私の愛した全て
カトレア達が帰ってきた翌日の昼、リビングにはママを除く六人が卓を囲んでいた。
「どういうことよ、ナタリ!後遺症はないって言ったじゃない」
興奮を隠せない様子で叫ぶのはイレーヌだった。
(後遺症?確かに手紙には大丈夫って書いてあった気がするな…でも今の様子だとあれは間違ってたのかな。
普段は温厚なイレーヌが叫ぶなんてよっぽど酷かったのだろうか…
抱きついた感じ、俺を産んだにしてはスタイルが抜群だったぐらいしか、分からなかったが…)
「イレーヌ!落ち着くんだ。ナタリに非はないと言ったろ、医者だって分からなかったんだ」
ナタリに食ってかかるイレーヌを制止しなが立ち上がる。
「君は一旦頭を冷やすべきだ、今回の件に関しては誰が悪いというわけでもない。これ以上冷静でいられ無いなら、席をはずしてもらうぞ!」
(パパも随分気が立ってるみたいだな、やっぱり深刻な後遺症でもあったのだろうか…)
「すいません…やはり一度頭を冷やしてきます」
イレーヌが立ち去った卓は水を打ったように静まり返っていた。しばらく様子を見ているとパパが重い口を開いた。
「医者は治療法は無いといったんだな?」
パパがこの質問をするのは今日3度目だった。
「申し訳ございません」
深々と下げられた頭は、涙で床を濡らしていた。
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数日たつと屋敷は平穏を取り戻していた。平穏というには少し忙しないが、それでも以前のような穏やかな生活を送っていた。
ママが帰ってきてから家には大勢のお客が来た、ぽっちゃり伯爵とか、気取り侯爵夫人とか、中には皇帝の使いもいた。さすがに皇帝の使いは通してたけど、他は全員メイドに門前払いされていてちょっといたたまれなかった。
しかもその頃ママが何をしてたかって言うと俺を膝にのせてカトレアと園芸の話をしていた。どうやら園芸はカトレアのほうが詳しいらしく「あの花はアナスタシアの花で~」とか「土には砕いた魔石を混ぜていて~」なんていう話をしていた。
ママが病気だった2年前とそんなに違うのだろうか?そもそも病気や後遺症の話は何だったのだろうか、と考えたりもしたが、鼻をかすめるママの髪がくすぐったくて、いまいち考えがまとまらなかった。
吹き抜けから覗く二階の曇りガラスからは昼の日差しが二人を照らしていた。向かい合って座っているイレーヌの髪が日差しを受けキラキラと艶めき、その豊満な胸に穏やかで丸い瞳、それは愛の女神が生まれ変わったかのようだった。もしも彼女が愛の女神ならさながらママは……何だろうか?
別に女神って雰囲気でもないけど、この辺りでは珍しい、照らすと茶色になる黒髪にイレーヌとは対照的な細身の体が、少し華奢な印象で、でも笑った時に目元が細まると、元気な幼子のようでとってもかわいい。
パパが好きになるのも納得である。カトレアがママじゃなかったらパパに嫉妬しているところだった。
でも今はこの膝を独り占めしているから、パパに嫉妬されてしまうかも知れないな。
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いつの間にか夜だった、隣室からはメイド達の声が聞こえる、どうやら食事の準備をしているみたいだった。それにしてもこの屋敷にはメイドが多い。
幾らこの家が広いと言っても客間を合わせて、10部屋程しかないにも拘らずメイドが3人も仕えているのは不思議だった、やはり書斎にあったエッチな本と関係しているのだろうか?そうならパパが羨ましい、ここのメイドは全員美人だから、
それに加えてナタリ以外は皆エルフっぽい子だから余計に羨ましい。
そんな嫉妬の嵐に渦巻かれていると、メイド達が何やらママについて話していた。
「カトレア大丈夫かしら…記憶は戻らないかも知れないって…」
「そうね……、でも戻らなくたって良いじゃない、私達がカトレアに救って貰った過去が消えるわけ出でもないし、これからも仕えていくことに変わりは無いんだから」
「まぁ、そうだけどね…でもあの甘いお仕置きはもう受けられないのかしら…」
「なに言ってるのよ//ってか焦げてるわよ!」
「ほんと!!」
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甘いお仕置き…!?
いや、まずは記憶喪失か、どの程度の物なのだろうか?過ごしている内では感じなかったし、然程酷くは無いのだろうか…
いや、それにしては先日のイレーヌの取り乱しかたや、ナタリの涙には説明が付かない気がする。あの取り乱し方は異常だったし、他のメイドもあの席では涙を浮かべていた。やはり重症なのか、或いは何か特別な過去があったのか…
真相は闇の中だ。