父さん、僕頑張るよ
ミアとの約束を守る為、俺は強くなる事にした。
父さんがあんだけ強そうなんだから、俺も強くなれる筈だ。
俺は毎日基礎トレーニングをすることにした、もし前世の俺なら、「基礎?なにそれ美味しいの?」とかぬかして応用から始めて挫折するところだったが、もう同じ轍は踏まない。
折角の強くてニューゲームなのだから、無駄にはすまい。
基礎トレは早朝と夕方からする。朝、近くの湖を一周する、湖沿いに街道が整備されており、距離も体感だが道沿いで6キロ程と、割りとすぐ走れる。
ランニングの後は父に剣術の稽古を付けて貰う。
お願いしたら、父は目を丸くして喜び、明日にでも始めようと言ってくれた、メイド一同が苦い顔をしていたのは、ここだけの話だ。
職務に差し支え無い程度でお願いしたい。
剣術の稽古とは言ったものの最初の1ヶ月は、もっぱら素振りと、踏み込みの練習だった。
剣術の稽古が終わると、水浴びをして食事を取る。そして食べ終わったら、いつものように丘へ行って、ミアと魔法の練習をする。
筋トレを始めてから変わった事があった、今までミアが来るのは俺よりも遅く、いつも寝ぼけ眼だったが、最近はもっぱら先に来て待っている、それも目を輝かせながら。
どうやらお目当ては俺の筋肉らしい、特に朝パンプアップした上腕が。
彼女曰く「たまたま早く起きただけ」だったり「時間を間違えた」らしいが、明らかに目線が釘付けで、まったくと言って良いほど説得力がない。
まあ、モチベにつながるし。ってかほぼこれの為だし良いんだけどね!
子供ながらに筋肉の良さが分かるとは、天晴れだ。
一月前魔力を送り込んだのを切っ掛けに、ミアは操作を使いこなせる様になった、と言っても特に目に見えた変化は無いのだが、彼女は曰く「これを意識すると体が軽くなるの」とのことだ。
俺はそれを味わった事は無いが、それを言う彼女の瞳に曇りはなかった、ならば信じる他あるまい。
それから更に半年ほど経った、剣術の稽古も基礎に加えて父と竹刀を交えるようになった、と言っても竹でなく土塊の模造刀だが。
この頃は魔法の方も変質が使えるようになり、魔術の基本要素は大方身に付けていた、と言っても変質と放出は対象の違いであり、送り込むか、送り出すかの違いでしかない、だからこの前ミアにやったのは変質の方だったようだ、確かにミアはあれから変わった、俺にめっきりご執…いや魔法が使えるようになった、あからさまでも自惚れるのは良くない、こんなとき前世があって良かったと思う、傲慢は何も産まない。
それでも心は踊る、大切なのは体ごといかないことだ。
そういい聞かせて部屋を後にする、今日は大切な話があるのだとか。正装とまではいかないが、普段は着ない服を着てリビングへ向かう、今日はミアの家族とホームパーティだ、ご両親の前で醜態を晒すわけにはいかない、次があるかは分からないのだから。
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今日はやけに華やかな格好だなと、ミアは思っていた。いつも通りエドと遊んだ後、春の夕暮れ時に家へ戻ると、風呂に押し込まれ、母が笑顔でドレスを持ってきた。さらさらで真っ白なドレス。何時もとは違う服装に、遊びの疲れがとれるようなわくわくを感じた。
「どこ行くの!?」そう聞いたミアに笑顔を増して「ひ・み・つ」と答える。母ながらも、若きクレアに、乙女心は捨てきれない。
母子共に、にこにこで着替えるのを横目に襟を正すのは、ミアの父であり、ライデンハルトの馴染みである、ガルフォレア。
この男、平然を装いつつも、心は渦が尾をひいていた。「俺の娘は断じてやらん、それが旧友の頼みであっても」
最近良く遊びに行く事について聞けば、タコが出来るほどに、エドの話を聞かされ、親として見極めんと、意気込んでいた。「馬の骨にミアはやらん」
着替えるまでは良かった、いつか着たいと思っていたきらびやかな服をみにまとい、大人にまじってパーティに参加する、母の読んでくれたお伽の世界に迷い込み舞踏会に参加する。そしてそこで私を迎える王子さま、願わくばそれはエドの様な人が良い。そんな妄想で頬を緩めながら、母に連れられ着いた先はエドの家だった。
遊び場から何時も見ていた家は、お城と言うには小さいけれど、それでも家と言うには大きすぎる気がした。
「シャキッとしなさい、これからエド君に会うんでしょ!」
引かれた手が、ミアを妄想から引き出す。「う、うん!…うん?」
うなずいてから、事の重大さに気づいた。私、結婚するのかな…