第1話 「目覚め」
初投稿です。
2話目まで読んで頂けると、この作品の感じが大体分かるかと思います。
よろしくお願いします。
目が覚めると、そこは不思議な空間だった。
僕は半球状の空間に横たわっていて、床や天井には様々な色が混ざりながら光ってプラネタリウムのようになっている。
ここは何処だろう? 思い出そうとしても意識が覚める前のことを何一つ覚えていない。何があったんだっけ。
「お目覚めかね?」
「うわぁっ!!」
ぼーっとしていると後ろから声をかけられた。マジでびっくりした!
「おぉスマンスマン。そこまで驚くとは思わなんだ」
振り向くと空中に炎みたいなものが揺らめいている。よく見ると人の顔のような形をしている。なんだこれ?
「えっと…」
状況を理解できずに、何を言えばいいか分からずに戸惑っていると
「君は、永遠 祝一で合っておるかね?」
とわしゅういち…とわ しゅういち。………永遠 祝一。
薄っすらと思い出してきた。これが僕の名前だ。
うん。今まで思い出せなかったものがこの人(?)の言葉をきっかけとして思い出せた。
なら、他のこともきっかけさえあれば段々と思い出せそうかな。
記憶を失ってても、見て違和感がなければ馴染みのあるものだろうし、違和感があれば馴染みがないものという判断ぐらいはつくだろうし。
とりあえず目の前のものは違和感があるけど。
「あのー…あなたは?」
人………なのか?
とりあえず言葉が通じるから人と仮定していこう。
「ワシはこの空間の番人じゃ。正確には次に行くための案内人じゃの」
聞くと轟々と炎が燃えながら音が聞こえる。
声だと思っていたけど声じゃないな、音だ。
案内人って言ってるから、人で間違いないのかな。
というか……次?
「この空間って何ですか?それと次ってどういうことですか?」
「うむ。お主は死んだ。じゃから、ここはお主が次の人生に進んでもらうために少しばかりの説明をする場所じゃな」
え?死んだ?僕が?
突拍子もないことを言われて混乱する。
死因はなんだろう…。
思い出そうとすると頭に激痛が走って思わず頭に手を当てる。
「おぉ、無理に思い出そうとするとお主に負荷がかかるからやめておいたほうがええ。まぁ、受け入れられない気持ちは分かるが事実なんじゃよ」
「あのー……死因は?」
「スマンがそれには答えられないんじゃ。これも決まりでの」
決まり…か。じゃあしょうがないかな。
ここで泣いたり喚いたりしてもこの人(?)は多分教えてくれないだろう。
はぁ、死んじゃったのか、僕。
「そうですか。じゃあ仕方ないですね」
「随分あっさりと信じるんじゃのう」
僕がすぐに信じたのが意外だったのか、驚きを露にする。
僕はすでに起こってしまったのなら、後悔するより次を考えた方が良いと思っている。勿論、反省はするけど後悔はあまりしない。
じっくり考えることができる状況っていうのはそう多いわけではないし、そもそも人生の時間は限られている。
なら、少しでも早く次へと行くのが良いんじゃないかと思っている。
そう言ったら、友達にポジティブとか言われたっけ。
それに、こんな半球状の空間自体あんまりないだろうし、部屋としてはどうしても立方体とか長方体のイメージが強い。
…何を基準にそう思ったんだ?
うーん。やっぱり記憶がほとんどないっていうのは不便だな。
ちょっと不便だな、で済む問題だしあんまり気にしなくても良いか。
「まぁこんな不思議空間もそうそうないですからね。それで次……というのは?」
「うむ。お主はゲームは好きかね?RPGとかレベルアップがあるようなのは」
ゲーム……頭に靄が掛かって思い出しにくいけど、トランプなどのカードを使うゲームや俗に言う電源が必要なゲーム機とかは思い出せた。
「ゲームですか?好きですよ、どのジャンルでも少しずつはやってましたし」
うん。ゲームは…やってたな。
RPG、SLG、STGなどなど。とりあえず少しずつ触る感じで。
「おぉ、そうか!次の世界というのは剣と魔法のファンタジーの世界での。今の知識と体でそのまま送り込むことになるから都合が良いの」
剣と魔法のファンタジーの世界、か。
少しずつ記憶が戻ってくる。そうだった……漫画とかラノベとかそういうのが好きで読んでたっけ。
一度は行ってみたい世界だな。ちょっとワクワクしてきたかも。
「それじゃあ早速送るぞい」
「あ、はい。お願いします」
「うむ。ではの」
そう言うと僕の足元に魔方陣が浮かぶ。
おぉ!魔法っぽい!いかにもファンタジーだな!
「おぉ、言い忘れておったが、お主に『鑑定』というスキルを渡しておいたからの。レベルやステータスが見えるようになっておるから後で確認してみると良いじゃろ」
「何から何までありがとうございます!」
「いやいや、礼には及ばんのじゃ」
いやー親切な人(?)だなー。
魔方陣からの光が強くなって、僕の意識は途切れた。
「……っく。っくっくっく……ふふふははははっ!!!!」
光が消えて、残った空間に笑い声が響く。
炎のような顔の形が変わり、色も憎悪という感情に染まり、黒く濁っていく。
「祝一、お前は悉く俺の邪魔をしやがって!容姿も勉強もスポーツも女もテメェは俺からあらゆるものを奪いやがって!!その世界で無力な自分を呪い!そして、惨めに死んでゆけ!!!」
口を形作る部分が激しく歪み、拗れていく。
そこには祝一と接していた温和な雰囲気は微塵もなく、怒りと憎しみに溢れていた。
「その為に黒魔術の本まで集めて儀式してやったんだ!精々俺が用意した世界で苦しみながら死んでくれよな!!」
轟々と、空間内の全てを燃やし尽くすかのように燃え盛る。
「その呪いはお前が苦しむためのプレゼントだ!!ひゃっははははははっははっはあっはっはー!!!!!」
そう言って、黒い靄は目的を達したかのように消えていく。後にはただ何もない空間が佇んでいた。