74. 赤い獣
「まずは雑魚からだ。おらあっ!!」
赤星が冴に向かって跳躍し、拳を振り上げる。
(なっ、速いっ!! やられるっ!!!!)
冴は、このたった一瞬でやられることを覚悟した。それほど赤星の威圧感は凄まじかった。
――ドガンッ!!――
「えっ!?」
しかし赤星の拳は、冴のすぐ裏にいた男にぶち当たる。
「ぐがあっ」
殴られた男は、他の創世会の者を巻き込んで後ろに吹っ飛んだ。
(こいつ、最初からアタシの裏にいた奴を狙ってたのか? 何で前にいるアタシを狙わなかったのっ?)
冴の中に疑問が湧く。
――ダッ!――
赤星は、そのまま冴を無視し、後方で待機していた敵集団に攻撃を始めた。
「うがあっ!」
「な、何だこいつ、げほぉっ!」
赤星が、獣のように走り回り、拳一発で次々と敵を殴り倒していく。
「くっ、くそっ」
そう言いながら、敵の一人が自身の背後に武士の守護霊を出した。その男は、先ほど吹っ飛んだ入場口の鉄扉を両手で持ち上げ、そのまま赤星に襲いかかる。
――ドゴーーーーンッッッッ!!――
しかし、赤星は跳躍して、この敵を鉄扉ごと上から拳で打ちつけた。
「ぎゃはあっ!!!!」
鉄扉に叩き潰されるかたちとなり、敵が潰れた蛙のような状態となる。
「なっ! だっ、大丈夫か!? おいっ!!」
蛙男に声をかけた敵は、背後に空手家の守護霊を出したまま、驚きで動きが止まった。
「な、何だよ、こいつ!? 俺たちだって守護霊持ちだぞっ。何でこんなに差がある……ぐほぉっ!!」
男が話の途中で赤星の蹴りを食らい、後ろにいたボクサーの守護霊を持つ男と共に吹っ飛ぶ。
吹っ飛ばされた敵二人から、骨が折れる鈍い音がした。
(……何なんだ、この男はっ? 連れてきた男たちだって決して弱い奴らじゃない。創世会の中では武闘派と呼ばれているような連中だぞっ)
赤星の戦いぶりを見て、鉄心が愕然とする。
「どうした、おらあっ!!!」
咆哮のように叫ぶ赤星に対して、数では圧倒的に有利だった敵が、次第に恐怖を感じ始めた。
(何……こいつ。目が……獣。赤い獣っ)
スケートリンクに殴打の鈍い音が響き渡る中、冴の目には赤星が獣に見え始める。恐怖に耐えきれず、思わず鉄心に叫んだ。
「鉄心、早くあいつを止めて!!」
鉄心は、「あ、ああ」と我に返ったように答えると、赤星が他の敵を相手にしている隙を狙って、赤星に突っ込む。
鉄心が走りだすと、ライオンの守護霊も赤星に向かって走りだした。
『ガオォォォォ!!』
ライオンの咆哮とともに、鉄心が思い切り拳を振り上げる。そして、そのまま赤星に向かって拳を振り下ろした。
――ドゴォーーーーンッ!!――
鉄心の重い一撃が、赤星の顔に綺麗に決まる。
それにより赤星は、スケートリンクの外にまで吹っ飛んだ。
「よし」
鉄心が笑みを見せる。これまで戦った相手で、これだけの直撃を受けて立ち上がった者はいなかったため、この笑みは鉄心にとって勝利の笑みであった。
しかし、その笑みはすぐに消え去る。
「あー、痛てえ。さすが、ライオンの力ってのはすげえなあ」
赤星は頬を撫でながら、すぐに立ち上がった。殴られたことにより、先ほどより少し落ち着きを取り戻したようである。
「な、なんなのこの男は。強いとは聞いていたけど、ここまでとは聞いてないっ」
冴が叫ぶ中、赤星は残りの敵の数を数え始めた。
「ひとり、ふたり、さんにん、雑魚はあと三人か……」
数え終わると、歩きながら残りの三人のもとに向かい、一人一人を一発で仕留めていく。
「や、やめ、うごほっ!」
「ちょ、がはあっ!」
一人は拳で、残りは蹴りで倒した。
赤星は、そのまま冴のもとに向かう。
「くっ」
冴は焦りながらも構えた。しかし、眼前で赤星が足を止める。
「あっ、こいつは一番最後だった」
そう言うと、赤星は振り返って、鉄心のほうに歩きだした。
「ちょ、ちょっと待ってっ。お前、さっきもアタシだけ狙わなかったでしょ? 何で? 女だからっ?」
冴が訊くと、赤星が振り返って答える。
「……いや。そういうんじゃねえよ。そもそも俺にとって女は雅さんしかいねーし。他の女は女じゃねーし。お前を一番最後にしてるのは、お前を倒したら半蔵の封印が解けちまうからだよ。それじゃ面白くねえだろ?」
「な、何ですって!?」
冴が困惑を見せる中、赤星はまた鉄心に向かって歩き始めた。
「……驚いたな。もともとの才能もあるだろうが、どんな志があればそこまで自分を鍛えられるんだ? きっと、よほどの大志なんだろう。それだけ聞かせてくれないか?」
赤星が鉄心の前に立つと、鉄心は冷や汗をかきながら訊いた。
「……志? そんなもん、好きな女のために決まってるじゃねーか。好きな女を守れるぐらい強くなりてえ。ただ、それだけだ」
「っ!?」
赤星の答えを聞いた鉄心は、驚いて口をあんぐりとさせる。
「すっ、好きな女のためだと!? そんな低俗なことのために、そこまで強くなったのか?」
「あ? なんか文句あんのかよ? 戦う理由なんてそういうもんだろう」
赤星は、さも当たり前のように答えた。
「創世会の者は皆、この世とあの世を繋げ、死による悲しみをなくそうと日々努力してきた。そういう高い志があるからこそ戦えるのだっ。お前のようにくだらん理由では戦ってはいないっ!」
鉄心が大声で強調する。
それに対し、赤星は更に大声で怒鳴った。
「バカ野郎! 愛以上の戦う理由なんてあるわけねえだろ!!」
「なっ……」
鉄心が、赤星のこの言葉で一気に気圧されする。
「くっ、お前のような者に質問した私が間違っていた。だが、今ので分かったぞ。私たちのように崇高な目的がある人間が、お前のような者に負けるはずがない!」
「ほお、じゃあ証明してみろよ。お前から殴らせてやるから来いよ」
そう言うと、赤星は、無防備な顔を鉄心の前に突き出した。




