君に惚れそう
ママが帰ってきてから3年が経った。5歳に成った俺はその年の誕生日に、短剣と指輪を貰った。どちらも今使えるような物では無いが、5才の誕生日には杖か剣を贈るのがこの地域での習わしだと、カトレアが教えてくれた。
俺的には5歳の子供に武器をあげるなんて無駄な事に思えたが、カトレア曰く、一部の魔石が含まれる道具には、使用者と印を結ぶことで、共に成長し、その人間の本質的な力を発現する物があるからこの時期から武器を持たせておくのだとか。
俺がもらった物も良質な魔石が使われているのだとか、なんかRPGっぽくていいね。
短剣は危険だからという理由で父が7歳まで預かることになったが、指輪のほうは今からつけておく事になった。
こっちもなくさね?っと思ったけどこの指輪もどうやら魔石が使われているらしく、俺が「外れろ」って思わないと、外れないらしい、一応安全策として特殊な呪文でも取れるって言ってた。 親切設計だね。
それと最近、近所に引っ越してきたとこの子供と友達になった。名前はミア、真っ赤なおさげに、琥珀色の瞳をした女の子だった。
どうやら越してきたのは父の昔なじみらしく、ここには父の勧めで来たようだった。
父方の提案で親睦会を開くこととなり、近くの丘でピクニックをした、そこが最初の出会いだった。
最初こそ内気であまり話さない子だったが数か月すると、毎日のように二人遊ぶようになり、一緒にいる時間が長くなった。
それからは色々な事をして遊んだ、ミアの家に行って料理の作り方を教わったり、うちに来てカトレアと一緒に園芸をしたり、洗濯物を土で汚して回ったり。
毎日が新鮮だった、少女はいつも思いもよらないことを考え、僕を驚かせるし、無垢で純粋な悪戯は、長く忘れていたことを思い出させてくれた。
彼女との時間は、いやだった記憶も卑怯な性格もすべて忘れて純粋に楽しむことができて、いつしか彼女が生活の中心となっていた。
それから幾つか年を取ると、今度は書斎の本を持ち出して、彼女に読み書きを教えたり、魔術の練習をするようになった。
普段から家にあった本を読んでいて良かった、おかげで教鞭を執ることができた。
一通り彼女に読み書きを教えてから、魔法の勉強を始めた。
最初は教本にあった操作の魔法から覚えた。それは体内の魔力を手や足に集中させたり、高度な物になるとそれを、放出もしくは変質できるようになる。すべての魔法はこの操作の応用、発展形であり、魔法使いを志す者はまずこれを身に着けるのだという。
しかし基礎は基礎でもなかなか難しかった、操作というのは魔力を意識するところから始める必要がある為、コツを掴むまでなかなかの集中力が必要だった。持ち出した教本にも初歩でくじけないことが成功の秘訣であるとかいてあった。
しかし、集中力が持たない子供にこれの会得は一苦労で、俺も操作に2週間、放出ができるように成ったのはそれから更に2週間後だった。
「あっ!ちょっとエドってば酷い!勝手に放出の魔法まで使って、一緒に進めようって言ったじゃない」俺がある程度放出を使えるようになってからもミアは操作に苦戦していた。
「だから言っただろこれはミアの為だって」
「何が私の為よ、いつもうまいこと言って私をだますんだから」
それはとばっちりだと言いたいが、控えるべきであることをここ数年でいやという程学んでいた、だからあえて無視して話を変える。
「それよりさ、ミア右手出してよ」
「何するつもり?変なことしたら承知しないわよ...」
という割には、頬を赤めて手を出すあたりまんざらでもなさそうだ。
「多分大丈夫だよ、やったことないから分からないけど」
「ほんとに何するつもり?」
訝し気に覗き込む大きな瞳にドキッとしながらも、あくまで平然を装う。
「ミアが魔力を意識できるように僕の魔力を君に少し流すの」
「それ大丈夫...なの?」
「本には特に書いてなかったし、大丈夫じゃないかな。それじゃあやるよ」
踏ん切りが付かないミアをよそに少しずつ魔力を流し込む。確かに魔力が流れていくのを感じると同様に、体内魔力の消失と精神的な疲れを感じる。この感覚が放出と呼ばれる所以たる所であると思う、今までの操作は体内の魔力を循環、圧縮するものだったのに対し、放出は内部の魔力を外に出す行為であるから、疲労を感じるのだと思う。つまりは肉体における血の役割を精神における魔力が果たしているのだから、肉体で言うところの出血に当たる行為が放出ならこの疲労感は当然だとも言える。
それにしても酷い、少しやりすぎたせいか頭がぼーっとしてくらくらするし、平衡感覚も曖昧で、さっきまで立っていたはずなのに、横になっている気がする。
「...ド ..ェド、ねえエドってば、ねえ、どうしたの!?起きてよ!」
気づけばミアの膝の上で空を見上げていた、見下ろす顔は目元が赤く腫れ、大粒の涙が頬を伝っていた。
「ごめんね、ミアもう泣かないで」
指でミアの涙を拭う
「だって、だって、突然倒れて...アリアみたいに居なくなちゃうかもって...そした涙とまらなくて...」
アリア、ミアの妹で、ちょうど越してくる一年前盗賊にさらわれ、今も行方がしれない。
「大丈夫だよ、もう居なくならないし、ミアを心配させない、だから泣かないで、ミアは笑顔のほうが素敵だから」柄にもなくキザなことを言って、少し恥ずかしくなる。
「エドのくせに生意気ね、でも忘れちゃやだよその約束」
そういって小さな手を握り小指を出す、それに合わせて小指を絡め、約束の指切りを交わした。