第一話 歩く女
とあるトラック会社で
「おお、大塚、ご苦労さん。遅かったな」
「あ……社長、まだいたんすか。ええ、ナビが効か無ぇ田舎道だって聞いてたましたんで、地図は持って行ったんすけど、入り口が解り難くて……携帯の電波は届か無ぇわ、コンビニも無ぇわで………」
「ああ、あの入り口は解り難い。初めて行く奴は間違いなく迷う」
「社長、それで心配して、俺が帰って来るの待っててくれたんすか?」
「そりゃそうだろ。大体、連絡も取れ無い場所だしな。まぁ、今までの奴に比べたら、大塚、お前は早い方だ」
「へ?! そ〜なんだ………へっへっへ。あ! そうだ、社長、途中で変な女いましてね………」
「変な女?」
「ええ、入り口探してる時、歩いてたんですわ」
「何処ら辺りでよ?」
「あの道ちょっと行ったら湖にぶつかって、その湖ぐるっと回る格好になってるじゃないすか」
「はぁぁ? 大塚、お前……湖まで行ったのか? そりゃ〜行き過ぎだ。ちょっとの距離じゃないだろ」
「ええ、行っちゃいましてね。そんで、湖の反対側まで行かんきゃUターンも出来ねぇ狭っこい道で、その途中で会ったんですわ。………その変な女と」
「会った? お前、喋ったのか?」
「え……ええ………窓開けて聞いたんすよ。⚪️⚪️に行くにはこの道かい? って」
「どんな女だった?」
「え? どんな女って……… 赤いジャンバー着てフード被って下向いて歩いてて、こっちが話掛けてんのにガン無視しなんすよ。何べんも呼んだんすよ、大声で。こっちはトラックだからエンジン音で聞こえて無ぇのかと思って………。なのに、全然、顔上げ無ぇんですわ。だから顔は見えなかったんすけど、30〜40代だと思うな………でもずいぶんと古ぼけたジャンバー着てたな〜」
「その女、買い物カゴ持ってなかったか?」
「買い物カゴ? あ〜、トートバッグって言うんですよ。社長も古いな〜」
「何でもいいから、手提げ持ってなかったかって聞いてんだ!」
「社長、そんな事で怒んないでくださいよ………短気なんだから。ああ、そう言えば、なんだか編み編みの手提げ持ってたな。……な〜んだ、社長も道に迷って湖まで行った事ある………へ? 社長………その女の事、なんで知ってんすか?」
「俺も見たからだ。但し、俺は道に迷った訳じゃない。湖の反対側に荷を運ぶ途中だったんだ」
「なら、散歩が日課なんでしょ。健康ブームだし」
「あそこら辺で民家なんて湖の反対側に行かなきゃ無いだろ。車で30分以上掛かるぞ。だから俺は声掛けたんだ。何処行くんですか? 何かあったんですか? ってな」
「………で?」
「お前の時と同んなじだ。全く何の反応もしないで、テクテクテクテク、ずっと黙って歩いて行きやがった」
「ところで社長、今でもトラック転がすことあるんすね」
「無ぇよ」
「無いって………今言ってたじゃないすか? 湖の向こう側に荷を運んでたって」
「俺があの女に会ったのは40年前だ」
「それって………どういう事……?」
「まだ歩いてんだ………」




