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プロローグ【アカリフォリア学園の一日】 その7

 …………。


 ――そして生徒会室に到着。ノックして入室して、プリント渡して、退室すれば俺の役目は終了。とっても簡単なお仕事、速ければ1分以内に終われるのに……。

「足が前に出ない……」

 何だろう、この奥からすごい緊張が伝わってくるような気がするんだよな……多分他の人はそうは思わないんだろうが、俺だけはそれを感じている。

「頑張れ、俺。勇気を出して!」

 自分にエールを送り、俺はついに生徒会室のドアをノックする。

 ――コンコン。

「はい、どなたですか?」

「あ、えっと……猪原です。校長先生から大事なプリントを預かってきたので、届けにきました」

「い、猪原!?」

「?」

「い、いえ何でもないわ。ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「は、はい……」

 何やら中でバタバタと音が聞こえる。

「い、いいわ。入ってきなさい」

「はい、失礼します」

 言われるまま、俺はドアを開けて入室した。声の主は机に座っていた。

「こ、こんにちは……」

「ええ、こんにちは。――それで? 資料というのは?」

「はい、これです。以前行ったアンケートの用紙だそうです。これをまとめて再提出してほしいって、とうさ――ああ違う、校長先生が言っていました」

「父さん?」

「ああ、気にしないでください。校長先生が言っていました」

「確か、校長先生も猪原って苗字だったわね……ひょっとして、親子なの? あなたと校長先生は」

「あ~、はい、そう、です」

「そうなの。ふーん……(なるほど、だから魔法の素質が他の人よりも高いのね)」

「な、何か言いましたか?」

「いいえ、何でもないわ」

「じゃ、じゃあ、俺はこれで。仕事の邪魔をして申し訳ありませんでした」

「何でそんなに敬語を使うの? 同級生でしょう? あなたとあたしは」

「あ、そうですけど……何て言うか……タメ口で話していいのか若干不安なので……」

 というより、いつもあんな風に鋭い視線向けられたらタメ口で話すのは難易度が高すぎる。

「すいません」

「まあ、別にあなたがそれでいいならいいけど。――分かったわ、この件は確かに生徒会が引き受けたって、校長先生に伝えてちょうだい」

「分かりました。――じゃあ、失礼します」

「……あ、ちょっとだけいいかしら?」

「はい!?」

「何で声が裏返るのよ。ちょっと呼び止めただけじゃない?」

「いや、その……俺、何か悪いことしましたか?」

「は?」

「いや、呼び止められたので……何か野中さんに粗相しでかしてしまったのかと思いまして。だとしたらすみません、許して下さいお願いします」

「さっきから何をビクビクしてるのよ。あたしはただちょっとだけって言っただけじゃないの」

「……………………」

「……あなた、そんなにあたしの存在が怖いの?」

「……………………」

「怒らないから正直に言ってみなさい」

「……怖い、と言いますか、いつも魔法の授業の時に、野中さんの視線をひしひしと感じていたので、無意識に何か悪いことしてしまったのかなと、随分前から感じていました」

「あら、あたしの視線に気付いていたのね」

「ええ、まあ」

 気付かないわけないと思うんだが……。

「なるほどね、それがあったからビクビクしながら敬語を使っていると」

「そ、そういうことになります」

「はぁ……じゃあこの際だから言っておくわ。それは全く勘違いだわ。別にあたしはあなたのことを恨んでないし、変な意味じゃなく、何とも思ってないわ」

「そ、そうなんですか!?」

「ああ、もう、その敬語もやめなさい。同級生に敬語使われるのは嫌なの」

「すいま――」

「ほら、それを直しなさい」

「すまん!」

「そんな力いっぱい言わなくていいわよ。……あたしがあなたの魔法をじっくり見てたのは、あなたの魔法の技術を盗もうと思ったからよ」

「俺の魔法の技術を盗む?」

「ええ、そうよ」

「盗むも何も……野中さんの方が俺より遥かに成績は優秀なはずじゃ」

「まあ、自分で言いたくはないけど、トップクラスの成績であることは間違いないわ。ただ、魔法に関しては、あなたの方があたしより優れてる部分がある」

「ないですよそんなの」

「ほら、また敬語になってるわよ」

「ないよそんなの!」

「だからそんなに力いっぱい――ああもう~、調子狂うわね」

「ご、ごめん……」

「――あなた、無属性の魔法使えるんでしょう?」

「え?」

「はっきり言いなさい。使えるんでしょう? 使えるわよね? 何度か見た記憶があたしにはあるわ」

「……まあ、そんなに上手くはないけどな」

「才能がある大人が無属性魔法を使えるのは知ってるけど、学生でそれを使えるのはすぐれた魔法の素質がある者だけ……あたしはまだ無属性魔法は使えない、だが、あなたはそれが使える。となったら、やることは一つでしょう?」

「俺を観察して、無属性魔法の使い方を学ぶと……」

「才能がなければ使えないって言われればそれまでだけれど、あたしは可能なら、この学園に通っている間に使いこなせるようになりたいって思っているのよ。だから、あなたの様子を観察させてもらっていたの。何かヒントを掴めるんじゃないかと思って」

「なるほど……」

 それであんなに鋭い視線になっていたのか……じゃあ、結局は俺の勝手な思い込みだったってことか。

「はぁ~……」

「何よ? ため息ついて」

「いや、何でもない。よかったって思っただけだよ……」

「? とにかく、そういう理由だから。だからさっきも言ったけど、敬語を使ったりするのはやめてちょうだい。分かった?」

「あ、ああ」

「――で、ちょっと待っての後の話をしてもいいかしら?」

「ああ、そうだったな。何だ?」

「もうすぐ、期末テストがあるわよね? その時に魔法の実技があるけれど、あなたは無属性の魔法を使うつもりはあるかしら?」

「ああ~、まだ煮詰めてないが、使う方向で考えてはいるよ」

「そう、分かったわ。……聞きたかったのはそれだけよ」

「そ、そうか」

「それじゃあ、お疲れ様。帰っていいわよ」

「ああ、じゃあ、仕事、頑張れよ」

「ええ」

 ――ガラガラ。

 ――何だ、そういうことだったのか。今までは全く気付かなかったけど、そういう理由で俺のことをじっと見ていたのか。そう言われれば、野中の性格的にもなくはないな。とにかく、本当にホッとした。謂れのない恨みを買っていなくて本当によかった。

 逆にあれか? あの成績優秀な野中に目を付けられている俺って、地味にすごいってことか? このステータスを失わないためにも、魔法はしっかり勉強しておかなければいけないな。魔法の実技テストのモチベーションが上がったきたぜ。今日はそれも家に帰ったら勉強するとしよう。

「さあ、今度こそ帰るぞ」

 ちょっとスッキリした気持ちで、俺は岐路に着くのだった。


 …………。


【亜梨奈サイド】


「ああ、じゃあ、仕事頑張れよ」

「ええ」

 ――ガラガラ。

 ――あ~びっくりした。急に来られたからどうしようかと焦っちゃったわ。慌てちゃって書類も落としちゃってたけど、気付かれてなかったかしら?

 まあでも、おかげで猪原の情報を手に入れることができたわね。彼はきっと無属性魔法を実技テストで詠唱する。しっかり見せてもらって、あたしも使いこなせるようにならなくちゃ。

 猪原は気付いてないかもしれないけど、去年の期末テスト、あたしは彼に1点差で魔法の実技の点数で敗北した。今まで一度も負けたことがなかった分野だったのに、初めて土が付いた。負けるわけないと思っていたあたしが一番の原因だけれど、その悔しさは今も胸に刻み込まれている。これを晴らすのは、実技で1位を取り返す以外にない。

「やってやるわ、首を洗って待っていなさい」

 勝手にライバル視させてもらって申し訳ないけど、あたしは闘志をメラメラ燃やしていた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


【亜梨奈サイド 終わり】


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