第5話「初めて の 探索 と 色々な レベル」
そんなこんなで5日ほど食料を集めるために、水を確保しつつ探索範囲を広げる。
ダンジョンボックスに果実や薪になりそうな枝を貯め込んだ。火をおこす方法はどっかで手に入れないと薪の意味はないけどね。
果実は試食してみて経過観察してみたけど、お腹を下すこともなかった。いやー本当に良かった!
この世界に来て初めての洞窟ともしばらくお別れだな。
ダンジョンについて分かったら戻ってこよう。
小川を目指して森を進み、もう少しで小川に辿り着けると思っていたら、どこからか不規則な地響きとともに、ゴロゴロと大きな音が近くなってきた。
ゲームとかダンジョンによくある岩の玉が転がってくる罠みたいな感じだ。嫌な予感がする。
まさか、土砂崩れとかじゃないよな。
4、5個の玉を使った卓球とか遊びでやったのを思い出した。
卓球。そんなのもあったなー。
思い出に浸っていると、突然目の前にある木が折れ…いや、粉砕された。
「は………?」
周りに木の破片が雨あられと降ってきたから、折れたのではなく粉々に砕かれて舞い散らされたのだと理解できた。
そのまま呆然としていると前後左右、周りの木を全て薙ぎ払うかのように、次々と周りの木が無くなっていった。
ようやく我に返ったときに見えたのは、直径1mの岩でできたゴツゴツとしたタイヤのようなものだった。黒いしまんまタイヤっぽい。
あ、今目の前を一つ通り過ぎていったな。
よく見るとその岩のタイヤには、長さ40cmの針とも言えるようなものが無数についていた。
「おわぁー!!」
掠った!トゲが少し掠ったよ!!
髪の毛がそれだけで切り裂かれたみたいになった!
なんて恐ろしい岩なんだ………!
1mクラスの岩がゴロゴロと転がってくるだけでも相当危険なのに、それに加えて凶悪なスパイク付だと!?
タイヤに付けるスパイクとしてはいささか凶悪すぎるな!
あんなトゲ一本でも人に刺さろうものなら、一発で致命傷になるだろうということがはっきりと分かる。まあ、トゲなんてなくてもあの質量だから当たれば関係なく死ぬと思うけど。
それがいくつか降ってくる。
「なんて自然災害だ…!想像の遥か上を行く現象が起こるな!」
土砂崩れより更に直接的な殺傷能力は高そうだ。
数十秒が一分とも一時間とも感じられる必死の回避をした結果、岩の弾丸は止んでいた。
山の傾斜を利用して轢き殺す戦法は効果的だな。けしかける側であればだけど…!!
周りの木がほぼ全て、根元から上がなくなっていた。
その代わりにトゲ付き岩タイヤが、辺りに散乱している。
なんて破壊力だ。………コレ、なんかに使えないかな。
使い道を考えていると、目の前の岩タイヤがガタガタと動き出した。
ん?………まさか、自然災害じゃないのか?
岩からニュッと円形の尻尾みたいなものが出てきた。と思ったら地面をビタンッ、ビタンッと叩き始めた。
『鑑定』を使ってみる。
■岩タイヤ(仮)
種 族:魔物
って魔物かよっ!
周りの岩からも同じように次々と尻尾のようなものが出てきて地面を叩く。
何だあれ?
尻尾で叩く地面の音がまるで儀式のような体をなし、異様な光景を醸し出していた。
な、何が始まるんだ…!
警戒していると目の前の岩が跳び上がった。あ、そういう移動方法?
跳び上がった勢いをそのままに、転がってきた時と同じように轢き殺そうと回転を加えてきた。
「あっぶねえ!」
全力で避けたのに、針の所為で風切り音が耳のすぐ横を通る。
さらに周りのやつらも、畳み掛けるように次から次へと跳びかかってくる。
1m近くある岩が逃げ道をほとんど塞いでくる。
砕かれて残った木の幹の間を、スラディングで抜けると間一髪、顔の横に一本のスパイクが突き立っていた。
し、死ぬかと思った……!
ボーっとしてる場合じゃない!急いでコイツの下から抜け出さないと!
「はぁ…はぁ………はぁ…ん?」
抜け出して振り返ってみると、木の幹に岩の針が刺さって身動きが取れなくなっている。
スカルドッグとかもそうだけど、本来なら強いやつかもしれないけどちょっと抜けてるやつがいるな。
「ふはははっ!バカめっ!」
危うく死ぬところだったわっ!
動けないのを良いことに、トゲに当たらないように蹴りつける。
コイツめっ!コイツめぇっ!!
あれ、岩が簡単に砕けた。
【レベルアップしました。Lv2になりました】
【レベルアップしました。Lv3になりました】
【レベルアップしました。Lv4になりました】
【レベルアップしました。Lv5になりました】
【レベルアップしました。Lv6になりました】
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【レベルアップしました。Lv30になりました】
【レベルアップしました。Lv31になりました】
【レベルアップしました。Lv32になりました】
【レベルアップしました。Lv33になりました】
【レベルアップしました。Lv34になりました】
【呪いの効果でLv1になりました。】
思ったより岩の部分が柔らかかったな。
擬態なのかな。
見た目は岩だけど、実際は違うみたいな。
でも、感触は岩っぽいんだよなー。
バキン、バキンと音が鳴りだした方を見てみると、尻尾で邪魔な木の幹を叩いて壊すことで抜け出そうとしていた。
っと、考え事してる場合じゃないな。さっさと片付けないと、また抜け出して跳んできそうだ。
一体一体確実に蹴って止め刺していく。
「うらぁっ!!」
【レベルアップしました。Lv2になりました】
【レベルアップしました。Lv3になりました】
【レベルアップしました。Lv4になりました】
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【レベルアップしました。Lv32になりました】
【レベルアップしました。Lv33になりました】
【レベルアップしました。Lv34になりました】
【呪いの効果でLv1になりました。】
【レベルアップしました(略
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【呪いの効果でLv1になりました】
半分ぐらい終わった頃には、何体か抜け出して再び襲い掛かってきた。
数が大分減ったおかげで、余裕を持って避けることができた。心なしか始めよりゆっくりに見える。
最後の一体に止めを刺すとようやく一息つくことができた。
「はあ………なんだったんだ」
とりあえず今の奴は回転して勢いが付くと破壊力が増すってことは分かった。
倒したやつらをダンジョンボックスに放り込む。
あれ?そういえばダンジョンと違って、倒しても核とアイテムを残して消えるわけでもないんだなー。
岩の殻を被ったなにかをダンジョンボックスに収納していく。
すると、岩の殻の損傷が最も酷いものを見てみると、中身を全部見ることができた。
それは、尾が円形という意外は細長い魚のようなものだった。
これは…以前図鑑か何かで見たことがあるけど、ウナギとかアナゴとかそんな感じのやつに似てるな…。ドジョウかもしれないけど………。
魚か…食べれるんだろうか。
生………で食べるにはちょっと色々と怖いし、火をおこせるようになってからにしたいなー。
あと、この岩のトゲとか使い道ないかな。
「魚を串焼きにするときに使えそうかな?」
このトゲはほぼ串のように細いしかなり丈夫だから、蒲焼とか炭火焼とかできればまだ食べれるかもしれない。
そんなことを考えていたからか、焼ける匂いがしてきた。
あまりの空腹と魚を食べたいという欲求が、とうとう匂いの幻覚まで嗅覚に訴えかけてきたようだ。
「こう…何かが焼ける香ばしい煙の匂いが………ん?煙?」
振り返るとそこには、粉砕された木の破片の一部が燻っていた。
よく見ると根元に飛び散っていた紺色の木の実の破片から出た果汁から煙が上がっていた。
周りにも所々燻っている場所をみると、紺色の果汁がかかっているようだ。
「もしかして、これって………!」
試しに鉛筆ぐらいの細さにした骨を生成して、まだ煙の出ていない紺色の木の実の上に押し当てて、両手を前後に動かしてみる。随分原始的な火おこしになりそうだ。
すると、考えていた通りに簡単に煙が上がってきた。
これ、簡単な摩擦熱で煙が出るぐらい発火点が低いんだ………!
発火点というのは、簡単に言えば火元がなくてもその温度になれば火が点く温度のことだったはず。
つまり、40度が発火点のものがあるとすると、気温が40度になっただけで自然と火が点く。といった感じだったはず。
危険物取扱資格を取るのにこういう勉強が必要だと友人に聞いた気がするけど………。
…一体僕は、前世で何をしていたんだろうか………。益々謎が深まるばかりだ。
でも、これで問題の火をおこす方法ができたことになる。
ダンジョンボックスに入れておこう。
………ダンジョンボックス内で燃えたりしないよね?
川沿いに下る。
小川から川へと変わる場所まで来るまでに色々な生物を見かけた。
文字通り突き刺せるんじゃないかってほど鋭く、引けば肉が切れそうなほど鋭い銀色に輝いている角を持った鹿。
ただの狼かと思ったら、尻尾が鈍器のように丸くて太かったり。
人の顔程の大きさがある羽の生えた蜘蛛とか。
兎かと思えば、イタチのように二本足で立って様子を窺っていて、よく見れば前足が不自然なほど太くて鋭い爪が生えていたり……等々。
不思議生物が本当に多い。何故か僕を見るとすぐに奥へと逃げる。
逃げたいのはむしろこっちなんだけど。
何匹か仕留めようかと思ったけど、食べられるか分からないからやめた。
毒を持っているかもしれないし。
喉が渇いた。
骨生成で平らな、真ん中に行くほど凹んでいる盃を作り、水を掬う。
「……はぁ」
ここ数日、森の中で過ごしてから川を下ってきたけど、人どころか人っぽい生活の痕跡すら見えない。
僕以外の人がこの世界にいないんじゃないかという錯覚に陥りそうだ。
本当にいないかもしれないから錯覚ですらないかもしれないけど。
考え事をしていた所為で、川の水から近づいてくる影に気付くのが遅れた。
川の水が膨れ上がったかと思うと、ワニのような大きな口と牙を持った何かに襲われ、気付いた時には右足が噛まれる瞬間だった。
「…っ!」
しかも、間の悪いことに驚いた拍子に足を滑らせてしまった。
あぁ…このままだと引きずり込まれるか右足を喰われる、と思った瞬間。
滑らせて振り上げた足が上顎を蹴り上げるような形になり、バキボキと音を立てながらその巨体を水から引き上げながら空中へと舞い上がっていった。
【レベルアップしました。Lv2になりました】
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【レベルアップしました。Lv20になりました】
【呪いの効果でLv1になりました。】
一本釣りされたカツオのように上がったかと思えば水面に叩きつけられ、襲ってきた生物の全体が晒された。
ワニのような鋭い牙が生えた顎を持ち、手足の部分にはオットセイやアシカのようにヒレが付いており、そのヒレは太い。そして表面は硬そうな鱗に覆われている。
上顎を蹴り砕けたときに脳までダメージがいったのか、水面上に出ている目を見ても既に死んでいることを伺わせる。
「はぁー。ビックリした-!」
水を飲むのも一苦労だ。
どうしよう。今のワニっぽいのを結果的に仕留めたとはいえ、ここで水を掬って飲む気はなくなった。
……はぁ。
少し戻って、上流の水を飲もうと移動しようとした途端、ワニっぽい死体の周りに先程と同じような水の膨らみが幾つもできた後、バキボキと音と赤い水が広がり、ワニの死体は跡形もなく消えていた。
「………」
そして、共食いをしたワニっぽい集団が次々と上陸してくる。その数は20。
迎撃態勢を整えるために骨生成で杭っぽいのを2本作る。
奇声を上げて、大きな口を開けて次々と突っ込んできた。
くっ、以外と速い!
全力で横に避け、一番後ろにいた奴の背中目掛けて骨を突き刺す。
鱗に傷をつけることなくパキッと折れた。骨ぇ-!!
骨武器があまりにも役に立たないことにイラッときて、ワニっぽいやつを軽くでも蹴ることで解消する。
バキボキと骨が砕ける音を響かせながら岩へと吹っ飛んでいく。
「なんで!?」
【レベルアップしました。Lv2になりました】
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【レベルアップしました。Lv20になりました】
【レベルアップしました。Lv20になりました】
【呪いの効果でLv1になりました。】
それを見ても躊躇いなく、残っていた19体がまたも次々に襲ってくる。
骨で刺す(ポキッ)
蹴る
【レベルアップしました(略
骨で刺す(バキッ)
蹴る
【レベルアップ(略
骨。蹴る。骨。骨。殴る。骨―――って、骨弱いわっ!!
20体全て倒したけど、骨で仕留めた数は0。
無駄にMPを使ってしまったよ…。
あ、『鑑定』忘れてた。そこら辺の岩に吹っ飛ばされて絶命したやつの1体に鑑定してみる。
■ワニっぽいの(仮)
種 族:魔物
あれ、やっぱり鑑定で見れる情報が少ないな。ダンジョンの中と外で『鑑定』の効果って違うのかもしれない。
あと、名前が赤い果実と同じようにちゃんとした名前で出ない。
ワニっぽいの、が正式名称じゃないだろうし。………違うよね?仮って出ているし。
【『鑑定Lv1』がレベルアップしました。『鑑定Lv2』になりました】
おっ!鑑定が上がっ…
【呪いの効果で『鑑定Lv1』になりました。】
お前もかー!スキル!!
こうなるんじゃないかなーとか思ってたけどさー。
少しぐらい期待を裏切ってくれても良いのよ?
とりあえず分かったことは、呪いは僕の持っているレベルに関するもの全てに効果がある。
レベル、スキルレベル。そして、手に入れた食料や素材などのアイテムのレベル。
「はぁー………」
倒したワニっぽいのをダンジョンボックスに放り込みながらため息をつく。
【呪いの効果で、スケイルファングLv28がスケイルファングLv1になりました】
はあ。