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レゾリューション 2版  作者: 颶風 爽籟
喜べ、出逢いに出逢いだ
3/4

3話

あれから数日が経ち、私はこの世界の生活にもだいぶ慣れてきた。

物や見た目は違うが、使い勝手は似ているため意外とどうにかなる。


……ところで言っていなかったが、私の職場は 普通に市役所みたいな場所だった。

ただの会社員だったはずの私からすれば、とんでもなく出世している。給料もいい。しかし――忙しい。

多分、元の世界より忙しいぞこの市役所。何せ人口も人種(?)も桁違いだ。書類をまとめるだけでも一苦労だった。


疲れのせいか、思考は歪み、背も丸くなる。


あ〜、さっきのアレ絶対カスハラだったよな。

もういい。顔は覚えた。毎日呪っとこ。


苛立ちを抑えながら、道の途中にある酒場へ寄り、適当におつまみと菓子を買い込む。


――そうです。今日は勇気を出す日なのだ。

カルドランさんに借りた金を返しに行くのである。


いや、本当に悩んだよ。あんな怪しい人に自分から関わりに行くなんてさ。

でも借りたままは駄目だろ。しかもいい歳した大人が。


何度も自分に言い聞かせ、名刺に書かれた住所へ向かうと、目的の建物らしきものを見つけた。


ふむ、見た目は普通の西欧風だ。少し気取ってはいるが。

石造りの外壁、アーチの窓。入口には銀色の文字で店名。


『酒場 シャヴァナー』


……あれ、店名違わない?

名刺を見直しても住所はここだ。どういうことだ。


少し悩んだが、せっかく来たのだし歩道で突っ立っていても邪魔だ。

覚悟を決めてドアを開けると、カランコロンと心地よいベルが鳴り、アルコールと果物の甘い匂いが流れ込む。


さっきの酒場はスパイス系だったが、ここは甘い香りだ。

店内は小さなロビーで、木製の椅子とカウンター。その奥の受付で、ゴールドヘアの美人がコップを磨いている。


うっわ……存在感強!?オーラありすぎ。


思わず見惚れ、まつ毛や髪の輝きに目を奪われる。

女性はふと視線をこちらへ向けた。ターコイズブルーの瞳がつり目に映えている。

そして――耳が長い。……エルフじゃん。そりゃ美しいわけだ。


女性の無表情に気圧されつつ受付に近寄る。


「すみません、少しお聞きしたいことがあって」


「下着の色ですか?」


「聞くわけねぇだろそんなこと」


凛々しい声とのギャップで余計に驚く。

いや、私そんなジロジロ見てた?変態だと思われてる?……く、確かに不躾だった。


「そうではなくて。マルチ護衛株式会社ヨースターを探していまして」


話題を変えると、女性は「なるほど」と頷き、革表紙の本を差し出した。

開くと、ヨースターの料金表。どうやらこの建物と併用らしい。


「生憎ですがヴァンは不在です。先に依頼内容を」


万年筆を構えるので慌てて止める。


「あ、依頼じゃなく。この前助けられたので、支払いとお礼を渡したくて」


女性は手を止め、じっと私の顔を見る。


うわ……美人の無表情ファンサ怖……。


「なるほど。失礼しました。ヴァンは先程出たばかりです」


ああ、すれ違ったか。まあ都合はいい。

……というか今の無言タイムなんだったんだ。


「じゃあ預けるので渡しておいてください」


封筒と袋を差し出すと、女性は無表情のまま中身を確認し始める。


毒が入ってないか調べてるのかな、とか考えつつ、会話が弾みそうにないので黙る。

手持ち無沙汰に店内を見回す。客はいない。従業員も……いない?


「従業員は私一人でございます」


「え?……あ、あぁ。そうなんですね」


心を読まれ狼狽える。女性は気にせず淡々と続ける。


「ヴァンに関わるのはやめた方が良いかと」


「?」


「あなたから、ろくでもない運命が見えます。それもとびきり厄介なものが」


「……はぁ?」


元カノのだる絡み?いや、違うか。もしくは占い系?

困惑しながら見返すと、女性の瞳の奥に、宇宙のような青い輝きが一瞬だけ宿った。


息を飲む。瞬きすると消えている。

なんだ今の。吸い込まれた?


「確認終わりました。毒は入っていないようで安心しました」


……とんでもない一言を添え、彼女は初めて微笑んだ。

私は釣られて愛想笑いを浮かべ、胸が少し高鳴る。


帰ろうとしたその時、扉が乱暴に開きベルが煩く鳴る。


「トリーナさん!ヴァンさんいる!?」


小太りの中年男が駆け込んでくる。


「先程出ましたよ。戻るまでまだかかります」


トリーナ――女性は楽しそうに笑う。

え、めっちゃ笑うじゃん。やっぱ嫌われてたんだ私……。


男はため息をつきつつ腰を下ろし、汗を拭く。


「あの事件のことを話したかったのに」


「事件?」


聞くつもりなかったのに反応してしまった。


「知らないのかい嬢ちゃん!」


いや最近来たんだよここ……。


事情を話すと、男は首を振り、


「知らないとは、とんだ田舎モンだ。この街じゃあの事件で持ち切りだよ」


その言い方は気になる。

怖いけど、好奇心が勝ってしまう。


「教えてやるよ。その事件は――」


「その事件は……?」


「 神隠しだよ。 」


…………はぁ?


「しかも頻度が異常だ。前は年一だったのが今や月に1、2回。狙われるのは若者だって話だ」


「へぇ」


「へぇじゃないよ!」


もう興味失せた。

だが男はムッとして続ける。


「監視カメラにも魔法探知機にも映らず消えるんだぞ!普通じゃない!」


「悪魔は滅多に出ませんよ」


トリーナが淡々と断言する。


「だがなぁ、こんな証明できない消え方されると、魔王の再来じゃないかって疑っちまう」


二人は楽しそうに話を弾ませる。


――そうだ、ここファンタジー世界だったわ。

そりゃ話についていけない。


疎外感で胸がじんわり痛む。帰ろう。


荷物を持って出口へ向かうと、


「気をつけなよーお嬢ちゃん!」


と呼びかけられ、手だけ振って外へ出た。

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