プロローグ【アカリフォリア学園の一日】 その2
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「全く、お前の寝坊には困ったもんだよ」
「睡眠は身体にいいんだよ~? だから学園側もそれに配慮して、登校時間を今より3時間程遅くしたほうがいいと思うんだよね~」
「お前だけだよ、そんな望みを持ってるのは。第一一生懸命お仕事なさってるお父さんお母さんより遅く登校とか舐めてるにも程がある」
「そんなことないと思うよ? 可愛い我が子の寝顔を確認しながら仕事へ向かう……とても穏やかな気持ちで仕事へ向かうことが――」
「お前のにやけきった寝顔見て穏やかな気持ちになるのはかなりレベルが高いよ」
「う、そ、そうかな?」
「ヨダレ出てるときもあるし」
「いやぁん! そんなことないわよ。エッチ」
「何がエッチだ。そんなもんお前が垂れ流してるのが悪いんだ! 妹のヨダレなんかに興味ないわ!」
「逆に興味あったら怖いってば……でも、ストッキングは妹のでも好きなんでしょう?」
「……………………」
「黙った」
「あれは神様が人間に授けてくれた神器だ」
「そんなレベルの代物なの?」
「俺にとってはそれくらいの価値があると言っても過言ではない」
「うーん、その発言を頻繁にしなければ結構お兄ちゃんカッコいいんだけどな~」
「心配するな、あんまり言ってない」
「あんまりってことは少しは言ってるんだ?」
「抑えきれない感情というものがある」
「いやいや、それは抑えようよ、人として」
「まあそんなことはいいんだよ。で? ちゃんと宿題はしたのか?」
「あーうん、ちゃんとやったよ~。思ったより簡単だった~」
「そうか。ならよし。そっち方面はサボってないようで安心した。これからも忘れずに取り組むように」
「もうすぐテストも近いしね~。あーあ、先生の考える問題が全部分かったらな~」
「先生が考えそうな問題は教科書に全部載ってるじゃないか」
「それはお兄ちゃんみたいな頭の良い人の考え。それを全部頭に入れられないから困ってるんじゃない」
「努力次第でいくらでもできるだろう」
「それもお兄ちゃんみたいな頭の良い人の考え」
「にしてもお前はそんなに努力してないだろう。睡眠時間削って勉強してるわけでもないだろう?」
「……お兄ちゃんみたいな頭の良い人の考え」
「お前、そのワードはそんなに頼れるワードじゃないぞ」
「うう……でもさ、仮に筆記はいいとして、問題は実技だよ。……アクア・ホール!」
「うわっ! 急に魔法唱えんなよ」
「自分の得意な魔法でいいから、美しく見えるよう工夫を凝らしてくださいって言われたんだけど……これにアレンジ加えるのはなかなか難しいよ~」
「大元はできてるんだろう? ならゴールは近いじゃないか」
「そのあと少しが難しくて……何か良い方法ないかな~? チラ、チラ?」
「横目で俺を見るな。他に男子に効果はあっても俺には効かんぞ?」
「じゃあこれは? ――チラ」
「うーん、アクア・ホールを美しくする方法か。せっかく球体なんだから、何か中に、綺麗に見える魔法を組み込んでみるのはアリかもしれないぞ」
「はやっ! 俺には効かないって言ってたのにストッキング見せたらものの数秒で!?」
「ストッキングとは、例え妹が履いていると分かっていても目を逸らすことができない、言わば魔法のアイテムである。それに、黙っていればお前もそこそこ可愛い容姿をしているため、ストッキングは似合わなくはない。だから俺は、見せてくれるなら全力でそれを見ただけのこと」
「……お兄ちゃん、全然言ってることかっこよくないよ?」
「うるせぇな、つか兄をストッキングで釣ろうとするんじゃない。釣られるだろ!」
「いや、普通は釣られないからね? お兄ちゃんの性癖だからであって」
「性癖じゃない、嗜好だ」
「同じようなもんじゃない。でも、ありがと。ちょっと参考にはしてみるよ」
「ああ、頑張れ」