ハルナ
サトルと共にハカラシの街に向かい何日も歩いていく。
ハンスはサトルに感謝はしていたがやはりすべてのお金をなくしたことに対する焦りばかりが募って落ち着くことはなかった。
サトルも財布を無くしたことに対する彼の動揺をしっかりと察して気持ちを汲んでくれた。
「祈ろう」
そう言って、二人はハンスの財布が戻ってくることを祈った。
「このことからは恵みにあふれるどんでん返しが起こる。」
与えられたインスピレーションはやはり同じだった。
ハンスたちは忍耐強くその希望にとどまることにした。
ハカラシの街の門では、ある女性が二人を待っていたようだ。
「ハルナ!」
とサトルはその女性に呼びかけた。
「サトル!おかえりなさい!」
サトルは結婚したばかりの新妻を見せてくれた。
・・・そして、ハンスは目を疑った。
「たしかに、あれは・・・あの子だ!!
見たことがある・・・確かに昔、子どものころ、そして、十代の時東の国に行ったとき・・・。」
三人は、サトルの新しい家に行き、こざっぱりした部屋のふかふかなソファに座る。
「ハンスさん、はじめまして。」
と、サトルの妻、ハルナは挨拶をした。
「・・・ああ、はじめまして。一度・・・お会いしたことはありませんか?」
「ううん、覚えてはいないですねえ。何かの人違いではないでしょうか。」
サトルが言う。
「ハルナは、昔、西の国でも東の国でもないところに住んでいたんだよ。そして、そういえば、双子だったけれど・・・。」
「子どもの時に離れ離れになって以来、ずっと会えていないの。もう、顔もおぼろげにしか思い出せない・・・。」
とハルナが言うときに、ハンスはデジャヴじみたものを感じた。
「子どもの時に・・・離れ離れになって以来・・・」
頭が真っ白になったように立ち尽くすハンスを見て、二人は彼を自宅に招き入れて少し休ませた。
落ち着いて、ハンスはハルナに聞いた。
「ハルナさん・・・教えてくれ。その・・・双子の妹について知っていることを。」
「ひょっとしたら、私の妹とお会いしたことがあるんですか?」
「そういうことではないけれども・・・気がかりがあって。」
「サトルの信用できる友人と聞いて、信用して言いますね・・・私は西の国でも東の国でもない、『雲の国』の住人なの。」
「雲の国?」
「死者と生者が交わり、宇宙と大地が行き交う特別な国です。
そして・・・私たちの故郷は、西の国にも東の国に対してもその存在自体を隠しています。」
「理由はわかるよ。その存在が知られると、侵略されるからだろう。」
「ええ、巨大な雲に覆われて、その存在を簡単に知ることはできません。
そして、私たちは、雲の国からこの地上の国にやってきたとき離れ離れになりました。そう聞いています。」
「うん。」
「自分が雲の国の民であることを隠せ、と言われ続けてきました。そして、地上の民と結婚もするなと。」
「厳しいんだね。」
「ですが、ハレルのところに行ったとき、私の心は・・・。
そして、そこで出会ったサトルさんがあまりにも素敵な人だったので、私は・・・私は・・・。」
それ以上は訊くことをしなかったし、ハンスもこちらから何かを話そうという気もなかった。
三人は、このハカラシの村で数日間ひっそりと暮らしを楽しんだ。
ハルナが雲の民であることは、サトルとハンスしか知らない事項だった。
また、このハカラシにはエドキオほど憲兵や厳しい警察もいない。
お金は依然として戻ってこない日々が続いたが、農業のおかげで何とか腹いっぱい食べていけることができた。
暇なときは、三人でホウキに乗って空を遊泳した。
それに飽きたら、広いジュウタンで空中に寝そべり、昼寝を楽しむこともあった。
太陽の日はぽかぽかと心地よく、彼らを癒してくれた。
・・・だけど、ここにとどまってはいけないことをハンス自身感じ取っていた。
「そうだ、僕は・・・自分自身が勇者であり賢者であるのだ。そして、君も、サトル。」
「ああ。」
「そろそろ、旅立たなければならない。」
「僕も、じきにまた君と会うことだろうと思う。」
「・・・ハルナ!そして、サトル!」
「ええ。」
「ハルナの妹を必ず見つけ出すよ。そして、いつか必ず雲の国にも行く!」
そうして、ハンスは再び旅に出た。
たった一人の旅がまた続く。




