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あの夏はきれい。

作者: 天ヶ原蔵之助

短編です。クリスマスが近いということで、夏のタイムマシン物語を書いてみました。(なんも関連性がないとか言わないでください)楽しんでください。


戦争。なぜ起こるのだろうか。

一部の人のプライド争いのようなものにより、たくさんの人が死んだ。

もう生き残った人たちは、今が何年の何月、何日かを、もう知らない。

昔は世界の人口が何億人といたらしいが、今は……。

僕の名前は。もうわからない。

名前を呼んでくれるひとは、もう近くにはいない。

僕がいる、今。

この名前のない時代は、そう長くは続かないだろう。

ある科学者達は、過去へと時間移動ができる「タイムマシン」と呼ばれるものを作り出した。

過去へ戻り、今、僕がいる未来を変える。

そんなことはしない。

今を変えてしまったら。

これを考えている、過去を変えた、今の僕はどうなってしまうんだろうと……。



---



今はこんな廃れた世界になってしまったけれど、昔は緑が生い茂っていたらしい。

「田舎」と呼ばれる、少数の人間が集まって助け合い暮らしている村もあったと、僕に昔のことを教えてくれた先生もいた。

それを聞いた時から、僕は田舎を見たいと思った。

それを先生と一緒に見たいとも、思った。

でも、その夢は叶わない。

叶わないけれど、「田舎」を見ることはできるかもしれない。

この「今」には「タイムマシン」があるのだから。



---



「やってみる価値はあるかな」


僕は今、研究所に来ている。

もう研究所のほとんどは機能していないけれど。

「タイムマシン」を動かすために、研究所に来たのだが、肝心の動かし方がイマイチだ。


「うーん? これ。動くのか?」


見た目は、錆びていて、とても動きそうには見えない。

目線を彷徨わせながら、あたりを見回すと、机の上に設計図のような大きな紙が広げられていた。


「これは、日本語。だよね?」


うん、日本語だ。

紙に動かし方が書かれていないかと、読んでいると、「起動、操作方法の説明」と書かれているマニュアルのような紙が落ちていた。


「これ、か」


難しいことがたくさん書かれているが、なんとなくは理解できた。


「さっそく、ここから脱出するとするか」


僕は、「タイムマシン」を起動した。



---



ジリジリとした暑さと、かしましい虫の声が聴こえる。


「時間移動は成功したのか?」


最初は疑ったが、すぐに成功したという確信が持てた。


「これ植物だ」


僕がいた、あそこにはない、植物が意気揚々と生い茂っていたのだ。


「こっちで大きな音がしたの!」


誰かの声が聞こえる。

聞き覚えのない、高い声。


「誰……?」

「君も誰?」


そこには、長い髪をした女の子がいた。


「大丈夫?」


そんな声がした気がしたが、だんだん目の前が真っ白になって、なにも考えられなくなった。



---



「あ、起きた」


目を開くと、木でできている天井が見えた。

木で家が建っているのか……。


「おはよう、ん? こんにちは?」


意識を失っていたのだろうか。

僕は、布団から起き上がる。


「ここはどこなの?」

「ここはね、私のおばあちゃんの家だよ」


そうか、時間移動をしてきたのか。

なにも考えずに来てしまったが、これからどうしようか……。


「おやおや。起きたかい? 坊や」

「こ、こんにちは」

「そんなに堅苦しくせんでいいよ。こんな暑さの中、山で倒れてたんだ。今は休むといい」

「あ、ありがとうございます」

「ねーねー。ところでさ、名前はなんていうの?」


そうか。名前……。僕は名前がない。

なにか……。そうだな。ここには緑が多いし……。


「僕は、(みどり)

「ふんふん。みどりん、か」

「君はなんていう名前なの?」

「私はね、(しずく)。普通にしずくって呼んでくれればいいよ」


しずくと名乗ったその子は、僕よりも、わずかに歳が下に見えた。


「とりあえず、おばあちゃんがお昼ご飯を作ってくれてるから、それまでは寝てていいよ」

「ううん。もう大丈夫。ところで、ここは『田舎』と呼ばれるとこなの?」

「うーん。まあ、そうかも!」


そうか。僕は「田舎」に来たんだ。来れたんだ。


「しずくー、坊やー! ご飯ができたよ!」

「はーい、今行くー。さ、みどり。ご飯食べに行こ!」


なんだか、僕は初めて、名前を呼んでもらえた気がした。


---



「そうかい、坊やは、緑っていうんだね。いい名前じゃないか。ところで、緑はどこから来たんだい?」


ここで「未来」っていうのは、少々まずいんだろう。


「えっと、よく覚えてないんです。気がついたら、山にいて……」

「そうかい。まあ、ゆっくりしていくといいよ。あいにく、うちは民宿をやっとるもんでね。部屋は余ってるからさ」

「すみません。見ず知らずの僕を置いてもらって」

「なにを水臭いことを言ってるんだい。子供が気を遣うもんじゃないよ。なんたって、こんな村じゃ、会う人みんな家族みたいなもんさ。なにか手がかりが見つかるまで、この家にいるといい」

「ありがとうございます。お世話になります」


ということで、僕はしずくのおばさんの家でお世話になることになった。



---



「ねーねー、みどりー。とりあえず、夕暮れまで時間があるし、村を回らない?」

「うん。ぜひ、案内してよ」

「そうね、ザリガニのドブ……。いいえ、町の診療所にでも行ってみる? あそこにいる(げん)おじさんがね、おもしろい話をしてくれるんだよ」


僕的には、「ザリガニのドブ」というのが少々気になったが、言わないでおこう。



---



しずくの家から、山道を歩いて、約5分ほどで、原おじさんに診療所へついた。


「おじさーん。いるー?」


中から、少ししおれた声で返事が帰ってきた。


「おお。しずくちゃんかい。よく来たね。ん? そっちの男の子は誰だい?」

「この子はね、みどりって言うんだよ。今日、しずくの家に来たの!」

「こんにちは、よろしくお願いします」


見た目は優しそうなおじいさんだった。

なんだか、過去は優しい人が多い。

未来だけしか見られずに死んでいった人たちがかわいそうに思えてしまう。



---



「そろそろ夕暮れだから、帰ろう。帰ったら、この村の言い伝えを教えてあげる!」

「うん、僕もこの村について知りたい」


僕だけが過去の出来事を体験していいのかと、少しだけ罪悪感を覚えてしまっている。



---



「おかえり、雫。緑」

「ただいま、おばあちゃん。夕飯はまだ?」

「もう少しでできるから待ってな。また呼ぶから。あと、緑の部屋は二階に上がってすぐの部屋だからね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、緑の部屋で言い伝えを教えてあげるよ!」



---



「この村の言い伝えっていうのはね……」


この村には、昔、神様がいて、その神様と人間は普通に仲良く暮らしていたらしい。

神様は村に、豊作をもたらしたり、村人のいろいろな願い事を叶えていたという。

でも、ある時、一人の村人が、ある村人を殺して欲しいと頼んだ。

その願いを聞いた神様はひどく悲しんで、村人の願いを受けることはなくなり、だんだんとその姿を見せることがなくなった。

村人たちはなにが原因で神様が姿を見せなくなったのか分からず、自分たちが、神様に頼りすぎたせいで、神様が怒ってしまったのではないか、と考え、村人たちは神様に頼らず、自分たちで頑張って農業をし、神様を祀る、神社を作った。そして一年に一度、神様に作った野菜や米を供える、「神願祭(しんごんまつり)」が行われるようになったという。


「その神願祭がね、二日後にあるの。だからね、一緒に行かない?」

「ふーん、そうなんだ。うん、行こうよ」

「じゃあ、おばあちゃんに浴衣を用意してもらわなくちゃ!」


しずくがとても張り切っているのは、見ていてわかった。なんと、今年は神願祭が二百回目らしい。



---



夜、僕は、不思議な夢を見た。

それは、もう一人の自分が語りかけてくる、というものだった。

夢の中の僕は、


「お前は、ここにいるべきじゃない」

「本当は心の奥底では、わかってるいるんだろう?」


などと語ってくるものだった。

やはり、僕だけが過去に来るなんていけなかったのかもしれないと思う。



---



「大丈夫? うなされてたみたいだけど」

「しずく……? なんでここに?」

「だって隣の部屋だもん。隣まで唸り声聞こえてたよ?」


そうか、僕はうなされていたんだ。


「昔ね、怖い夢を見た時は、おばあちゃんが星の話をしてくれたんだ。夜にしか見えない星は、夜に苦しまないように見守ってくれてるんだって、言ってた」

「そう、なんだ」

「ほら、外を見て。星がきれいに見えるよ」


僕は、ちょっとだけ、心が和らいだ気がした。



---



「おはよう、しずく。どこか行くの?」


しずくは、靴を履いて、玄関にいた。


「うん、もうすぐ神願祭だから。それの準備だよ」

「そうなんだ。いってらっしゃい」

「うん、いってきます」


さて、僕はもうちょっと村を見てみるか。


「おや、おはよう、緑。しずくならもう出て行ったよ?」

「あ、はい。今ちょうど話していました」

「そうかい。ところで、神願祭については聞いたかい?」

「はい。神願祭に行こうって誘われました」

「明日は、緑も準備へ行きなよ? 参加するなら準備にも参加しないとね」

「わかりました。頑張って早く起きてみます」


とりあえず、今日は僕が時間移動したところに向かうか。



---



「さて、僕はどうやって戻ればいいんだろうか……」


いっそここで暮らす。という選択肢が頭によぎったが、すぐに消えた。


「いつまでも甘えてちゃだめだよね。僕はここにいるべき人間じゃないんだから」


蒸し暑い中、僕は山道を歩いた。



---



「ついた……」


僕は、惹きつけられるように、時間移動の現場へ足を運んだ。


「なにか手がかりはあるかな……?」


草むらをかき分けたりして、辺りを探してみたが、とくになにも見つからなかった。


「待てよ? でもあの時、たしか、しずくは『大きな音がした』とか言ってなかったかな。大きな音ってなんだったんだ?」


考えても仕方ないか、と踵を返し、帰ろうとした時、どこからか鈴の音が聞こえる。


「……誰?」


振り返ると、強い風が吹き付け、一枚の紙切れが飛んで……。


「これは、タイムマシンのマニュアル?」


飛んできた紙切れはタイムマシンのマニュアルだった。


「なんでこんなものが……?」


僕は、この時、マニュアルを読まずにポケットに入れてしまった。

その紙切れに大事な事が書いてあると知らずに。



---



「ただいまー」

「あっ、遅いよ、みどり!」


僕が家に戻ると、昼ご飯が用意されていた。


「おかえり、手を洗っておいで。それからご飯にしよう」

「はい、遅れてすみません」


僕は、ちょっと欲を言うと、この生活をいつまでも続けたいと思ってしまっていた。



---



「そうだ、拾ったマニュアルに帰り方が書いてあるかもな」


僕はポケットから、マニュアルを取り出し、読んでいった。


「時間移動の際に気をつけること……?」


そこには注意事項が書かれている。


「時間移動には、制限時間があります。制限時間はたったの三日。その期間が終わると強制的に過去から未来へと飛ばされます……?」


僕は、最初、内容を見込めなかった。

本当はこの暮らしを続けたいと思っていたから。

制限時間があるという現実を受け入れられなかった。


「制限時間は左腕に書かれている……」


僕は慌てて袖をまくり上げ、左腕を見る。


「32……。今が、午後2時。ということは明日の午後11時に強制的に未来へ戻される……?」


明日。明日は神願祭だ!

僕はもう、この夢のような時間から、あの未来へと戻されてしまうのか。


「どうする。しずくに黙って、消えるのか……。それとも伝えるべきか?」


僕は悩んだ。

そして決心した。伝えるべきだと。


---



その日の夜。


「もうここで暮らすのも終わりなのか。短かったような、長かったような……」


この人と触れ合い、言葉を交わすことができる環境から、また誰もいない、あの一人寂しい世界へと戻されるのかと思うと、少しだけ悲しくなってくる。


「また……誰とも会えなくなるのかな」


僕はそんなことを考えながら、星を見上げた。僕の(ほお)に流れ星が流れた。



---



「おはよう、みどり! 今日は神願祭だね!」


それを聞いて僕は、今日だけは元気に振舞おうと決めた。


「うん、浴衣姿、楽しみにしてるよ」

「美人さんになりすぎて、驚かないでね!」


僕は正直に楽しみだ、と思う。

今日を精一杯楽しもう。


---



「どう? 似合ってる!?」


しずくが浴衣姿でやって来た。


「うん、すごい似合ってる」

「えー? それ本当に思ってる?」


今の時刻は、午後6時。

残された時間は、あと5時間。


「じゃあ、みどり! 今日のお祭り、楽しもうね!」


しずくは僕の手を取り、駆け出す。



---



僕が、祭りの会場についた時に思ったのは、人が多い、ということだった。


「ねえ、みどり。今日、朝から元気なかったけど、どうしたの?」


僕は、その発言を聞いた時、ドキッとした。

頑張って、平常心を保っていたのに、見透かされていたんだと。


「気づいてたんだ……」

「うん、気付くよ。すぐにわかった」

「しずくに話さなきゃいけないことがあるんだ」


僕としずくは神願祭の会場から少し離れた、山の上の広場のベンチに座っていた。


「なにから言ったらいいのか分からないけれど」

「落ち着いてからでいいよ」


僕は大きく深呼吸し、


「僕は、未来から来たんだ」



---



「未来……。そっか」

「驚かないんだね」


しずくの顔は、いつもと変わらない表情だった。


「ううん。驚いてるよ。その未来はどんなところ?」


僕は、自分がいた未来の事、どういう経緯でこの時代へ来たかという事を話した。


「そっか、辛かったんだね」


僕は大事なことを言わなければならなかった。


「まだ、言わなきゃいけないことがある」



「僕はあと1時間で、未来へ戻される」



---



「そんな……」


初めて見た、しずくの悲しげな表情。

僕の目には、しずくのその表情には、いろいろな感情が見えた。


「ごめん。言えなかったんだ」


しずくは口を紡いで、僕を見つめていた。


「それでいいの? みどりは、未来へ戻って、幸せでいられる?」

「わからない。でも、どうしようもないんだ」

「まだ戻されるって決まったわけじゃないじゃない!」


僕は、夜空を仰いだ。


「しずくはさ、この前に言ったよね。『星は苦しまないように見守ってる』って。でもさ、僕は今、ものすごく苦しいよ」


僕は左腕を見る。

そこには。



---



そこには、0.5という残酷な数字が刻まれていた。

もうすぐ、時間か。


そう思っていると、背後から、聞き覚えのある鈴の音が聞こえた。


「未来人よ」


そんな声が聞こえ、反射的に振り返る。

そこには、白髪で白い着物を着た、若い男が立っていた。


「先生……?」



---



周りの時間が止まっている。

隣のしずくは動かない。


「違うよ。未来人。わしは君の先生ではない。この地の神じゃな」

「神様……?」

「ああ、そして、君のことをずっと見ていたんだよ。未来人」


「君が時間移動してきた場所は、ちょうど、この村と同じ場所だったんじゃ。そして、君が時間移動してきたのは、今から1000年後、神願祭が行われていれば、千二百回目じゃったの。わしは見ていたよ。君がどれだけ苦しみ、孤独な生き方をしてきたのか。だから、未来の村の神として、君という村人のために、願いを叶えてやりたい。未来人よ。なにを望む?」

「僕は、この過去に居続けたい。もう未来という過去に囚われたくない」

「そうか。わかった。だが、もう未来へ戻ることはできん。それでもいいのじゃな?」


僕は、決意を持って答えた。


「はい」



---



僕が目を開けると、木でできた天井が見えた。


「ここは!?」

「みどり! 起きた!」


起き上がると同時に、しずくにのしかかられる。


「やっと起きた。もう起きないかと思った」


「おかえり、みどり」



「ただいま、しずく」


ちょっと話が、矛盾する点があったらごめんなさい。

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