夜の街
アウレリウス王の書によれば、王の跡を継いでいる賢者がこの街にいるという。
場所も分かった。
ハンスは、その夜の大都会の明かりの中をひたすら歩き続けた。
やっとの思いでその聖堂にたどり着いたときは、夜の0時を回って日付が変わっていた。
「すみません。
西の国からあなたを頼りに来ました。」
それに応えた男は確かに賢者の跡継ぎであった。名は、ハレル。
一筋の光明に期待し、ワクワクする。
この疲れ果てた自分を彼であれば受け入れ、そして励ましてくれるであろうという期待。
彼、ハレルは賢者らしい立派なローブか聖なる衣をつけて現れるかと思いきや、姿は風呂上がり。なんと、上半身裸のままタオルを頭に巻き付け、下着一丁で現れた。
顔には疲れがたまっており、そして今から休もうというところだった。
「なぜ、君はこのような夜更けにいきなり訪れるのか・・・。
私だって、連日の様々な業務で忙しいというのに・・・。
もうしわけないが、今ここは他の旅のものでいっぱいなのだよ。君のいる場所は今ここにない。」
迷惑そうにハレルはハンスを追い出した。
「す・・・すみません!」
とっさに後悔した。賢者とはいえど聖人ではなく人間なのだ。疲れもすれば、旅人を受け入れる余裕もない時もある。ハンスは賢者が賢者であるという理由で甘えていた。
旅の疲れとはいえ、いきなり押し掛けた自分の甘さにほとほと嫌気がさした。
彼は、罪の意識と惨めな気持ちで真っ暗になった大都会の裏通りを歩き回り、やっとのことであるさびれた宿をみつけた。
いっそのことその晩は野宿でもしようかと思ったが、見知らぬ別の国でそのようなことをするといったい何が起こるか分からない。
宿の主人は深夜に訪れた客に対して不愛想に対応する。
東の国の言葉の発音は西の国のそれとは若干異なる。
ハンスは主人の言っていることを聞き取れずに聞き返した。
「○○と言っているんですよ!聞いてなかったんですか。」
若干怒りを含んだ声で主人は宿の台帳をつけ、鍵を渡した。
部屋は人がやっと一人寝れるくらいの小さな小さな部屋。
孤独孤独孤独。
暗闇の部屋で少し眠りにつこうとするが、少し目をつぶっては醒めてを繰り返す。
そんなことをしている間に、うとうととしてきて明け方に眠りにつく。
今日はいい日だと信じたい。