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プロローグ【アカリフォリア学園の一日】 その5

 そんなこんなでお昼の時間である。学生たちにとってこの時間は至福の時間と言っていいだろう。さて、今日はどうしようか。

「豊は? どうする? 弁当……はさすがに用意してないよな?」

「だな。今日もノープランだ」

「ふむ。陽愛子は? 弁当持ってる系女子か?」

「うーん、今日はお弁当持ってない系女子であり、どうしようか悩んでる系女子だね」

「あ、そうなのか。じゃあとりあえず教室で過ごすって選択肢はなくなったな」

「個人的に、腹は結構減ってるぞ? 朝は急いでたからそんなに食べてないし、魔法で体力も使ったからな」

「だろうな。じゃあ、学園の食事会場に行こうぜ。あそこならビュッフェスタイルでたくさん食えるだろ?」

「悪いな、合わせてもらって」

「いいってことよ、陽愛子もいいか?」

「うん、大丈夫だよ。――そういえば、美希の姿が見えないけど、何処行ったんだろう? 多分一緒に行くって言うと思うんだけど」

「心配する必要ないぞ陽愛子。あいつのことだ、こうやって話をしてれば――」

「こうして現れるってことよ」

「うひゃあ!?」

「噂が立つところにはぬるっと現れることに定評のある浜中美希(はまなかみき)、ここに参上致しました~」

「うわ、びっくりした。何処から出てきたのよ、美希」

「え? 机の下だけど?」

「な、何で机の下なんかでスタンばってたの?」

「そうしていた方が面白いかなって思ったから。だって、初登場時のインパクトがあれば、読者の方に覚えてもらいやすいでしょう?」

「ど、読者?」

「まあまあ、気になさらずに。――にしても陽愛子、今日は可愛らしいパンツはいてたわね、新しく買ったの?」

「ちょ!? 美希!」

「何色だったんだ? 浜中よ」

「うーんとね、色は――」

「き、興味持たないでよ穣くん! 美希も答えようとしないで~!」

「何でよ?」

「何でよ?」

「何で穣くんまで同じ口調に。恥ずかしいからに決まってるじゃない」

「俺は恥ずかしくないぞ? むしろ興味しかないが」

「あら、みのるんも女の子のパンツに興味あるんだ?」

「当たり前だ。女子のパンツに興味がない男なんていないからな。ストッキングよりは優先度は低いけどな」

「そこは揺ぎ無い事実なのね」

「まあな」

「だってよ? 陽愛子。教えてあげなくていいの?」

「お、教えられないよそんなこと。いくら仲が良くてもそこまでは……」

「仕方ない。スキを見て確認するしかないな」

「す、スキを見て!?」

「答えが分かったらあたしに言って? 答え合わせしてあげるから」

「分かった」

「至極普通にそういう話しないでよ~!」

「――さあ、揃ったことだし、会場に行こうぜ? 席がとられちまう前に」

「そうね。にしてもおぎっちも今日は止めに入らなかったわね~」

「毎日止めに入ってたらキリがないからな。それに……穣の言うことに否定できない部分もあった」

「さすが同志よ」

「へ~、おぎっちもそうなんだ~」

「まあな」

「いい加減その話題から離れてよ~、お願いだから~!」


 俺たちは食事会場へと向かった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――そして到着。既に結構な人で賑わっている。だが、まだ席が空いてない訳ではないようだ。

「席とっててやるから、お前らは料理をとってこいよ」

「え、いいの? 穣くん」

「ああ。昨日は陽愛子に席とりしてもらったし、今日くらいいいさ。それに、豊のお腹に早く食い物を入れてやらんと」

「すまんな、俺は先に行く」

 そう言うと、豊は料理の元へ足早に向かっていった。

「ありがとね、みのるん。さ、行こう陽愛子」

「うん」

 ――さて、4人座れる席はっと。今日は天気も良いし、日当たりの良い場所でご飯をいただきたいところだな。とすれば、もう少し奥の方に空きがあるかもしれない。行ってみるとしましょうか。


 …………。


 うーん、あっちの方がいいか? でも向こうは女子の集団が固まってるからちょっと男の俺と豊はちょっと居心地が悪いか?

 ――そんなことを考えていると。

「――おーい、穣くん!」

「ん?」

 俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。そっちの方を振り返ってみると――。

「せ、先輩」

「あ、気付いた。こっち、こっち」

 俺を手招きする先輩の姿があった。

「こんにちは、先輩」

「こんにちは。お昼ご飯、食べに来たのよね?」

「ええ、そうです」

「じゃあちょうどよかった。一緒に食べましょうよ、席はとったまではよかったんだけど、一緒に食べる相手のこと考えてなかったから」

「え? いいんですか? 他に3人いるんですけど」

「いつものメンバーでしょう? 大丈夫よ、何故かピッタリ5人分確保してたから。まるで予知でもしてたみたいだわ」

「助かります、ありがとうございます」

「いいのよ。さ、穣くんも料理取ってきなさい。ここで待っててあげるから」

「あ、ありがとうございます。……先輩は何か欲しいものは? 忘れてたのがあればとってきますよ」

「そう? うーん、じゃあウーロン茶持ってきてもらえる? 飲み物とってきてなかったから」

「分かりました。すぐ戻ってきますので」

「よろしく~」


 …………。


「――そうなんだ。じゃあ一先ずは安心って感じね」

「はい。上手くできるかドキドキしてたのでよかったです」

「ひなちゃんはしっかりしてるからそこまで心配することないと思うけどね」

「え? じゃああたしは?」

「美希ちゃんは…………もっと頑張る必要があるかもしれないわね」

「く~、なかなかユリア先輩のハードルを飛び越えることができないな~」

「ホントは飛び越えたくないんじゃないの~? こういう風に言ってもらいたいから」

「そ、そ、そんなことないですよ~?」

「ホントかな~?」

「ホントですよ~」

「うふふ、まあ本番は真剣に頑張るんだよ」

「はーい」

「……………………」

「うん、美味い。……ん? どうした? 穣」

「ああ。……慣れてはきたんだが、どうしても、な?」

 周り食事をしている野郎共の嫉妬の視線をひしひしと感じる。それもそのはず。

 ――半谷・シャルム・ユリア先輩はこの学園のアイドルなのだ。成績優秀、スポーツも万能、誰にでも分け隔てなく接することができる正にパーフェクトな人間だ。そして去年、

文化祭で行われたミス・アカリフォリアで堂々の1位を勝ち取ったことで先輩の人気はより上がることとなった。学園で先輩のことを知らない人間はほぼいないと言っていいだろう。誰もが、先輩とお近づきになりたいと思うはずだ。

 じゃあ何故俺たちは先輩とこういう関係になれたのか。それは、俺のある「お使い」が関係していた。だが、それはまた後に話すこととする。

 とにかく、先輩とこうして楽しい時間を過ごせることにとても喜びを感じるんだが、それと同じくらい、嫉妬の視線を背中に感じるので心から幸せと思うことがどうしてもできないのが玉にきずだ。

「こればっかりは仕方ねぇよ、割り切るしかないって。無視だ、無視。目の前の食事に集中するんだ」

「あ、ああ」

「――つうわけで、俺はおかわりをとってくるんで」

「早いね~豊くん。さすがスポーツマンだ」

「お腹も減ってましたし、肉体造りも、野球の基本ですからね。しっかりエネルギー充電しとかないとですよ」

「偉いね。さすがスポーツ推薦」

「じゃあ行ってきまーす」

「――で? 穣くんは?」

「え? 何ですか?」

「今日の魔法のテスト、上手くいったの?」

「ああ、まあボチボチってところですね。可もなく不可もなく~と言った感じで?」

「そうなの? また遠慮して話してない?」

「いや、そんなことないですよ。本当にそう思ってます」

「そうかな~? 穣くんはあたしの前では遠慮しがちな時があるからな~」

「そんなことないですって。第一、成績がメチャクチャ良い先輩の前で完璧でしたなんて言葉は出せませんよ」

「あら、お褒めの言葉をもらっちゃった。ふっふっふ、悪い気はしないわね。嘘ついてない?」

「とんでもないです。心の底からそう思ってます」

「ユリア先輩のストッキング姿も美しいって、心の中で言ってますよ」(美希)

「おい、浜中!」

「あ~残念。褒めてもらえるって分かってたんなら履いてくればよかったな~。今日は生足で来ちゃったよ~」

「いや、全然気にしなくていいです。俺の性癖に合わせる必要はこれっぽっちもありませんので。むしろ生足も素敵です。舐めたいです」

「すごい勢いで心の声が漏れ出てるね」(ユリア)

「あ~しまった~。俺の硬派なイメージが~」

「穣くん、硬派なイメージ作ってるつもりだったんだ……」

「ん? 何か言いましたか? 陽愛子くん?」

「いえ、なんでもないです。ごめんなさい」

「とにかく、そんな感じなので。いつか先輩の足を舐めさせて下さい」

「うーん、穣くんに懇願されたら断り辛いな~。でも、結構お高くつくからね?」

「覚悟しています」

「というか、昼間っからそんな真夜中に話すような会話でトークしてたっけ?」

「いえ、違います」

「誰よ、そういう話題にシフトさせたのは」

「お前だ~、浜中~!」

「うひぃ~!」

「おお~、今日も決まったね、穣くんの鋭い突っ込みが」

「全く、油断もスキもありゃしないぜ」

「ガバガバすぎるみのるんにも問題ないと思うんだけどね?」

「うぐ……抑えられない気持ちというものが誰しもあるんだ」

「一番抑えなきゃいけない感情の部分なのに!?」(陽愛子)

「仕方ないだろう? お前らもそれを分かって俺とつるんでくれているんだろう?」

「まあね。今更治らないと思うし、最初はみのるんがこんな男の子とは思ってなかったしね」

「確かに、穣くんって見た目と性格に結構なギャップはあるよね?」(ユリア)

「俺はそうでもないと思っているんですが」

「いやいやいや、ギャップありまくりだから。ねぇ? 陽愛子」

「そ、そうだね」

「陽愛子もそう思っているのか」

「やっぱり、そのメガネがギャップを産んでるんじゃないかな? すごくクールに見えるからね。多分初めて穣くんに会った人は、そう思う子が多いと思うよ」

「あたしもそう思ってました。陽愛子もそうでしょう?」

「うん。だから話しかけて大丈夫かな~って、ちょっと思ってたかな」

「そ、そうなのか」

「もちろん、最初だけだよ? 今は話しかけて正解だったな~って思ってるから。人は見かけによらないってことがよーく分かったよ」

「ふーん」

「それで言えばおぎっちもだよね~。あんなに見た目はガッチリだけど、中身は物腰柔らかくてさ? みのるんに負けず劣らずのギャップがあるわよね」

「そうだね。豊穣コンビは見てて面白いよ」(ユリア)

「ほ、豊穣コンビ?」

「うん、豊くんと穣くん、二人の漢字組み合わせると豊穣って単語になるから。いいじゃない? みんなに幸せを運んできてくれそうで」

「なるほど。じゃあ、幸せが欲しければ俺たちに願えって周りに言っていくか」

「……何か、若干きな臭い香りがするのは私だけかな?」(陽愛子)

「ううん、あたしも感じたわよ? それに、手で輪っか作ってたし」(美希)

「ちっ、バレていたか」

「やっぱりそうだったんだ」

「名前にそぐわず考えることが邪だね~」

「俺はそれで幸せになるぞ?」

「自分だけ幸せならいいの~!?」(陽愛子)

「まず自分が幸せになれなきゃ、他人を幸せになんてできないじゃないか!」

「言ってることは悪くないのに、何でこうも心に響かないんだろう……」

「大丈夫よ、二人とも。穣くんにそんな悪いことする勇気はないから。でしょう? 穣くん」

「はい、正直怖いです。そんな危険が危ないことをおいそれとはできません」

「危険が危ない……日本語の使い方がおかしいよ」

「心配ない、わざと間違ってるから」

「そういう問題かな~」

「――ふふ、やっぱりキミたちは面白いね。一緒にいて、とっても楽しい気分になるわ」

「ほ、ホントですか?」(美希)

「うん。はぁ~、あたしももう一度2年生やらせてもらおうかな~」

「いやいや、先輩の高い学力ではどう頑張っても2年生には戻れないと思いますよ」

「うーん、そう? じゃあ、さっきの穣くんの真似をして悪評を集めれば?」

「そ、それは絶対ダメ~~!」(陽愛子)

「先輩も手伝ってくれるなら、俺も手を染める勇気があります」

「あら? そうなの?」

「一人が怖かったので、二人でなら何とか」

「そうだったんだ」

「ちょ、ちょっと~!? ユリア先輩も穣くんも、顔が悪くなってきてるよ~」(陽愛子)

「ふっふっふっふ……」(穣&ユリア)

「――なーんて、冗談。あたしもそんなことする勇気はぜーんぜんないから安心して」

「そ、そうですよね。よかった……」

「……何か悩みでもあるんですか? 先輩」

「ううん、そういうわけじゃないよ。ただ、あたしは3年生だからもう少ししたらこの学園とはさよならしないといけないな~って思っちゃって」

「ああ~、そうか……」

「まあ、それだけ学園生活が楽しかったってことだよ。だから、残りも悔いを残さないように全力で楽しんでいかないとね」

「俺たちでよかったらいつでも付き合いますので、言って下さい。力になれるよう努力します」

「まあ、ユリア先輩は人気者だから、あたしたちの力は必要ないかもだけど」(美希)

「そんなことないわよ。とっても嬉しいわ。あなたたちにそう言ってもらえるとすっごく嬉しい。――じゃあ、遠慮なくお言葉に甘えさせてもらうわね」

「はい、いつでも言って下さい」(陽愛子)

「ありがとう。――それにしても、豊くん帰ってこないわね?」

「そうですね~」

「――ひょっとしてあれじゃないか?」

「あ、ホントだ――ってうわ~すごい!」

「ふう、ただいま」

 豊の皿に載っていたのは、超大盛りのカレーに超大盛りのトッピングだった。

「これを用意するのにちょっと時間がかかっちまったぜ」

「これ、全部食べるの? 豊くん」

「ああ、食べるよ。午後の練習のこと考えたらこれくらいは食べないと」

「さすが肉体派おぎっち……」

「穣も挑戦してみたらどうだ? 意外とイケるんじゃないか?」

「さすがにこれは無理だろ。半分食べれるかも分からないって」

「――食べきったら明日ストッキング履いてきてあげるって言ったら?」(ユリア)

「ちょっと同じ量のカレー持ってきますね」

「だから切り替えが早すぎるって!」(美希)

「目の前に幸せが吊り下げられてるのに、掴み取らないわけにはいかないんだ!」

「いやいや、それにしたって早すぎるでしょ……」(美希)

「だが、残念なことに豊が持ってきた量はストッキングパワーがあっても食べれそうにないな~。その量の半分でオッケー、ってことにはならないですかね?」

「うーん。――じゃあ、半分でいいけど、10分以内の制限付きってことでどう? それなら条件としては悪くないんじゃない」

「……分かりました、やりましょう!」

「ほ、ホントにやるんだ? 穣くん」(陽愛子)

「先輩のストッキング姿だぞ? 学園のアイドルのストッキング姿だぞ? あにやらざるや、えんや……」

「こ、古語が入ってきた……」

「今とってくるんで、少し待っていて下さい」

「うん、分かった」

「ユリア先輩、大丈夫なんですか? あんなこと言っちゃって」(美希)

「うん。だって、こっちの方が面白そうでしょう?」

「そ、そうですね……」

「うふふ」

 ――結局、ストッキングチャレンジは、食べきることはできたが、制限時間を10分オーバーしてしまい、夢は潰えたのだった……。


 ……………………。

 …………。

 ……。


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