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ぼっちくんのおまけ

作者: シュウ

このお話は『ぼっちデイズ』の15話と16話の間のお話となっております。未読のかたはそちらを読んでからじゃないと意味がわからないと思われます。

 俺は今、危機に立たされている。

 徐々にせまりくる自分の番。隣に立つ木村。そして視線の先にはジェットコースター。

 俺は、この野外学習で生まれて初めての遊園地デビューとなる。その初遊園地で初の乗り物が『道内最大級の三回転ループを体験できる唯一無二のジェットコースター!』と銘打たれたジェットコースターなのは、いかがなものなのか。

 正直未知数だ。乗ったことがないから何とも言えないというのが本音だが、オタ知識から得た情報によると、経験した人間は二つのパターンに分けられる。

 『笑顔で降りてくる人間』と『若干の不快感を得て下りてくる人間』。

 俺はどちらになるのかがまだわからない。

 乗り物酔いはしやすいほうだが、バス限定だし、車や電車なんかでは何ともないことの方が多い。小さい時に祖父と行った海釣りで乗った小型の船でも酔わなかったから、そーゆー意味では大丈夫なのかもしれない。というか、大丈夫だと思いたい。


「……あんた、大丈夫?」

「あ? なにがだよ」

「もしかしてジェットコースター怖い系?」


 こいつはなんてことを聞いてくるんだ。


「俺が怖い? そんなことあるわけねぇだろ」

「だよね。今どきジェットコースターなんて怖くないよね。しかも道内のやつ」


 え? 道内最大級って、本州から比べると大したことないの? 我々四天王の中で最弱のポジションが北海道なの?


「お、おう! ってことは乗ったことあんのかよ」

「ないけど、ルスツとかのやつのほうが怖いでしょ」

「そうなのか?」

「だって足ブラブラしてるのよ? そんな状態であのスピード……あれは痺れたわ」


 こいつ、武者震いしてやがる。ちょっと帰ってもいいですかね? こんなスピード狂みたいなやつと一緒にいるところを誰かに見られたら、それだけで変な噂が広まっちゃいそうで嫌なんだけど。

 そんなこんなでジェットコースターの順番がやってきてしまった。

 俺と木村が乗るのは、七列あるうちの前から三列目。真ん中らへん。

 座席に座り、係員の言うとおりにベルトを締め、上から下ろされるストッパーをしっかりと掴む。

 隣の木村を見ると、なんか知らんけど笑顔で、これから訪れる恐怖を楽しんでいるかのようだった。

 こっちは若干緊張気味なのに、なんて能天気なやつだ。いや、神経が図太いのか。防御力が高くなりやすいのか。


「楽しみね」

「ん」


 もうドキドキしてきた。

 ついに動き出し、ガコガコと音を立てて徐々にゆっくりと奇妙な冒険でも始まるかのように傾斜を上っていく。ゆっくり。ゆっくり。あートイレ行っておけばよかった。

 そんなことくらいしか考える余裕もなく、ジェットコースターは頂上へと到達する。

 思った以上に高い。

 遊園地全体が嫌でも視界に入ってきた。

 そして。


「「キャー!!」」


 若干フライング気味なリア充達の悲鳴と共に、コースターは下に傾いた。

 スピードは速くなっていたのだが、それ以上に落下の時にかかるGのほうがきつかった。

 俺は何も考えることもできず、ただストッパーをしっかりと掴み、レールの行方を追っていた。

 右に左に上に下に。

 目で追っていても先がわからないからもうわけがわからなくなる。

 そしてついに例の三回転連続ループへと差し掛かる。

 その直前まででだいぶ余裕がなくなっていたのだが、上り坂の時にかかるGとスピードで景色がグルグルと回っていく。もうグルグルグルグルルゲルグググルグル。

 俺は、その景色の回転とGのせいで、酔った。油断したら吐きそうなほどに酔った。

 それがメインディッシュだったようで、デザートにわずかな起伏があった程度で、スタート地点兼ゴール地点へと帰ってきた。俺は限界がすぐそこまで来ていた。きっとあともう一つデザートがあったら映像化されるときには光先輩のお世話にならないといけないところだった。危険が危ない。

 コースターが止まり、持っていたストッパーが上がっていく。

 隣の木村が立ち上がったのを視界の端にとらえ、俺も続いて立とうとする。

 しかし足に力が入らず、座席に手をつくことで何とか立ち上がることができた。その先の階段も手すりを使いながらゆっくりと降りていく。


「何ノロノロしてんのよ。さっさと次行くわよ」


 腰に手を当ててツンケンする木村。

 そんな木村に俺は何も言えなかった。いや、口を開けなかった。息も吐けなかった。息を大きく吐いたら他の何かも吐いてしまいそうだった。

 俺の様子を見て不思議に思ったのか、階段を上って近寄ってくる。


「ちょっと……真っ青だけど大丈夫なの?」


 なんだろ。木村のやさしさが痛い。


「いや、ちょっともう……うっ」


 俺はこみ上げる何かを出てこないように堪えて、口元を両手で押さえた。


「嘘でしょ!? 向こうにトイレあるから!」


 俺は木村が指さしたほうへと走り、そのまま便器にすべてをぶちまけた。

 結果はセーフだったのだが、何か大切なものまで出て行ってしまったような空虚感に襲われた。

 もう絶対にジェットコースターになんて乗らない。キンキキッズには騙されないぞ。何がロマンスだ。




おしまい

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