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73. 劣勢

 巫月が聡との戦いを終えた頃、赤星は横浜の屋内スケート場にいた。

 夏季休業中ということで、スケートリンクに氷は張られていない。

 この誰もいないスケートリンクのど真ん中に、赤星は寝転んでいた。


(ひと)()のない所に敵を誘い出せっつってもなあ。あんま思い浮かぶ場所もねえし、結局ここに来ちまったぜえ」


 天井からぶら下がっているいくつもの照明を見ながら、赤星が呟く。


「何年ぶりだ、ここに来んのは……」


 赤星は、何かを思い出しながら、懐かしそうな目をした。

 想い人の顔が赤星の心に浮かび、胸を締めつける。


(会いてえな、雅さんに……)


――ドーーーーンッ!――


 その時、閉まっていた入場口の鉄扉が、突然吹き飛んだ。

 そこから、大柄で坊主頭の男と、小柄で目つきの悪い女が入ってくる。続けて、ぞろぞろと白いスーツを着た者たちが入ってきた。


「古臭い場所だな。(さえ)、奴は本当にこんな所にいるのか?」


 ドアを蹴り飛ばしたと思われる大柄の男が、冴という小柄の女に話しかける。


「ああ、間違いなくここだと指示があった。見ろ、あそこだ、鉄心(てっしん)


 冴が言うと、鉄心と呼ばれた男は、スケートリンクの中央に目を向けた。

 そこには、彼らの侵入に反応し、体を起こした赤星がいる。


「……本当に来たか」


 赤星は、焦ることなく鉄心たちを見据えていた。


「しっかし、どうやって俺の居場所が分かったんだ、こいつら? ん?」


「うおぉぉぉぉ!!」


 赤星が疑問を口にしていると、鉄心がいきなり向かってくる。

 鉄心はそのまま拳を振り上げ、赤星に殴りかかった。


「おっとっ」


 赤星が、大きく跳ねて両脚を広げる。

 結果的に、鉄心が赤星の股のあいだをくぐることになった。


――ボガンッ!――


 振り下ろした鉄心の拳で、スケートリンクを囲む壁の一部が破壊される。


「おいおい、それ以上思い出の場所を壊すんじゃねーよ」


 赤星は着地すると、振り向いて鉄心に言った。


「んで、お前らはやっぱり創世会の人間なのか?」


 赤星が話しかけると、鉄心が一旦拳を下ろす。


――フオ……ォ……ン……――


 この時、赤星の背後で、冴が密かに守護霊を出した。

 冴の守護霊は、短髪の中年女性の霊体で、出現した瞬間から咒文の詠唱を始めている。


「ああ、そうだ。時間が勿体ないのですぐに終わらそうと思ったが、やはり隊員ともなると他の者とは違うな」


「褒めてくれて、あんがとよ。で、目的は?」


「創世のためだ。MISTについては、イズミという霊能者以外は全て守護霊を除霊させてもらう」


 鉄心が真剣な面持ちで答えると、赤星は嘲笑の笑みを見せた。


「へえ。創世ねえ。よく分かんねえが、お前たちをぶっ飛ばせばいいってことは確かなようだ。そこんとこは分かりやすくていいぜ。じゃあ来いよ、おっさん」


「ふむ、品のない男だな。では、遠慮なく守護霊を呼ばせてもらうぞ。はあっ!」


――フオォォンッ――


『ガルルルルッ!!』


 鉄心の大きな声とともに、隣にライオンの霊体が現れる


「おー、ライオンの守護霊かよお。カッコいいなあ。まあ、マンモスだの恐竜だのの守護霊を見た後だと、ちょっと迫力不足だけどな」


 赤星は、ライオンの守護霊に動じることなく、戦闘態勢を取りながら言った。


「ほざけ、小僧」


「その小僧に今からお前はやられんだよっ。見てな。半蔵っ、出てこ……」


 ここで、赤星が半蔵を呼ぼうとした瞬間、後ろから冴の声が聞こえる。


冝保(ぎぼ)さん、お願いっ!」


 冴の声により、宜保と呼ばれた守護霊が咒文を結んだ。


「走れ言霊、短刻霊封!!」


――シュルルルルルルッ――


 咒文により、青白い光を放つ稲わらのロープが現れ、ベルトのように赤星の腰を縛る。


「何だ!?」


 焦る赤星に、冴が「お前の守護霊を一時的に封印させてもらったよ」と言い放った。


「なにっ? マジかよっ。おい、半蔵っ!」


 赤星がその後も半蔵の名前を連呼するが、半蔵からの返事はない。


「アタシの守護霊はねえ、生前に除霊師をやってた人なんだよ。だから、こんなことができちゃうんだ」


 冴は、赤星を見据えながら嫌な笑みを浮かべた。


「くそっ」


 赤星がロープを取ろうとするが、手がすり抜ける。


「冴、手助けなどしなくても私一人で倒せたものを」


「鉄心、こいつはMISTの赤星だよ。かなりの実力者だ。油断せずに一気にやってしまおう。創世のために時間を無駄にしちゃいけない」


 冴の加勢を良く思わなかった鉄心だったが、冴の言葉を聞くと、素直に「そうだな、すまなかった」と謝罪をした。


「こりゃあ、さすがにやべ……ん……これ……」


 冴と鉄心が話していると、赤星が拳を握ったり開いたりし始める。赤星は、そのまま二人に話しかけた。


「おい、お前ら。俺の守護霊を封印したって言ってたけど、魂力はそのままなのか?」


「ああ。そうさ。アタシの守護霊の能力も、そこまで都合のいい能力じゃない。魂力までは封じられてないよ。でも、守護霊が出せなきゃ、ただの腕っぷしの強い人間だからね。もう諦めたほうがいいよ」


 冴がそう言うと、赤星は少しきょとんとした。その後、安堵の表情を見せる。


「なあんだ。そういうことなら早く言ってくれ。ちょっと焦っちまったじゃねえかよ」


「……何だって? 自分が置かれた状況が分かってないの、お前?」


 赤星の言葉に、冴が呆れた顔で反応した。


「分かってるよ。要は、半蔵の力を借りずにお前たちをぶっとばせばいいだけだろ?」


「守護霊の特殊能力や咒文を使わずに、自身の魂力だけでそんなことができると思っているのか?」


 鉄心が会話に割って入り、赤星を睨みつけて問う。

 赤星は腕を回しながら、不敵な笑みを見せて言った。


「ああ、思ってるぜ。むしろ俺は、こういう劣勢の状況のほうが燃えるんでな。こういうときの俺はめちゃくちゃ強えぞっ!!」


――ブアァァァァッッッッ!――


 赤星から、勢いよく魂力の光が噴き出す。


「なっ、何だこの魂力の質量は!?」


 鉄心は、赤星の魂力の光を見ると、口を開いてたじろいだ。


「しかも、お前は俺の初デートの場所を馬鹿にした。それだけじゃ飽き足らず一部を破壊もした。その意味が分かるか?」


「な……何を言っているんだ、お前はっ!?」


 鉄心が、赤星の言っていることが理解できずに叫ぶ。


「雅さんとの思い出に傷をつけたら、それだけで重罪なんだよっ!!」


 “雅”という名前を口に出した途端、赤星の魂力の光は更に大きくなった。


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