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プロローグ【アカリフォリア学園の一日】 その4

 ……………………。


「うっす、穣」

「おう、豊か」

 がっしり体型のこの男は荻野豊。見た目とは裏腹に温和な性格で、気遣いのできる俺の友人だ。周囲には優しいが自分には厳しく、ストイックにスポーツに取り組んでいる。こいつも陽愛子と同じで1年生の時に仲良くなった1人だ。

「随分ギリギリじゃねーか。何かあったのか?」

「いや~、朝練が思ったよりも長引いてな。朝食も食ってなかったから、急いで済ませてきたんだよ」

「なるほどな、毎日ご苦労なことで」

「俺はそっちがメインだからな。厳かにするわけにはいけないんで。――というわけで、後でちょっとノート見せてくれないか? いつも申し訳ないんだが」

「ああ、構わんよ」

「悪いな」

 ちなみに豊は野球部に所属しており、1学年の時からスタメンで使われるという将来有望な選手と言えるだろう。そんな奴なので、勉強の方に割く時間はあまりないようだ。ほのかのようなタイプだとあまり助けてやりたくないが、こいつは完全にスポーツオンリーという姿勢でもないし、自分なりに努力してる姿が見えるから、助けるのは吝かではない。お互い様の姿勢というのを大事にしていきたいものだ。

「しかし、1時間目から魔法の授業とは、運動した直後になかなかキツいぜ」

「だろうな。肉体的にも精神的にも追い込まれちまう。だが、それを乗り越えた先に成長が見えてくる。……そうだろう?」

「普段ならそう思うんだが、魔法はそんなに得意じゃねーからな。素直にうんとうなずきづらいぜ」

「まあ、先生もその辺は配慮してくれるだろ。気楽に行こうぜ、気楽に」

「ああ、そうだな」

「――はーい、じゃあ授業を始めたいと思いまーす」

 先生がやって来、魔法の授業が始まる。本日の授業は魔法の詠唱のテストがある。先ほど陽愛子が、少し緊張してるといっていたのはこれだろう。とは言っても今日は実技試験ではない。後々の本テストへ向けての現状を把握するためのもの。なので、ここで失敗したからといって成績が急降下ってわけではない。でも、せっかくならそれなりの結果は出しておきたいところだ。

「じゃあ、順番に詠唱してもらいます。本番を意識してやってみてください。お題は、以前言った通りのものです。それでは、青木さんから順番に行きたいと思います」

 魔法の授業は合同で行うため、俺たちは隣のクラスが終わってからだな。


 …………。


「――はい、お疲れ様でした。じゃあ次は、野中さんお願いします」

「はい」

 凛々しい声と共に、先生の下へ歩いていく女の子。

「お、野中か。相変わらず凜としてるな」

「そうだな」

「…………」

「…………」

 一瞬ちらっと野中は俺のほうを見た。そして、一瞬鋭い視線を俺に向けて、再び先生の方に向き直る。

「…………」

「相変わらず、俺は嫌われてるみたいだな」

「うーん、あれは嫌ってるって言っていいのか? どっちかっていうと、意識してるって気がするんだが。ああ、意識って言っても、異性としてではなくな?」

「意識ねぇ……こっちは視線が鋭いからいつもビクビクしちゃうんだが」

「まあ、元々誰にでもああいう感じだからな~。知らない人は知らないだろうけど」

「まあな~」

「前も聞いたけど、今みたいになっちまったきっかけとかってないのか?」

「色々考えてはみたが、それらしいことは何も思い当たらないんだよ」

「そうか。ま、あんまり気にすることはないだろう。今もお前はこうして元気に過ごせてるわけだし」

「命狙われてた可能性があるのか!?」

「はは、冗談だよ、冗談」

「あんまり驚かせないでくれよ」

 そんな話をしていると、野中のテストが始まった。右手に杖を持ち、目を閉じ詠唱を開始する。

「――ファイヤーサイン!」

 その言葉と同時に、野中の目の前に綺麗に燃える火柱が上がる。野中の前に詠唱を行った生徒のよりも遥かに規模が大きく、且つ鮮明に燃えている。

「うむ、申し分ないですね。いいでしょう」

「ありがとうございます」

 杖を下ろし、野中はそこから退いていく。そして――。

「……………………」

 さっきと同じように俺にまた視線を向ける。

「……………………」

「またか?」

「ああ。……やっぱり俺、近々あいつに殺されるのかもしれないな」

「おいおい、冗談だって言ったじぇねぇか。それはねぇよ、生徒会に所属してる奴に限ってそんなことしないだろうよ」

「生徒会の力で、俺の名前がリストから抹消されるケースは?」

「ねぇよ、あるわけねぇだろ。黒すぎるだろ、そうだとしたら」

「そうかね~」

「忘れろ、最悪俺が守ってやるって」

「豊……」

「キラキラした目で俺を見るなよ」

 ――野中亜梨奈。それがあいつの名前だ。さっきの魔法を見て分かるとおり、成績は非常に優秀で、魔法のセンスも他の生徒よりも秀でている。おまけに生徒会にも所属していて、次期生徒会長候補という、学園の中でも有数のエリート学生だ。

 その凛々しさから学園でもかなり注目を浴びる存在なのだが、何事にも厳しい姿勢で望むので、とっつきづらいと印象を持たれることも多い。もちろん彼女にも友人はいるが、陽愛子みたいに男女問わずたくさんという感じではなく、狭く深く、という感じである。

 だから尚更思ってしまう、何故俺はあんな風な視線を送られてしまうのかと。あいつよりも劣っているものがたくさんある俺なんて、アウトオブ眼中なはずなのに。もちろん野中とは友人関係でもないし、学園でトラブルを起こしたこともない。

 だがしかし、俺に対する奴の態度は冷ややかである。一体俺の何が原因なのだろうか。それだけでもいいから教えてほしいところである。


 ……………………。


「――はい、じゃあ次のクラスに行きましょう。じゃあ猪原くん、お願いします」

「あ、はい」

 出席番号順で呼ばれるので俺がクラスのトップバッターである。

「よろしくお願いします」

「はい。ではどうぞ」

 目を閉じ、精神を統一し、詠唱の準備を図る。ちなみに杖は必ず使う必要はない。本人の意思で使う使わないは選ぶことができる。俺は使わない派だ。

「……………………」

 さあ、行くぞ。

「――ファイアーサイン!」

 詠唱と共に、目の前に炎が燃え上がる。……うん、可もなく不可もなくと言ったところか。まだまだ改善の余地はありそうだ。

「うん、大丈夫ですね。詠唱を止めて大丈夫ですよ」

「はい。ありがとうございました」

 やはり野中の詠唱を見た後なので、どうしてもスケールが小さく見えがちだな。

「ふう」

「お疲れさん。悪くなかったんじゃねぇか?」

「まあ、現状はこれでいいが、本番はもっと良くしたいところだな」

「言うことが違うな。俺はアレができるまでどれだけかかることか」

「得意不得意は人それぞれ違うんだ。比べる必要はねぇよ」

「そうだけどよ。ああ~、詠唱したくねぇ~」

「頑張れ、応援はしてやるぞ」

「どうせなら魔力を俺に送り込んでくれ」

「バレたらカンニングと同じ扱いだからな。リスクが高い」

「そうだよな~。あ~、恥ずかしい想いだけしないようにしましょうかね」

「頑張れ、応援はしてやるぞ」

「ほんの数秒前に同じ台詞聞いたって」

「……………………」(亜梨奈)


 …………。


「はい、皆さんお疲れ様でした。みんなしっかり努力していたようで安心しました。まだ実技のテストまでは日にちがあるので、それぞれ今日の反省点を見つけて改善できるように取り組んでみて下さい。今日は課題魔法だけでしたが、本番は好きな魔法も詠唱してもらうので、個人個人で考えておいてくださいね。それでは、これで授業を終わりたいと思います。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした~」(生徒)


 ……………………。

 …………。

 ……。


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