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再会 ~All That I Needed(Was You)~  作者: あだちゆう
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社会

「きっと、誰しもが傷を持っている。多かれ少なかれ。」

サトルは言った。

ハンスは、サトルのその話にもはや自分の過去のこと―大切な人を引き裂かれ、両親を失い、誰も自分を理解してくれず迫害されてきたことをすっかり忘れそうになっていたところだった。

「その傷は、必ず癒され、喜びに代わる。」

「信じるよ。」

「国は国に対して血を流しあい、天地は揺らぐ・・・そんなこともあるだろう。

だけど、そんな時こそ、希望が始まっているのだ。私たちは、心をまっすぐにして胸を張り顔を上げなければならない。」


また、二人は「社会」について語り合った。

以前、少年時代に話し合った時に比べて、ハンスもサトルも自分だけの生き方ではなく、「この世界」に対する目が開かれようとしていた。

以前であれば、難解で興味がなくすぐに寝ていたような話で二人は盛り上がった。


「なぜ、世界は調和しないのか。なぜ、宇宙はこんな世界に人間を送り込んだのか。」

「苦しみは永遠になくらないのか。そうしたら、完全に幸せな世界を作ることができるのか。」


「すべての人がすべての人に対して対抗している。それがこの世というものだ。」

かつて、賢者アウレリウスはそう見抜いた。

この性質は、幾千年の時を経ても全く変わることはない。

文明の技術が進歩しようが、世の中の在り方が全く変わろうが、人はやはり人に対して「わがまま」である。


有史以来の数万年は、王が人民の上に立ち、人類のリーダーとして社会を組織していった。

一方、王が狂気や悪意に満ちていると、社会のすべてはその王の気まぐれにより多大な苦しみを受けてきた。

そのため幾度か革命が起こり、社会構成は次第に変わっていった。

そのようなことを繰り返すうちに、人民の全員が王に近づいて行った。すなわち、王の独占していた権利を全員が所有できるようになった。それで誰か一人に「わがまま」が集中することはなくなり、誰しもが平和に生きることができる社会が生まれてくるのだと誰もが夢見ていた。

ところが今や、人民互いが互いに対して限りなく「わがまま」を正当化し主張するようになった。

権利意識と被害者意識、そして欲望のみが限りなく増大して、今や道徳とか倫理、そして愛や感謝、真心などといったものは消え失せてしまった。

いつだって、上の人間と下の立場の人間、持つものと持たざる者は対立する。

これをまとめるものは何か。

法である。暴力ではないが、あまりにも暴力的に人々を縛り付ける法が隅々まで張り巡らされる。

非暴力を強制する法は今や究極の暴力となって人の自由や主体性を奪っていった。

そうして、人々は自由と平等の名のもとに、互いに互いを支配し、監視し、支配され、監視されるようになってしまった。


世界帝国を築き、自ら全人民に王としての権利と尊厳を与えることに成功した、かの賢者アウレリウス王もこのことに大いに頭を悩ませ、時に眠れない夜が続いた。

宇宙の法則と、この世の欲望で動いている社会は必ず対立し矛盾する。

さすがの賢者も王となった大衆に対して、感謝されるどころか、無限に要求をしてくる人民に怒りを抱きそうになったが、やはり、人民一人一人に対して慈悲深くあり続けようと決意した。


国を治める技術と、宇宙の法則に沿って生きること、すなわち人間としての正しい生き方はどうしても摩擦し、矛盾する。


「人間社会は永遠に完成せず、あっちを直せばこっちが破け、こっちを繕えばあっちでほころびが生じる。

どんなに私たちの社会の文明が発達しても、人の悩みは永遠になくならないのではないか?

戦争がなくなり、学校や会社や労働がなくなり、私たちを煩わせている一切の苦しみの原因がなくなったとしても・・・依然として、死の絶望は避けられないね。

この街にも死ぬに死ねないで徘徊を続けている多くのゾンビをみるが、あれも哀れなものだ。

それに、人間関係の悩みや自分自身に満足がいかないという類の絶望は永遠のものだろうよ。

きっと、百年後も、五百年後も、千年後も、完成されたように思える社会で、人間はそういうことで悩み続けていると思うよ。

五百年前も、千年前も、三千年前も、どうやら人間の悩みというのは同じだったようだ。」

「ははは。確かにそうだ。

ハンス、僕はこう思う。

ゆっくりとだけど、人間は学んでいる。そして、少しずつではああるがよくなっている。」

「そんなものは幻想ではないかと思う時がある。永遠に意味のない希望と失望と問題の繰り返しが歴史において行われている。歴史は繰り返すのだ。」

「直線でも円環でもなく、螺旋(らせん)だ。

この地球自体が、太陽の周りをまわっているだけでなく、太陽そのものも銀河の中心を公転しながら回っているため、地球もらせん状に繰り返し発展しながら、この宇宙をどこかに向かって進んでいるのだよ。」

「なるほど。」

「きっと、いつか誰もが自分自身が『神』であり、互いに愛し合いながら喜びのうちに発展していく・・・そんな世界が現実になると思うよ。

・・・それは夢物語だと思うかい?」

ハンスは、微笑みながら頷いた。

「君だけでない。僕もその夢物語を信じよう。」

「ああ、太陽が繰り返し繰り返し昇るように。」

「その太陽は、いずれ沈むだろう。そして、闇が訪れるだろう。

しかし、それも生命が生成発展していくための宇宙の摂理だということを忘れてはいけない。

すべては、よくなっていく、よくなっていくのだ。」



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