81. 訪問
MIST隊員を狙った急襲から一週間、隊外構成員の外出を規制していたこともあり、このあいだは創世会による襲撃はなかった。
しかし、ちょうど八日目、まだ創世会への対応策を決めかねている時に事件は起こる。
この日、深夜の新宿御苑で悪霊騒ぎがあったので、MISTから若い隊外構成員三名が派遣された。憑依の疑いが持たれたのは中年の男で、警察官数人を異常な力で振り切って逃げた。そのことから、霊的事件と判断され、MISTに要請が来たのである。
創世会の襲撃が一週間なかったこと、悪霊がたった一体であること、そしてこの三名の「少しでも隊員たちの役に立ちたい」という強い希望から、椿木は隊員でなく彼らを派遣したのだが、この判断が失敗であった。
これは、創世会の仕組んだ罠だったのである。
「よしっ、除霊終わったぞ」
隊外構成員たちは、守護霊を使って悪霊の魂帯を斬り、見事に除霊を成功させた。しかし、その直後に白いスーツを着た者数名に囲まれた。
「創世会か!? まずい!!」
「待って、この人数なら私たちだけでどうにかなるわ!」
隊外構成員たちが、攻撃態勢を取りながら話す。
「確かに、強い魂力を持つ者もいなさそうだっ。こいつら、多分、生来の霊能者じゃないぞっ」
「そっ、そうだな。これなら勝てそうだっ」
隊外構成員といっても、彼らは全員が生来の霊能者である。したがって、素人に霊体を召喚させただけの疑似的な霊能者より確実に強い。それゆえ、彼らが自分たちだけで対処できると判断することは、全く不思議なことではなかった。
実際、ここに集まった創世会の信者は、全員がこの疑似的な霊能者である。そのため、このまま戦えば、隊外構成員たちが勝つのは間違いないだろう。ただ、それは創世会の者たちも分かっていることだった。
「よし、じゃあここは私たちだけで切り抜けまし……」
女性構成員が、言葉の途中で動きを止める。
「どうし……!!」
別の隊外構成員も、女性構成員の視線の先に目をやった瞬間、動きを止めた。
――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、――
隊外構成員たちの目に入ったのは、何十人もの創世会の信者だったのである。信者の大群が、こちらに向かって集まってきていた。
「……そんな」
信者のあまりの多さに、奮起していた隊外構成員たちの中に恐怖が芽生え始める。
創世会の信者たちは、前方からだけでなく、四方八方から集まってきていた。しかも全員が背後や足元に守護霊を携えている。
最終的に、隊外構成員を取り囲んだ信者は百人を超えた。
「……こ、こんなに隠れてたのか」
隊外構成員たちが愕然としていると、信者の一人が「うおぉぉぉぉー!!」と叫ぶ。それに呼応して、信者たちが一斉に襲いかかってきた。
「やばいっ、逃げ……」
「きゃあぁぁぁぁーーーー!」
隊外構成員たちが、一気に信者たちの波に呑まれていく。
数の暴力によって、隊外構成員たちの叫び声が辺りに響き渡った。
微かな血と汗の匂いが、新宿御苑に吹く生暖かい夜風に混じる。
――ピィーポー、ピィーポー――
新宿御苑に救急車二台が派遣されたのは、それから二時間後だった。
「急げ!」
搬送先の病院に狭間と蛍が駆けつけると、そこには守護霊を除霊され、自身も重症を負った隊外構成員たちがいた。
「蛍、三人を同時治療じゃっ」
「はい!」
狭間の声掛けによって、二人がすぐに治療に取りかかる。
そこから、狭間と蛍の夜通しの治療が始まった。
「私たちが来たから、もう大丈夫だからねっ」
蛍の頼もしい言葉とともに、隊外構成員たちの長い夜が過ぎていく。
――ドンッ!――
次の日の早朝、帝霧館の会議室において、赤星の壁を殴る音が響き渡った。
「あいつら、汚ねえ真似しやがってっ」
「まさか、このような罠まで仕掛けてくるとはな。今までの創世会からは考えられん」
赤星の言葉に、椿木が重い口調で反応する。
それを二番隊および三番隊の隊員、そしてRAINから研修に来ている二人が、深刻な顔で聞いていた。
「これは全て私の責任だ。過去の創世会の行動から推測し、判断を誤った」
「いや、彼らがここまで非道に徹するとは、誰も予想がつかなかった。だから、自分を責めないでください」
悔いている椿木に対し、京園寺が冷静に言葉をかける。
「そうよ、椿木さん。それに、やられた子たち、行くのを強く主張したそうじゃない。その状況だったら、アタシだってゴーサイン出すわよ」
「……桜」
「だから、切り替えて今後の対策を練りましょ。ねっ」
そう言うと、桜は椿木に軽くウィンクをした。
「……そうだな。これ以上犠牲者を出さないためにも、すぐに対策を考えなければな」
椿木に、いつもの冷静さが戻る。
ここで、巫月が「それについてですが……」と言って話し始めた。
「創世会にいた友人の話によると、今、創世会では急速に幻宝を求める声が高まっており、このままでは数万人規模の騒乱が起きてもおかしくない状況らしいです」
「……それは、あの聡という友人からの情報か?」
椿木が訊くと、巫月は「ええ」と答えて話を続ける。
「こういう状況になってしまうと、力づくで抑え込もうとすればするほど、逆に事態が大きくなっていく気がします。創世会の上の人間たちを屈服させても、それで火が消えるとは思えません」
「……逝ってしまった者にもう一度会いたい、そういう気持ちは、やはり強いということだな。強制や洗脳によるものではないのだから、簡単に消えるわけがないか」
「そうですね。ですからこの戦いは、創世会を潰す戦い方でなく、信者たちの意志を変える戦い方が必要になってくると思います」
巫月がそう言うと、椿木は「そうだな」と厳しい表情を見せた。
「難しい話ですね。積極的に戦うと敵が過激化する恐れがあり、そうなると数万人の逮捕者が出る。そんなことが日本で起きたら、MISTの存在も世に出るでしょうし、もしかしたら創世会に賛同する者も出てくるかもしれない。かといって、このまま創世会の襲撃を逐次撃破していくだけでは、消耗戦になってしまう。これはかなり……」
――トントンッ――
京園寺が話していると、途中で会議室のドアをノックする音が聞こえる。
ノックの後、ドアを開けて入ってきたのは佐治であった。
いつも難しい顔をしている印象の佐治だが、その佐治が更に難しい顔をしている。
「会議中、申し訳ありません。椿木さんにご報告がありまして」
佐治は、椿木のもとに向かっていくと、「ここでお伝えしても構いませんか?」と椿木に訊いた。
「構わんよ。私は彼らに隠し事をするつもりはないからな」
「承知しました。ではご報告いたします。たった今、椿木さんに会いたいというお客様がいらっしゃいました」
「客? それなら私の部屋で待たせておけばいいんじゃないか?」
「それが、普通のお客様ではないもので……」
佐治が少し言葉を詰まらせてから、客の名を告げる。
「その者は、創世会の白珀だと申しております」
「!!」
その名を聞いて、椿木だけでなく、会議室にいる者全員が驚きの表情を見せた。




