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第7話「主 の 館 。又 の 名 を ホラー ハウス」



 呪いと簡単な魔法について話を聞いていると、ダールソンさんの後ろの釣竿が揺れていた。


「あ、糸引いてますよ」

「おおっ!? 本当だな!すまない!!」


 そう言ってダールソンさんは釣竿を一気に引き上げる。

 盛大な水飛沫を上げて釣り上げられたのは、全長3mぐらいのカエルに亀の甲羅が付いた生物だった。

 鑑定してみる。


■亀みたいなカエル(仮)

種 族:魔物


「なんだ、シェルフロッグか。ふんっ!」


 その亀だかカエルだか分からない生物は、ダールソンさんが釣り上げた竿を剣のように振るわれただけで首を落として異空間へと落ちていった。

 魔法使いって言ってたのに、物理で仕留めれるのかよ。300年以上生きているのは伊達じゃないな。


「今の異空間って、ダンジョンボックスですか?」

「いや、今のはアイテムボックスというアイテムで、ダンジョンボックスより容量が少ないやつだな。ああ、君はダンジョンをクリアしていたのだったな」

「そうですね。未だによく分かってないんですよねー」

「ふむ、ならば家に来るかね?以前の屋敷の主が書物の蒐集家しゅうしゅうかでね。様々なことを学ぶのに丁度良いだろう」

「ええっ!そんな申し訳ないですよ」

「なに、スケイルファングを分けて貰おうというのだ。それぐらいなら構わんよ」

「あ、渡すのはここでも良いですけど」

「ふはははっ!人が好すぎるぞ、シュウ君。そこは君の美徳足りえるが、私たちは知り合ったばかりだからな。もう少し人を疑ったほうがいいだろう。貰った瞬間に相手が逃げることも考慮した方がいい」

「あー確かにそういうのもありますね。まあ、その時になったら、自分の人を見る目がなかったと思って諦めますよ」


 元日本人として、というより僕としてはできるだけ人に親切でありたいし。


「ふーむ。君は将来、大物になるかもしれんな。こんな豪胆な若者はそうおるまい」


 ただ何も考えてない能天気なだけなんだけどなー。ものは言い様だな。


「それに、私のアイテムボックスではそんなにスケイルファングは入らないのでな。どちらにしろ館まで来てもらわなくてはならないのだ」

「まぁそういうことなら…」


 知らないことばかりだし、ダールソンさんの提案はありがたい。

 素直にその提案に乗っておこう。何をするにしても、今の僕は何もかもを知らなさ過ぎる。


「そういえばシュウ君はダンジョンをクリアしたのだったな。ダンジョンスキルの使い方はどこまで分かっているかね?」

「ダンジョンボックスにアイテムが入れられるっていうぐらいしか知らないんですよ。そもそもクリアしたダンジョンに入れなくて……」

「む?クリアしたダンジョンに入れないとはどういうことだ?ダンジョンは入口が出ていないと入ることもできないから、クリアのしようがないんだが」

「いやー、クリアしたらダンジョンの外でして。で、入り口が山の中にあるらしいんですけど、掘り進む方法がないんですよ。道具とかもありませんし」

「ふーむ?ダンジョンというのは、Lv30~50になれば勝手に入口を開くはずなんだが…。入口が山の中に埋まっているということなのか?いや、だがしかし………」

「あのーLv1のダンジョンとかってないんですか?」

「Lv1のダンジョンは聞いたことがないな。そもそもLv1なら村人とかでも攻略できてしまいそうだ」


 村人でも、って……。僕はどんだけ弱いんだ……。


「ふーむ、我が主の元へ案内しよう。ダンジョンに関しては我が館の主の方が詳しいからな。どちらにしろ、これで我が家に来てもらったほうが都合が良くなったな。それに、主も君なら気に入るだろう」

「主?」

「うむ、少し変わっているが、こんな私を受け入れてくれた御仁に仕えていた人だ。それに、先程も言ったように主の館には今までに蒐集しゅうしゅうされた書物の中に、植物や鉱石、魔物などに関するものと、私が研究している呪いに関する書物もある」

「なんか必要以上にお世話になりそうで、すいません」

「なに、気にしなくても構わないよ。私のような者を相手にして、恐怖を覚える訳でもなく普通に会話できる相手というのは、とても有難いのだよ。魔物になってしまってからは味方も少ないのでな」


 まあ、確かに。ダンジョンの暗闇で襲ってきたスケルトンは本当に怖かった。

 夜中に明かりのないところで出会ったら叫んでしまいそうだ。


「そういえば、ずっと気になっていることを質問をしても良いですか?」

「なんだい?」

「………どうやって喋っているんですか?」


 今回、一番笑われた。




「すまんな、シュウ君。湖からは歩いて1日は掛かるから、日が昇り次第移動するとしよう」


 そう聞いて湖と森の間で火を焚き、夜営の準備を始めたダールソンさん。

 アンデットという種族的になったために眠る必要はないらしいけど、僕に合わせてくれたらしい。

 本当にありがたい。ついでに夜営の心得とか食べられる野草、キノコ、木の実を簡単に教えてもらった。

 それと、僕のダンジョンボックスに入っていた岩タイヤの魚ことクラッシュスパイク、湖で群れで襲ってきたスケイルファングは食べられる魔物だったらしい。

 あと、クラッシュスパイクはそのまま焼いて食べるらしく、岩のトゲは本当に串に使えるらしい。

 魚に串が付いているだなんて、一匹仕留めると無駄なく使える良い魚だと思う。串はかなり硬くて様々な用途に使えるらしく、とても需要も高いらしい。

 スケイルファングは鱗がとても硬く、集めれば鎧、篭手など防具として使えるとのこと。

 ただ、剥ぐのがとても面倒だとか。だけど、捌き方を知っていればあとは慣れとのこと。なるほど、魚の三枚下ろしみたいなものか。


「いや、しかしシュウ君がここまで生きていられたということはステータスを抜きにしても、記憶がなくなる前は相当の手練だったのではないかな」

「え、そうなんですか?」


 それはないと思う。思い出せる限り、そういう戦いとは限りなく無縁の世界だったはずだし。


「うむ。この場所はな、昼頃にも言ったかもしれないが、かなり強い魔物の巣窟ともいえる森なのだ。だから、生半可な者では3日と生きていられないのだ」

「そんなに危険な場所なんですか?ここって」

「シュウ君が仕留めたクラッシュスパイクやスケイルファングは外殻や鱗が硬い。しかも、群れで移動するため、見つけたらまず逃げることが推奨されるほどだ」

「実際すごい数で飛び掛ってきてましたね」

「それを避けた上に武器もなく仕留めることができている、ということがシュウ君の実力を示している」

「そうなんですか。実感が全くないですけど」

「記憶喪失だから仕方がないかもしれんな。………うむ、クラッシュスパイクもスケイルファングも良い感じに焼きあがっているな」

「ああ、どうも。ありがとうございます。魔法って便利ですね」


 炎魔法を使えば火をつけることは簡単だし、水魔法を使えば飲み水を確保することもできる。

 それに、土魔法を使って石製の食器も即席で作ってくれた。僕の骨とは大違いだな。


「なに、コツを覚えれば簡単だよ。館に戻ったらダンジョンの話も出るだろうから、魔法もその時に教えてあげよう」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「いやいや。久々に面白いと思わせてもらったからね。礼を言いたいのはこちらの方だよ。さあ、シュウ君、今日はもう遅いから寝るといい」

「はい、おやすみなさい。ダールソンさん」


 あ、寒いかと思ったら暖かくなってきた。風魔法で調節してるのかな。本当に魔法は便利だな。




 起きてからさらに歩くこと半日。ダールソンさんに付いていくと、夕方頃に湖から少し離れた森の中の大きな洋館に着いた。

 でっか!!

 湖の畔の別荘って、お金持ちが持っているイメージがある。ダールソンさんも我が主の館って言ってたしね。

 ただ、こんな魔物だらけな場所に住むのは遠慮したい。

 ここに来る少しの間だけでも、結構な数の魔物と遭遇した。ダールソンさんが相当な手練なだけあって、すぐに逃げていったけど。

 柵で囲われた庭にはバラのようなものが咲き誇り、スケルトン達が庭の手入れをしていた。

 スケルトン達がハサミやジョウロ、カマのようなもので手入れしているのは違和感しか感じない。


「ここだ。館の主と私が住んでいる場所だな」


 そう言って年季の入った大きな柵のような門が、金属が擦れる音を鳴らしながら開けられる。それがまるで何かの断末魔のように聞こえた。

 こちらに一斉に顔を向けたスケルトン達が、その想像に拍車をかける。

 ホラーはもうお腹いっぱいです。


「綺麗なお庭ですね」

「広い屋敷だからね。彼らに庭を常時世話をさせているのだよ」


 そう言って、ダールソンさんが手を横薙ぎにすると、スケルトン達は一斉に作業へと戻る。統率されすぎだろ。

 『鑑定』で見てみると面白いクラスがあった。


■スケルトン

クラス:ガーデナー(庭師)


■スケルトン

クラス:コック


 というか、料理人に庭の剪定させるなよ。いや、元料理人なのかな。

 門から玄関まで100m程あり、スケルトンたちの仕事ぶりを見つつ中ほどまで来ると噴水が湧き出ていた。

 洋館へと近付くと、壁どころか窓や屋根まで植物の蔦で覆われている。

 蔦の量がとても多く、蔓から出ている葉が窓をほぼ塞いでいるから、中に日が入ることはないんだろう。完全にホラーハウスじゃないですかー。やだー。


「雨が降りそうだな。早めに帰ってきておいて正解だったな。はっはっは!」


 言われて空を見ると、黒い雲が徐々に増えているような気がする。


「さあこっちだ、シュウ君」

「あ、どうもすいません」


 ダールソンさんが開けてくれた玄関の扉を潜り、そこに広がる光景に圧倒された。

 扉を潜った場所はエントランスホールで、正面には2階へと続く階段が途中で左右へと伸びている。

 一階は左右に広い通路が取られていて、その入り口から通路の中まで様々な美術品が並べられている。

 そして、床は大理石のような磨かれた石が敷き詰められ、通路の真ん中には金と銀の刺繍で縁取られた赤い絨毯が通路へと続いている。

 たった二人(+スケルトン達)だけとはいえ、豪華すぎやしませんかね。息が詰まりそう。

 ダールソンさんは入ってすぐ右側へと曲がり、一つ目の扉を開く。


「すまないが、この部屋で寛いでいてくれ。お茶はすぐに持ってこよう。それと、主に声をかけてくるよ」

「何から何まですみません」

「いやいや、君が気にすることはあるまい」


 そう言って扉から出て行く。

 すると、タイミングを計らったかのように雷が鳴り、雨が降ってきた。


「………………タイミング良すぎじゃないかな」


 ホラーとかミステリーならよくあるパターンだけどね。その場合、被害者は僕かな。……なんてね。

 ソファーに深く座り込む。

 久々にちゃんとした椅子に座れたからか、思っていた以上に脱力するのが分かる。体感以上に疲れてたんだな。

 そのまま眠りそうになっているとノックの後に扉が開かれた。


「シュウ君、すまないが主が部屋にいなくてな…」


 そう言ってティーカップを載せたお盆を持って入ってきた。


「おお、お嬢様。お目覚めになりましたか」


 ゾクリ、と背筋が寒くなった途端、振り返ると肩越しに首元に口を寄せる美女の顔が見えた。

 その口には牙がチラつき、気付いたときには首元に牙が突き立てられていた。




次話で初女キャラ登・場!

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