始めた。洞窟に近づくにつれて、血と獣の匂いがし始める。

 あたりにゴブリンの死体が転がっているのだ。

 既に戦闘は始まってるみたいだな。


 俺たちは意を決して洞窟の中へと入った。中は暗いのかと思ったが、ところどころで松明が置いてあり、あまり暗くはない。恐らくゴブリンが置いているものだろう。

 奥の方からゴブリンの叫び声や人間の悲鳴が聞こえる。戦ってるんだろう。


 なんだか急に実感が湧いてきたな。ドキドキしてきた。急に襲われたらどうしよう。


「あっ!」

「うわっ、びっくりした! なんだよテンネ!」


 急にテンネが声を出したから思わずびっくりしてしまった。


「たぶんこっちにゴブリンがいるにゃ」

「なんだそれ、勘か?」

「うんにゃ、匂い」


 そういえばこいつ猫だった。

 テンネの誘導に従って洞窟内を歩いていく。それにしてもこの洞窟、広いな。

 もともと何かで使われてたのか?


 ――ぶんっ。


 風を切る音がした。


「フリード!」

「うわっ!?」


 テンネが急に俺に飛びついてきた。俺は思わず地面に尻餅をつく。

 壁に何かが突き刺さる音がして、俺はとっさに顔を上げる。すると俺がさっきまでいた場所の壁には斧が刺さっていた。


「大丈夫かにゃ?」

「あ、ありがとうテンネ」


 あ、危ない。あと少しで死んでいるところだった。

 ドッドッと心臓が鼓動を打っている。生と死の境目だ。俺は甘かった。常に緊張感を持つ。それができていなかった。


「そこにゃ! 逃すか!!」


 テンネは斧が投げられた方向へと走り出した。ゴブリンは物陰に隠れていたらしい。テンネは一瞬でゴブリンの元へとたどり着くと、腰から剣を引き抜き、一刀の元に斬り伏せた。


「ギギャア……!」


 ゴブリンは断末魔をあげて息絶える。

 テンネは剣についた血を空を切って振り払った。


「テンネ!」

「フリード、やったのだ。1匹討伐にゃ」

「お、お前すげえな」


 それ以外の言葉が出てこなかった。

 その後、討伐の証にゴブリンの右耳をそぎ落とし、それ用の袋に入れた。


「それにしても、危なかった」

「フリードは注意力が足りにゃい」

「ご、ごめんなさい」

「マスター、怪我は?」

「いや、無いよ。大丈夫」


 俺もまだまだだ。

 ここからは気を引き締めていこう。



お読みいただきありがとうございます!

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ちなみにテンネ、洞窟内で実は黒き影のスキルが発生しています。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
おつかい頼まれたので冒険してたら、いつのまにか無双ハーレムしてました〜最強民族の【はじめてのおつかい】〜 >
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